骸骨達と作戦前日

「おお、ムルト。調べ物は終わったのか?」


「ああ。知りたいことは見つかった。ティングたちの方は、何か変わったことはなかったか?」


「こちらは何もありませんでしたよ。マーリッツさんが吸血鬼について色々教えてくれました」


ムルトたちは、セルクスが書き出した見取り図を手に、商店の一階に戻ってきた。ティングたちはお茶を飲みながら雑談をしていたようで、ムルトがセルクスから聞いたものと似たような歴史を教えてもらっていたらしい。


「さて、宿に戻って作戦でも練りましょ」


レヴィアがそう言い、セルクスを含めた6人で宿へと戻っていく。その間も監視の眼が光ってはいたものの、直接攻撃を仕掛けてくることはなかった。


宿に戻ってすぐ、王城の見取り図を確認しながら侵入経路を探っていく。


「う~ん、侵入するなら下水道か、地下水路があれば一番よかったんだけど」


「そうじゃな……それをさせぬために、こういう造りになっているんじゃろう」


セルクスの書き出した見取り図には、排水する場所はあるものの、それは城の地下深くにあり、そこから侵入するためには数分間息を止めていなければならず、それが可能だったとしても、人が通れるほどの隙間はないという。


「隙間がないなら、水を流せないのではないのか?」


「いや、厳密にはある。じゃが、それは人が通れるほどの隙間ではない」


「どれくらいなのだ?」


「巨大な格子じゃが……枠の間は30㎝ほどかのう?人は通れぬじゃろう?」


「そうだな。”人”は通れない」


ムルトはそう言うと、仮面とフードを外し、その骸骨を露わにした。それを見たティングも仮面とフードを外し、話を続けた。


「私とムルトならば、骨盤と頭蓋骨さえ入れば格子の中で組み立てられる。水中での呼吸も必要ない。侵入は可能だろう」


この4人は只者ではないと思っていた2人だが、すぐに納得した。


「ならば水中からの侵入は可能じゃろう……じゃが、そちらの2人は無理じゃろう?」


「そうね。私たちは無理だし、そもそも濡れたくもないわ」


「じゃあ、どこから入るんだ?」


マーリッツがレヴィアにそう聞くと、レヴィアは笑いながら見取り図の一ヵ所を指さした。セルクスとマーリッツはその侵入経路に驚き、ムルトとティングは苦笑している。


「正面突破!敵は2人でしょ?ムルトたちが裏から潜入するんだし、陽動も必要。敵が2人とも正門に来るならムルトたちが動きやすくなるし、挟み撃ちもできる。ムルトたちは別行動して、私たちで2人を抑えてもいい」


「そんな、お嬢さん2人の方が危ないじゃないかっ!」


「うふふ、私たちをその辺りのお嬢さんと一緒にしてはいけませんよ」


女性陣2人の心配をするマーリッツだったが、それをキアラは口元に指を添えて止めた。


「レヴィアとキアラであれば心配ないとは思うが、本当に大丈夫か?」


「ムルトは本当に心配性よね。ま、さすがにこんなリスクのあること、勝算がないとしないわよ。何より、私とキアラの2人だったら余裕よ。よ・ゆ・う」


レヴィアがそう言い切ったので、ムルトたちはそれ以上何も言わず、さらに作戦を詰めていく。


第一目標は、ロンドが握られているであろう弱みを取り返し、ロンドを助けること。第二目標は、セバスとリクに話をし、この凶行を辞めさせること。

第三目標、これは出来ればしたくないことだが、元凶であるセバスとリクの2人を殺すこと。


「私たちはどうすれば?」


ムルトたちが作戦目標を確認していると、マーリッツがそう聞いてきた。


「マーリッツ。これは俺たちの目標だ。マーリッツはマーリッツたちの第一目標があるはずだ」


ムルトが優しくそう言うと、マーリッツは何かに気づいた。国外の人たちがこんなに協力してくれているのだから、自分たちも身を捧げなければならない。と思っていたが、ムルトたちは身を捧げてほしいと思うよりも、この国を救おうとしてくれている。


「同胞たちと逃亡……」


「ふふ、そうだ」


セルクスがそう呟くと、ムルトは優しく微笑んだ。


ムルトたちがリクたちと戦っている間、他の吸血鬼を国外に逃がすのが、セルクスとマーリッツの唯一目標であり、勝利なのだ。


「でも、それじゃあ」


「気にしなくていいわよ。その分ロンドに働いてもらうから」


自分たちの国が危機に陥ってしまっているというのに、国民である自分たちは逃げ、部外者であるムルトたちが命をかける。だが、それが一番この国を救うための選択としては成功率が高い。


「……ありがとう、ございます」


「……儂も、同胞の代わりに礼を……」


セルクスもマーリッツも深々と頭を下げた。


いつものムルトであれば、頭を上げろと慌てていたかもしれないが、今は違う。その感謝を噛み締め、握りしめながら作戦の成功を誓っていた。


「それでは、作戦決行は明日の0時。異論はないか?」


「ああ」


「いいわよ」


「構いません」


ムルトたちは最終確認をとり、明日の決戦に向け、深い眠りについた。

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