二章 スケルトン冒険者、アンデッドらしく地下ダンジョンに挑む
二章 スケルトン冒険者、アンデッドらしく地下ダンジョンに挑む(1/6)
「ここが今回の依頼にあった遺跡かね……?」
アルがいるのはアロンダを出て東へ二日、といった地点である。いい
よっこいしょ、といい感じに遺跡が屋根になった場所でアルが
周囲を見回す。どうやら、百年単位で経過した遺跡のようだ。
「仕事は明日にしてっと……一応、火を起こすかな」
スケルトンであるアルには、火による暖はあまり必要でもないが、気分は違うものだ。
「墓場にいたころはゴーストのケビンとかウィスプ君が明かりになってくれたっけか」
アルは旅立った場所のアンデッド仲間たちを
(俺のゲームとかも無事かなあ……はあ……もう少し持ってくりゃ良かったか)
物思いに
「一人旅ってのは静かなもんだなあ……そして
勇者として旅していた頃は、すぐに二人連れ、ほどなく三人と、一人でいた期間はほとんど無かった。誰とも話せないのはちょっと寂しいアルである。
「いやはや、マッピング仕事とか久しぶりだな。ちょいと景気良く
未踏破のダンジョンや遺跡は、地図を作り組合へ提出すれば
「む」
──気配が来る。
思わず剣の
アルはそこまで
言うまでもないが、アルはスケルトン──彼の方こそ魔物の類である。
「あ、やっべ……!」
身を隠そうとしたが、
「すまない。こちらも野宿なのだが、火種を貸してくれな……」
「うおー間に合わねー!」
現れたのは、鮮やかな長い赤髪に青色の目、体にフィットした白金の
多少はアルも名が売れたとはいえ、それはアロンダ周辺に限っての話だ。
「っ、
アロンダ以外の冒険者では、無論こうなる。彼女は即座に抜剣し、構えた。
「ですよね! 待って待って! ストップ! おねがい!」
「
「お、おお……話が通じるか……? 実はですね……」
一瞬鈍った殺気に、アルが言葉を続けようとする。しかし、
「──年季の入った個体のようだな。油断ならん。この辺りに出る野盗とは貴様のことか」
「そう来るかちくしょー!」
とアルは
「違う! 悪いスケルトンじゃないです! 冒険者登録もしてる!」
「冒険者だと……?」
再び動きを止めた女騎士に、こくこくとアルは
「ぎゃー出てこねえ! 冒険者証どこ行ったどこ行った!」
「スケルトンの冒険者など聞いたこともない……!
「んもー! ちょっとイケるかと思ったけども!」
この女性が旅の途中であれば、組合の通達などまだ聞いているはずもない。やむなく女の突進を迎え
女は左右へのランダムな踏み込みからアルの右方へ飛び込み、横
(うへえ、結構鋭い!)
アルは抜剣はせず、
「スケルトン
衝撃を受けたらしい女は、しかし続けての剣撃を放つ。それをアルは
「っ……、私の剣を片手で受けるとは!」
「いや結構苦労してるけどね!」
言葉通りに、徐々に女の剣がアルに迫ってくる。さらに幾度目かの剣線が、ついにアルを
「その首、取った!」
「危なっ」
アルはひょい、と
「…………」「…………」
アルは手骨を離してがしょんと頭を戻し、女と見つめ合う。
(とりあえず笑顔)
「……おちょくるかぁっ!」
(良かれと思ったのに!)
「ちょっ、貴様! 逃げるな!」
女も立ち直り追いかけるが、差は開いていく。たき火の範囲から離れ、周囲が
「くそっ、見失ったか……! スケルトンがあんなに速く走るとは……。知能があり剣の腕も立ち機敏なスケルトン……。突然変異か上位種か、それとも生前がよほどの達人か。
──どれにせよ危険だ、何としても
数分後。アルの逃走はかえって
女騎士──ミクトラ・クートは手元のカンテラに火を
(冒険者を始めて二年……剣にはいささかの自負はあるが……やはり未熟か。
経験不足だけは
(しかも、他の冒険者
冒険者の男女比は七・三と言われる。女性特有の事情などは冒険者という人種には理解が薄いことに加え、ミクトラは
(経験不足の身で一人仕事を好むなど、良くは無いと思っているのだが……)
この日も、周辺の村々に野盗が出没し、人死にも出たという調査依頼を受けての行動であった。が、長距離移動経験の浅さが
そうして、今の状況である。思考が現在に戻ってくるが、テンションは低いままだ。
(……見失ってしまったのはまずい。
月明かりはわずかにあるものの、火から離れれば夜の
スケルトンの視覚はミクトラには見当もつかないが、人間より闇に弱いと言うこともないだろうと推測している。
「はっ……明かりなど持っていれば、こちらが不意を打たれる可能性もあるか……」
ミクトラは小声で
「とりあえず、先ほどの野営地に戻ってみ──」
意識したわけではなく、反応が意志を上回った。ミクトラは体を倒しながらカンテラを地面に乱暴に置き、剣を振り上げる。金属音。
「っ、来たか!」
不意打ちを
「何……!?」
しかし、
◆ゴブリン(人類敵対度……A。ほぼ種族全体が敵対的。会話も大半が不可能)
勇者アルヴィス
「スケルトンの仲間か!
ミクトラが突っかける。リーチ差を
(もらった)
確信して踏み込む直前。脇から人影が現れる。声にならない
剣は
(っ、私はバカか! ゴブリンが一体で
彼女は心の中で自分を
倒れながら見るのは
ゴブリン二体ならまだやれる。そう自分を
悲鳴を上げそうになりながらどうにか一撃をしのぐ。
(っ! 重い! 鋭い! 先のゴブリンとはレベルが違う!)
視界の端ではそのもう一体が、こちらに横から突き込もうとしている。さらにはその反対側からもう一つ追加の人影。
(うそっ! 対処が間に合わないっ……)
死の予感を覚えたその時。風が舞う。すかぁん! と間の抜けた音。
「思ったより痛ぇー!」
投げつけられたのは頭蓋骨。それが
「右の、やれ」
空中に舞った
ゴブリンが突き出す短剣を剣のナックルガードで受け流しつつ手首と腕の動きで引き込んで、即座に切り返してしとめる。
ミクトラが修めた、攻守両面に優れたデオ流の剣技『ストライクバック』
「はっ! はあっ……! た、助かった……!?」
急いで振り向けば、そこには首無しのスケルトン──アルが赤帽子と
「レッドキャップか。久しぶりに見るな。最後に見たのは
(
そしてミクトラは思い出す。──ゴブリン
「ギィッ!」
そんな難敵を前に気負わぬ様子のアルに、勝機を
ミクトラの目から見たその動きはやはり速い。彼女が正面で向かったとして、勝ち目は五分あるかないかと思える。
反面、アルの動きは
「──
だがそれで、勝負は決まってしまった。アルの剣の
「な……」
「うむ、まあまあ早かった。ゴブリンもレッドキャップになるとまあ、
「あ、
「遅くなってごめんね。弓兵もいたもんだから排除に手間取った」
「え」
両手骨を合わせて謝るアルの言葉を理解するのに、ミクトラは数秒を要した。
「まだ敵が……じゃない。助けて、くれた……?」
「まさに危機一髪! ってまあ、俺の髪ほぼ無いけど。──言ったじゃん。冒険者なんだって」
マントを羽織った骨は、とぼけた様子で
ミクトラは、指の骨って肉がないとあんなに長いのだな……などと、半分
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