骸骨達と吸血鬼の国
「む?城が見えてきたぞ」
「あれが吸血鬼の国、カーミラか?」
王都イカロスから出発し、早2日。あまりの速さに、目まぐるしく変わる景色を楽しみながら、ムルト達は途中野宿を挟んで圧倒的に早く到着したようだ。
目の前には、大きな城と城下町が見えている。予めバリオに聞いていた街並みそのものだが、皆一つの疑問を覚えている。
「国全体を覆う黒い帳がある。と、言っていなかったか?」
「私も覚えています」
「俺たちが見つけやすいように解いてくれたんじゃないか?」
『下位の吸血鬼のために出してるんでしょ?私たちがここに来る理由が理由だし、歓迎しているようにも思えないけど?』
色々な疑問が浮かぶムルトたちだったが、とりあえず行ってみなければわからない。とのことで、そのまま向かうことにした。レヴィアの速さでは何かを準備する暇もなく、すぐにカーミラの近くに降り立った。各々が仮面と荷物をまとめ、出発する。
「……誰もいないが」
「おかしいわね……」
カーミラに通じる門の前にまで来たが、城壁の上にも下にも人はおらず、門兵すらもいない。入国税を納める場所だと思われるカウンターも、宿直室もあるのだが人だけがいない。
「いくら私が速すぎるからって、遠くから近づいてくる龍を視認できないわけじゃないし、それこそパニックを起こして出てくるなり迎撃準備をするものだけど」
「……門の中からも声が聞こえないのはおかしいな」
「まぁまぁ、日陰者の吸血鬼がこんな天気のいい日に外になんて出ませんよ」
「キアラ、お前中々に口が悪いな」
「あら、そうですか?私はこんな感じですよ、ティングさん♪」
仮面をつけた集団が、門の目の前でここまで騒いでいるのに、遂に人っ子一人出てくることはなかった。
「まぁ、私たちには関係ないし、さっさと行きましょ」
レヴィアがそう言って門に手をかけた。ムルトもティングも、ここで立往生するのも時間の無駄だとは思っていたので、それに同意した。入国税を誰もいないカウンターに置いておき、レヴィアたちの後に続くと、その光景に唖然とする。
黒や白を基調とした建物に、レンガの敷き詰められた道。どこか暗い雰囲気のある街並みだが、その雰囲気こそが吸血鬼の国と言われれば、まるでパズルのピースのようにしっくりとくる。王都イカロスに負けないほどの綺麗な街並みに、ムルトたちは息を呑んでいたが、固まっていたのはその美しさのせいだけではなかった。
「人が、いない」
吸血鬼なのだから、昼間は出歩かないのかもしれない。とも思ったが、吸血鬼には吸血鬼用の装備などもある。それを使えば日中の活動もできるはずなのだが、それを使う者すら見当たらない。
「建物の中にはいるみたいですが」
持ち前の能力で雄を確認するキアラ。ムルトたちも気配を感じ取ってはいるが、談笑も話し声も聞こえてこないのはあまりにも異質である。
「カーミラで何か起こっているのではないか?」
「かもしれないわね。でも、帳が壊れて修復中とかじゃない?」
「だとしたら、説明がつきますね」
「だが、ここにいるのは別に下位の吸血鬼だけではないのだろう?」
次々と出てくる疑問に頭を悩ませるムルトたちだったが、レヴィアは頭をふりながらその疑問を消し飛ばし、元気よく声を上げた。
「あー!考えても仕方ない!私たちがここに来た理由はロンドとかいうやつに会うためでしょ!ここの王様に会ってロンドが帰ってきてないか聞く!余裕があれば何が起きているのかも聞く!これでいいでしょ!」
そう言ったレヴィアに皆同意し、大きくて目立つ王城へと向かった。何事もなく城の門までこれたのだが、ここに来るまでも誰ともすれ違わず、王城であるにも関わらず、見張りも誰もいない。
ムルトたちは、一言も言わず入城するのもどうかと思ったが、レヴィアはイライラしながら乱暴に門を開け放った。
「見張りも立てないこの国が悪いわよ!なんか文句つけられたら、全部バリオに被ってもらえばいいだけよ!」
確かに、誰もいないだけで立ち止まっていては、一歩も動けなくなってしまう。ならば無理矢理にでも行動してしまった方が幾らか楽になるのかもしれない。
4人はそのまま庭を通って、王城の扉をあけた。
照明が美しく床や壁を照らしている。豪華なれど華美とはならず、さすがは王城と言える。
すると、まるで4人を待っていたかのように1人の男が立っていた。
燕尾服を羽織り、片目にモノクルをしている佇まいのしっかりした男。カーミラについて初めて見たのは、住人ではなく、執事だった。
「お客様、ようこそいらっしゃいました。王がお待ちです」
何も報せてはいないはずだが、もうすでに謁見の間に王がいるらしい。ムルトたちはその執事に連れられていく。
やはり、王城なので謁見の間までの道のりは長く、その長い道すがら、ムルトたちは話をしていた。
「申し遅れました。私の名前はク……いえ、セバスとでもお呼びください」
「おぉ、セバスよろしく頼む。俺はムルト、こっちからレヴィア、ティング、キアラという」
「ご紹介ありがとうございます」
セバスは静かに礼をする4人を見て、笑顔で目を細めている。軽い自己紹介をした後、ムルトはこの国に着いてから気になっていることをそのままセバスに聞いてみた。
「ところで、セバス以外の人に出会っていないのだが、何かあったのか?」
「そのことでしたら……帳はご存知ですか?」
「あぁ。太陽の紫外線から民を守るために張られている、結界のようなものだろう?」
「左様でございます。お恥ずかしながら、数日前にそれが壊れてしまいまして。目下修復中ではあるのですがまだまだ終わらず……ここの民の半数は太陽の熱で身体を焼かれてしまうので、日中は外出を控えるよう達しを出しました」
「外敵から国を守るための門兵、それと、屋内で王城なのにあなた以外の人がいないのはどういうことかしら?」
鋭く言い放ったレヴィアに、セバスは一瞬口を閉じたが、何とも申し訳なさそうに言葉を返した。
「いやはや、これもお恥ずかしいことなのですが……日中動ける兵士は帳の調査に行かせていまして、城内には新兵しかおらず、訓練の真っ最中でして……おっと、お話が過ぎてしまいましたね。到着致しました。」
セバスがレヴィアの質問に答えているうちに、謁見の間へ到着したようだ。豪華な扉をノックし、セバスが扉を開いた。
謁見の間は、王城と同じく豪華で、王城内と同じく兵士の1人すらいない。
玉座に座る王と、その傍らに控える小さな子供。
「……頭が高いぞ」
重く、低い言葉で言い放ったのは王その人であるが、ムルトとティングはその人物に驚いていた。
「なぜ、ロンドがここに……?」
ロンドと面識のないレヴィアとキアラは気づいていないが、玉座に座っているのは、今回ムルトたちがカーミラへ来ることとなった原因の1人だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます