一章 新人冒険者(骨)、はじまりの村にてオークと戦う(5/6)
◯
「見張りならばそこの窓からで十分でしょう」
「あ、ども。すいませんねわざわざこんな風に招いてもらって……怖くないので?」
アルも一応空気は読める。いつまでも
「何せ助けられるのは二度目ですからな」
「さ、さーて。この馬の骨が仕事をするのは初めてですよ?」
村長が涼しげに答える。決まり悪げにアルが
「狂ったアンデッドと見せて、
「う」
「そうと思って見てみれば、色こそ違えどその剣。五年前、
「うへえ、参りましたー。
手を挙げて
「
そうして、次に口にすることを意識したように居住まいを正した。
「度重なる危機を救っていただいたこと、村を代表し、重ね重ね御礼申し上げる。
……勇者、アルヴィス・アルバース殿」
暖炉で、木の
「……魔王との戦いで
一連の流れをアルから聞き、村長は
それを横目に、話し終えたアルが立ち上がった。音もなく歩き、扉に手をかける。
「しかしよもやこのような形で再会することになろうとは……アル殿?」
アルは静かに、とジェスチャーを送る。
そろりそろりと歩いて、タイミングを計り、扉を内へと引き開けた。
「うわったったった……よいしょお!」
つんのめるようにして中へと入り込むのはレヴァだ。
料理を乗せた皿を持ち、どうにかひっくり返さずに止まった。
「アンデッドの気配感知を
「ふぎゃああああ!」
顔を
「ふうむ。そういう所は子供のころから変わらんのう、レヴァや」
「あは、あははは~……飲んでたらアルいないから、どうしたのかなって探してたらさ……えらい話が聞こえちゃって、つい……」
そんな彼女の顔は夜の中でも赤い。明らかに酔っている。
「んもー……
「え、えへへ……はぁい」
互いに人差し指を立て合う。シリアス終了である。
「しつれいしまーす……よっと」
彼女は小さなお尻で扉を閉め(不作法に村長が天を
「つ、続き、どーぞ、勇者サマ……の骨サマ。しっかし、どうりでバカっ強いと思ってたんだ」
やれやれ、とアルと村長が目線を交わす。
「そういえば、あの時レヴァはもういなかったんですっけ?」
「ふむ。五年前はもう雲隠れしておった時期ですな。ある意味運が良かった」
「あー、前に占領されたって話? あの頃、あちこち下働きで動いてたからね。後になって知ったんだ。……そっかー。そん時も助けてくれたんだ。勇者サマサイコー! いえー!」
「えーい抱き着くな酔っ払いめ。くさっ! 酒臭!」
かつてアルヴィスとして旅に出たばかりの時だ。この村を
「えーと、どこまで話したんだっけ……あーそーだ。まあ、都合は良かったんです」
村長とレヴァが
「連合国軍の最前線に何年もいてあれこれやったもんで。魔王軍の
「……ああー。はいはい。まあそうですなあ。来るでしょうな」
村長に納得の色が浮かんだ。レヴァはほえーという顔だ。
「連合五カ国の姫だの、貴族の娘だの、結婚が
「えー、
「まあ、政治とはそういうものですが。欲の無い事ですなアル殿は」
二人
「こんな体ですが、これなら丸く収まるってわけで。実際、各国の首脳
「いやはや……余人には及びもつかぬ考えをされる」
「いやいやいや村長、死んでるのにそれおかしいっしょ。この勇者サマ
体を揺らして椅子をがたがたしながら言うレヴァに手指を振って、アルは続ける。
「この体なら飲み食いに
ちなみに遊び道具は通販で買っていた。寒々しい墓場近辺へ商品を届けに来ると
「あれあんただったの!? あたし自分が届けに行く羽目になったらどうしよって思ってた!」
「『いい
「いやでも無職は良くないわ」半眼でレヴァが告げる。勇者への幻想が死んだ目をしている。
「心
村長が目を細めた。
「おお。世を
「まずは一冒険者の手の届くところからですね。あんまり目標を高く持つと良くない」
アルは親指骨でぐっと自分を指さす。
「──骨身に
「黒い黒いネタが黒い」
「笑うべきか判断に迷うモノを投げますなあ、アル殿は」
村長とレヴァは苦笑。やや自信を
「……働け言われた時は、この体を
「やめときなさーい。商人として言わせてもらうけどさーあ、売れる筋が見えないわ! 客集まるどころか逃げるわ!」
「うぎぎ」
さくっと
「そ、そんなわけで! 俺のことはどーかご内密に」
「ふうむ。
「場所によっては亜人、いやさ人間同士でも差別
レヴァが行商中の経験を思い出したか、
「ま、勇者サマ──じゃない、アルならイジめられる心配はないか、実力的に」
「アル殿。老婆心ながら、一つご忠告を。
──人は善なるものでありましょう、ですが……善なるが故に。悪所を見る目はいくらでも鋭く、細くなるものです。御気を付けくだされい」
アルは
「とりあえずは、勇者が出来なかったことをやりますよ……また、ここからです」
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