骸骨と戯れる6/6

「おやおや、これは参ったな」


捕まった仲間を助けるため檻に向かったミチタカだったが、驚きの光景に固まってしまった。


「ミチタカさん!助けてくださーい!」


「ミチタカさん!なんでこんなところに!?」


「ッ……」


檻の中には、ミチタカ以外の人間チームが閉じ込められており、ムルトたちモンスターチームも全員が集まっている。ダンやジャックはミチタカに助けを求め、ハルカとミナミは今すぐ逃げることを勧めている。ハンゾウはキアラの魅了が解けていないようで、直立不動だ。


「おぉ!待っておったぞミチタカよ!」


「ほっほっほ。賑わっておりますなぁ」


「ガロウス、あんた本当にミチタカを捕まえられなかったの?」


「悔しいがな!レヴィル嬢も油断するな!」


「ティング、どうする?」


「まずは様子見ではないか?」


「ふふ、まずは私に任せてください」


キアラはそう言って、自身の武器である今にも見えそうな胸元と、健康的な太ももをチラつかせながら一歩前に出た。


「雄である限り、色欲の大罪である私には勝てませんよ。胸器乱舞」


キアラは胸を完全にはだけさせ全裸になり、ウィンクをミチタカへと放った。ミチタカは避ける動作も構える動作もせず、変わらずキアラを凝視している。


「あ、あれ?」


「ほっほっほ」


ミチタカは、キアラへ優しく笑いかけると目を見開き、力強くこう言った。


「この、漢!海松満鷹!生涯の中で魅了され愛した女性は!谷チヨのみ!そう魂にも刻んでいる!!」


腕を組み、堂々した宣言にキアラだけでなく、ムルトやミナミたちも驚いているが、ハルカとティアだけは輝いた眼差しをミチタカに向け、激しく頷きながら拍手をしている。


「……レヴィちゃん……私、ここにきてから淫魔としての自信なくしっぱなしなんですけど……」


裸のまま振り返り、胸の前で指を突き合わせ、今にも泣きそうな顔でレヴィアに助けを求めるキアラ。レヴィアは、頭を掻きながら身体を紫色に染め、臨戦態勢をとった。


「あぁー!もう!やるしかないわね!」


「待て!レヴィル嬢!」


ガロウスの静止を聞かず、レヴィアはミチタカへと突っ込んでいった。嫉妬の大罪を纏い、初速だけではなく、動きを目にとどめるのも困難な速さだ。それはミチタカも例外ではなかったが、速さだけでこの遊びは成立しない。相手を捕まえなければならないのだ。


「もらったわよ!いち」


「ほっほっほ。こっちのセリフじゃな」


レヴィアが背後に回り、肩を掴んだ瞬間、ミチタカは身体を震わせ腕を上げると、レヴィアの手が肩から離れてしまう。そのままミチタカはレヴィアの腕を掴み、地面に転がしていった。


「レヴィア!しがみつけ!」


「え、ええ!」


レヴィアはすぐに体勢を整え、ミチタカへ飛びついた。間髪入れずにガロウスがその上からさらに組みついた。だが、ミチタカが少し動くと、二人とも手足を広げ拘束を解いてしまう。


「確かに、手強いわね」


「二人掛かりでも捕まえられんか」


「ほっほっほ。儂が使っているのは合気じゃが、これは手を掴んだり掴まれなければならない。しがみつくのも確かに有効じゃが、それはお主らの気功を使って逃げさせてもらっておる」


そう、ミチタカは合気だけではなく、身体中にある気功を突き、手足を強制的に開かせているのだ。無理矢理手を握ろうとしても、ミチタカがその気功を突いてしまえばそれが開いてしまう。それは手足だけではなく身体にも有効だった。


