骸骨達と無邪気な邪悪


ダンが死地を彷徨い、皆が強くなるため各々に師事を仰ぐ一方、ムルトたちはロンドからの血濡れた手紙を読み、どうするかを皆で考えていた。


「城へ忍び込むにしても、どこから入る?」


「敵の城なんだったら、下水道から入るのが一番いいかもね。昼間のことを思い出すと、警備も手薄……てか、いないかもしれないし」


「レヴィちゃん、私、臭いのはちょっと……」


「言ってる場合?だったら正面切って行く?」


「う~ん……それはそれで」


キアラがぎこちなく笑っているが、その笑みにもどこか卑猥なものを感じさせるのはさすが、色欲の大罪と言うべきか。


ムルトたちは、ロンドの手紙を読み、今カーミラが何者かの手によって脅かされていることを知った。その人物は手紙にも書いてある通り、謁見の間にいたリクとセバスだと考えて、間違いはないだろう。


「と言っても、俺たちは下水道の場所もわからないからな」


「そうなのよね。今日着いたばっかりだし……あるとは思うんだけどね」


この国に一体何が起きているのか、それをロンドに詳しく聞きたいところではあるが、リクとセバスが共に謁見の間にいたことを考えると、あれは恐らく監視も兼ねてのもだったのだろう。


「あ、あの……」


すると、4人が泊っている宿屋の店主が声をかけてきた。


「どうかしたか?」


「その……あなたたちはどういう?」


仮面を被った集団が、いかにしてこの国の王城に忍び込もうか話し合っているのだ。気にならない方がおかしい。


「あぁ。俺たちはイカロス王国から頼まれて、ロンドと話をしに来た者だ」


「ロンド様と!?ロンド様は生きておられるのですか!?」


店主は大きな声で驚きながら、ムルトの肩を物凄い勢いで揺らしている。


「ロンドはいつも通り不機嫌そうだったが、元気そうだったぞ?なぜそこまで驚く」


「本当によかった……それが……」


泣きながら喜ぶ店主を4人で宥めると、少しずつこの国で何が起きたかを教えてくれた。




数ヵ月前、帳の装置が壊れたかと思えば、小さな男の子と貫禄のある男が現れ、白昼堂々暴れだしたのだという。王であるロンドが不在なものの、王国兵や自警団、その他の住民含め全てが吸血鬼であるカーミラ。2人組の暴漢程度、すぐに捕まり処刑されると思っていた。


「でも、あいつらは……」


太陽の光が国に降り注いだとしても、王国兵士たちは皆、太陽光に耐性を持つ装備をしており、それがなくとも動ける、階級の高い吸血鬼がほとんどだ。それに、太陽光に耐性を持つ自警団の数人が応援に駆けつけたが、暴漢の2人はそんなもの意にも介さず、向かってくるもの全てを蹂躙したという。


さらに、リクは蹂躙するだけではなく、殺した兵士たちを次々に食し始めたのだ。


「や、奴らは、邪魔になる耐性持ちの仲間たちを残らず殺して、それから昼間になると一人、また一人と動けない俺たちを殺しに来るんだ……」


「夜には逃げれないのか?」


「無理だ……夜は男が俺たちを見張ってる。逃げようとした奴もいたが……今はもういない」


店主はその時のことを思い出し、恐怖に震えたが、少しだけ明るい声色で話を続けた。


「でも2週間前、ロンド様が帰ってきたんだ。その日から昼の殺しはなくなった。

が、ロンド様のお姿もその日以降見なくなってしまって……」


「片方はセバスだとして、もう片方はリクよね……」


「昼間お会いした時は無邪気な少年という印象でしたが……あの歳で殺しを、しかも食べちゃうなんて……」


「罪のない民を殺傷するなど、許してはおけないな」


「まさか、た、戦うんですか?」


「そのつもりだ」


ムルトが真剣にそう呟くと、レヴィアからのチョップが頭に響く。


「なぁ~にが、そのつもりだ。よ!」


「な、レヴィ!お前はこの国はこのままでいいと言っているのか!?」


「違うわよ!当然あんたの気持ちもわかるけどね!何の考えもなしに乗り込んだっていいことないって言ってるの!」


「だ、だからそれを話し合って……」


「ねぇあんた!王城の造りに詳しい人知ってる?」


「え、お、王城の?」


「そうよ!」


レヴィアがはきはきと喋り、話を進めていく。店主は少し考え、1人だけ心当たりがあると言った。


「ここからは離れるが、暗がり通りってところに、イブ爺って人が住んでる。確か王城の建設に携わってたはずだけど……純血の方だから生きているかは……」


「よし!今すぐ私たちをその人のところに連れて行きなさい!」


「む?夜は見張られているのではないか?」


「そうね。でも私たちは今日ここに来たばかり。しかも観光客みたいなもんよ?夜にしか出歩けない吸血鬼を連れて、夜に観光。何もおかしくないじゃない?それに、襲うなら昼間、謁見の間で襲ってきたはず。それをしなかったってことは、相手も私たちの実力に気づいているってことよ。積極的に争うつもりもないでしょうし、唯一動ける私たちで事を進めるべきよ」


「ふむ。なるほど」


「だから、まずは城の設計に詳しい人に会って、内部構造を教えてもらう。どこから侵入するかも、それから話し合えばいいじゃない。それに、昼の捕食がないなら、決行は今夜じゃなくてもいい。できるだけ早くがいいけど、勘づかれる前に動くのよ」


「よし。レヴィそれでいこう。その……先ほどはすまなかったな。考えなしに、気持ちだけで突っ走ろうとしてしまった」


「ふふん、別にいいのよ。さっきも言ったけど、気持ちはわかるわ。冷静になって考える。そういうのはちょっとずつ覚えていけばいいじゃない」


「あぁ。そうだな……ありがとう」


レヴィアはそう言って微笑み、ムルトは頷き立ち上がった。


「さぁ、時間はあってないようなものだ!行こう!」


「あ、ありがとうございます!」


ティング、キアラも立ち上がり、店主は泣きそうな顔でお礼を言った。


5人は荷物をまとめ支度をすると、国を救うために動き出した。


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