骸骨達と希望の欠片
「……なぜ?なぜと言われても、ここは俺の家だ」
ロンドは玉座を指で叩きながらそう言った。
「ロンドも王様だったのか」
「へぇ……ま、だったら話は早いじゃない。私たちが」
「ねぇ!なんであの人たちみんな仮面してるの?」
レヴィアたちがここへ来た理由を説明しようとすると、ロンドの横に立っている少年が興味あり気にそう言った。王の許可もなく喋っているレヴィアたちも無礼ではあるが、その王の横で話を遮る少年も無礼である。だが、ロンドも執事も誰もそれを責めはしなかった。
「……ムルト、仮面をとってくれても構わない。元より、この国にいるのは皆亜人だ。遠慮しなくていい」
「では、失礼して」
ムルトたちが仮面を外して頭蓋骨を晒しても、その少年は驚くどころかさらに目を輝かせてそれを見ている。
「すっごーい!骨だ!本物のスケルトンだ!」
「……」
「あぁ、すみません!初めまして!僕の名前はリクです!よろしくお願いします!」
「……ということだ」
話を邪魔してしまったことを謝ったのか、少年は自己紹介をし、また静かになった。だが、その一瞬でも与えた印象はあまりよくない。
(嫌な眼……)
最初にそう思ったのは、レヴィアだった。嬉しそうな声色に嬉しそうな表情。嬉し気なだけで、眼は一切笑っていなかった。何かを品定めするような、獲物を見つけたような眼。ムルトたちもこの少年が何かの命を奪ったことはあると気づくが、吸血鬼ならばそんなこともあるだろうと、気には留めなかった。
「で、お前たちは何しにここへ?」
「王都はイカロス、冒険者ギルドがグランドマスター、バリオより書状を預かってきているわ。受け取ってくれるかしら?」
ロンドは、リクとセバスを一瞥して玉座からレヴィアたちのもとへ歩み寄った。そのまま書状を受け取ると、癖なのか自分の指を噛みながらそれを読み、眼を近づけて指でなぞっている。
「……俺はイカロスへは戻らない。カーミラも庇護国から除外してくれて構わない」
ロンドは、受け取った書状を丸めてレヴィアへと返した。その直前、ロンドが指を舐めていたのを見ていたレヴィアは、嫌な顔をしながら書状を受け取る。
「そうか……わかった。無理に連れ戻せとは言われていないからな。俺たちからはそれだけだ」
「いいのか?」
「あぁ。バリオは罰を与えねばならないと言っていたが、その庇護?というものから外されるのが罰になるとは思わないか?」
「そうね。亜人とはいえ、元モンスター。それが王国の庇護もなしに今後どうなるか、あなたならわからないわけではないでしょう?」
「……もちろんだ。 ……今はそれ以上に深刻な事態が起きているが」
帳が無くなってしまったせいで、下位の民が外に出れない故に、仕事も何も出来なくなってしまっている。
ロンドはそう言うと、玉座に戻った。
「話は終わったな?もう帰れ」
「えー!帰っちゃうの!?泊まっていけばいいのに~」
「……そうですね、客人用の部屋もあるので」
リクが残念そうに言うと、セバスが同意するようにそう言ったが、ロンドはイラつきながら怒りながら繰り返し言った。
「部屋は貸さん!さっさと帰れ!」
ムルトたちは、ロンド自ら追い出そうという威圧感に圧されながら、そのまま謁見の間を後にし、そのまま城を後にした。
バツの悪い別れとなったが、文句を言う者はおらず、街の方へと戻ってきている。
「……感じ悪かったわね」
「ロンドは元々ああいう奴だ」
「私がラビリスで戦った時は、もっと熱い者だったと思ったんだがな」
謁見の間でのやりとりを思い出しながらそう話すが、レヴィアが言っているのはロンドの事ではない。
「違うわよ。あのリクとかいう子供」
「確かに不気味ではあったが、小さい頃から戦いの中に身を置いてきたのだろう、仕方のないことだ」
「そんな不気味さじゃないわよ。ムルトも見たでしょ?あの品定めするような視線」
「ガロウスのように、戦うことが好きだったりしたのではないのか?」
「……否定はできないけど、そういう眼じゃないのよね、私もよくわからないけど、他の……」
「あの、私も気になることがあるんですよね……」
小さく手を上げてそう言ったのは、キアラだ。
「何?どうしたの?」
「レヴィアちゃんも気づいてると思いますが、謁見の間でずーっと嫌な気配がしてたんです。ミナミさんたちのような」
キアラの言う通り、レヴィアもムルトも、少しだけ入っているティングも、美徳が持つ特有の嫌な気配を感じ取っていた。だがそれはあの謁見の間にいた三人からではなく、居場所もわからないため、気のせいにすることにしていたのだ。
「私が居場所を見つけられないので、美徳持ちは雌だと考えて間違いありません。城のどこかにいるのでしょう」
「美徳持ちか……」
その話を聞いて、ムルトは考えた。残る美徳持ちは希望のみ。それがこの国にいるのであれば、保護した方が良いのではないか。その考えはレヴィアたちも同じようで、ムルトの考えに同意してくれる。
「今日は暗くなってきたし、また明日お城に行きましょ。水浴びでもお風呂でも何でもいいから入りたいし」
「そうだな、まずは宿をとってからにするか。夜中になれば国民も活発になるだろう」
ムルトたちは、そんな期待を込めて宿屋を訪れるが、誰もいない。カウンターもあれば、確かに人の気配もするのだが、目の前には現れない。
「……なぜだ?」
「こちらにいますよ」
店主が雄だったことで、キアラからその居場所は丸わかりである。失礼ではあるが、そのまま部屋の中に入り、声をかけた。
「すまないが……」
「ひ、ひぃ!た、食べないでください!お願いします!どうか!どうか!」
仮面をしているムルトたちの方を、一度も見ずに、必死に命乞いする男。そんな状態に驚くムルトたちだが、その尋常じゃない反応に、何か嫌な予感を感じ始めた。
「大丈夫だ。俺たちは何もしない。」
ムルトが腕をとりながら優しく声をかけると、泣きながら暴れる男がゆっくりとムルトたちへ目を向けた。全員仮面をしているのは異質ではあるのだが、今ここにいる人たちは、アイツではないということがわかり、一安心した。
「あ、あんたら、なんでこんなところに……」
「なんでって、まぁこれをここの王様にね」
レヴィアは、細かい説明をするよりは、王印の入った書状を出せばここの王への用だとわかって手っ取り早いだろうと判断し、それを見せた。すると、ティングがあることに気づいた。
「それ、そんなに汚れていたか?」
見ると、書面の裏には赤茶の汚れのようなものが付着していることに気づく。レヴィアは、ロンドが指を舐めながら書面を眺めていたことを知っているので、あの時よりさらに嫌な顔をした。
「うげぇ、アイツ本当汚いわね」
レヴィアは、掴んで見せていた書状を指の端でつまむと、元の袋へ戻そうとした。
「レヴィ、待ってくれ」
それに待ったをかけたのは、ムルトだ。
「え?なんで?」
困惑するレヴィアから書状を受け取り、ムルトは口を開けた。
「これは、血の跡だ」
「……なんですって?」
ムルトが書状を開くと、外側は汚れているのではなく、中に直接血が塗られていることがわかった。
「これは……!」
ムルトの開いた書状を他の三人が覗き込むと、そこには短く、血文字でこう書かれていた。
『2人は敵 にげろ』
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