「くっ!」


「待てコットン!」


コットンもミチタカへ向かって駆け出し、手を伸ばすがあえなく撃沈してしまう。


「ほっほっほ。みんな今すぐ助けるからの」


「ミチタカさん!」


レヴィアもガロウスもミチタカを睨むが、手に負えないことはわかっているため、安易には動けない。檻に近づくミチタカへハンゾウが組み付いたが、ハンゾウもガロウスたちのように気功を突かれ捕縛することはできていない。


「む……ティング、駄目で元々だ」


「あぁ。いこう!」


「「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」


ムルトとティングは雄叫びを上げ、ミチタカへ全力で突っ込んでいった。ミチタカは特に構える様子もなく、ガロウスとレヴィアの時のようにゆったりと歩いている。


「うおおお!」


ムルトがミチタカに抱き着いた。ミチタカは身体を震わせ、ムルトの気功を突こうとしたが、あることに気が付いた。


「そうじゃ、お主たち、筋肉が……」


ムルトとティングが肉も皮もないモンスターだということを知っていたのに、ついついそれを失念してしまっていた。ミチタカがそれに気づいた時には、後ろからも抱き着かれている。


「っふ!」


ミチタカは全身に力を入れ、力づくでその拘束から抜け出そうとしたが、どちらもSランクを超えるモンスター、膂力があった。


「ムルト!」


「ティング!」


二人はチャンスを逃さず、互いに合図を送った。


「「下位召喚!!」」


ムルトとティングがそう叫ぶと、二つの魔法陣が浮かび上がり、片方からは赤と青のスケルトンが、もう片方からは茶色のワイトが五体。その骸骨たちはミチタカへと群がっていき、互いの関節や骨の隙間に入り込み、ぐちゃぐちゃに絡まっていった。


「ほう。やるのう……」


力づくで逃れようとしたミチタカでも、複雑に絡み合った、自分の身体に触れてもいない関節をどうこうすることはできない。二人は五秒数え、ミチタカを捕まえた。


「ほっほっほ。やりおるわ」


ミチタカは檻の中に入れられ、これで人間チーム全員が捕まったことになった。モンスターチームはそんなミチタカを眺め、互いをたたえ合っている。


「これで我らの勝利だな!レヴィル嬢には負けてしまったが、チームで勝てたのなら気にはならん!」


「あんたがミチタカに転がされてる間、私がどんだけ頑張ったと思ってるのよ」


「レヴィちゃん、私もジュウベエさんを捕まえたんですよ?」


「あんたは男相手なら負けないでしょ!十傑の内の四人を同時に相手した私の気持ちわかる?」


「ははは、レヴィア様、それは災難でしたね」


「あんた達が働かないのが悪いんでしょー!!」


勝負に勝ったというのに、レヴィアはどうやら不満気らしい。


「ですが、私たち人間チームの負けですね!さすがムルト様です!」


「モンスターに負けるなんて屈辱……攻撃できないなんて……」


「ラマさん、僕は楽しかったのである。子供に戻った気がするのである」


「はっはっは!ポルコ、お前はまだまだ子供だぞ」


「……」


「キアラ、ハンゾウの魅了、解けてない」


「あ、ごめんなさ~い」


ドロケイも終わり、ハンゾウの魅了も解かれ、皆が檻の中から出てきた。すでに太陽が傾いており、今日は一日存分に遊べたことがわかる。


「ふむ。我も疲れた。飯を食って寝よう!」


ガロウスがそう言い、皆も賛成するが、ミチタカがあるものを見つけてガロウスの肩を叩いた。


「どうやら、まだ終わっとらんようだぞ」


「何?」


ミチタカが指をさす方向を、皆が見る。


「これはまずいな」


ジュウベエが。


「だから嫌だって言ったのよ」


ラマが。


「まずいですね……」


ミナミが。


「がっはっはっは!!人間チームはまだ一人残っていたようだな!!」


ガロウスが大笑いしながら言った。


そして、皆が見つめる先には。

額に皺をよせ、殺気を漂わせながら肩で風を切って歩く、バリオの姿があった。

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