骸骨と戯れる5/6
コットンがキアラと分かれ牢屋に向かっていると、そこに数人の人影があることに気づいた。
「おぉ!ムルト!」
「おおコットン、そっちも捕まえることが出来たのだな」
「あぁ。全部キアラのおかげだがな」
その人影は、ムルトだった。どうやら、ハルカとティアを捕まえたようで、その二人はもう牢屋の中だ。コットンも、キアラから託されたハンゾウを牢の中に入れる。牢には出入口のようなものがなく、柵の幅は人二人が通れるほど空けられている。これは、人間チームが仲間を救出する際に扉の開閉に時間をかけないようにするためである。
「美徳を序盤で、三人も捕まえられたのは僥倖だな」
「あぁ。特にハンゾウは、ガロウスでも捕まえられないと言っていたからな。キアラと一緒に行動していたが俺の出る幕はなかったぞ」
「さすがは色欲と言ったところか? ところで」
ムルトは、牢屋の中で何をするでもなく、空中を見上げ静かにしているハンゾウを見て、コットンに尋ねた。
「ハンゾウは何があった?」
コットンはムルトへ、困ったように肩を竦めてみせた。
「俺にもよくわからん。だが、一種の魅了にかかっているようだ」
「ほう。さすが
「あぁ。俺の言うことを聞いてくれるようにしてくれているが、いつ魅了がきれるかはわからない」
「む?コットンの言うことは聞くのか?」
「あ、あぁ。そのようだ。ここまで来るのも大人しかったしな」
「ほう。それなら……」
ムルトはコットンの耳元へ顔を近づけ、小さな声で作戦を伝えた。コットンはそれに頷き、さらにハンゾウへ耳打ちすると、ハンゾウも頷いた。
「よし!では俺達も散策するとするか!」
「あぁ。コットンがハンゾウを連れてきてくれて助かったな」
「えぇ!ムルト様行ってしまうんですか!?」
「ムルト、さみしい」
牢屋の中のハルカ達は悲しそうに声を上げ、ムルトを引き留めるが、ムルトは軽く手を振り行ってしまった。
「あぁ~!ムルト様~!」
「……さみしい」
ハルカとティアは、鬼のいなくなった牢屋の中で寂しがるが、あることに気づく。
「あれ、でも見張りがいなかったら救出を邪魔できないんじゃ?」
「うん。たしかに」
ハルカとティアがキョロキョロと辺りを見渡すと、遠い茂みの中からジャックの姿が見えた。
「よっしゃー!ラッキーだぜぇぇぇ!!」
ハンゾウ直伝の気配遮断と自慢の脚力を活かし、一直線に牢屋へ向かう。
「手だせ!」
ジャックがそう言い、ハルカとティアが牢屋から手を出したのだが、ジャックがハルカの手に触れる瞬間、横からハンゾウがその腕を掴んだ。
「えっ!?何するんですかハンゾウさん!」
「……」
ハンゾウは何も言わず、ジャックを羽交い絞めにし、牢屋の中へと引きずり込んだ。
「ハ、ハンゾウさん何やってるんですか!」
「仲間、割れ?」
先ほどまで上の空だったはずのハンゾウが豹変し、ジャックを捕まえたことに困惑するハルカ達だったが、それを見越したかのようにコットンが戻ってきた。
「うまくいったな」
コットンはそのまま牢の中のジャックに触れ、五秒カウントをとった。これで捕獲完了だ。
「俺がハンゾウにした命令は、『牢屋に近づく人間チームを捕まえろ』だ。これで俺とムルトは探索もでき、同時に見張りもたてられる」
してやった顔のコットンは、それだけ言うとまた探索に戻っていく。ハルカとティアはこの牢屋から逃げ出すことはできるのか心配になりつつも、やはりムルト達が一筋縄ではいかないことに恐怖を覚える。
【十傑宿舎、廊下】
「おぉ。やはり貴様だったか、ミチタカ」
ガロウスが十傑宿舎内を探索していると、隠れるそぶりもないミチタカが目の前に現れた。
「ほっほっほ。ガロウス殿、あまり無茶をしてはドロケイ?というもの自体止められてしまいますぞ」
「がっはっは!心配するな!余程の手練れでなければ我の殺気に気づくこともない!そしてそれに気づいたのはダンと貴様だけだ!」
「ほっほっほ。それは光栄ですな。で、儂の方が捕まえやすいと思って来たのですかな?」
「いや逆だ。ダンなどどうとでもなる。我以外に掴まるかもしれん。だが、貴様は我が捕まえたくてな」
「ほっほっほ。それはそれは」
廊下の真ん中で悠長に会話をする二人だったが、ガロウスの言葉を聞いてミチタカの空気が少しだけ変わっていく。
「残念じゃが、儂を捕まえられる者は誰もいますまい」
「何?」
ミチタカはそう言うと、腰の後ろに手をまわし、ゆっくりとガロウスに向かって歩いていく。まるで捕まえてくださいと言っているように隙だらけだ。
「儂らを捕まえるには身体に触れ続け、五秒数えなければならない」
ガロウスはミチタカが何を言いたいのか理解しようとはせず、その細身に手を伸ばし肩を鷲掴みにするが、その瞬間ミチタカの身体が僅かに震えたと思えば、自身の巨体が宙を舞っていた。ガロウスはそのまま空中で身体を捻り、ミチタカの後ろへ綺麗に着地し、右手を見ている。
「な、なんだ今のは」
「五秒あれば、儂を掴んでいる手を放させるなど容易なことよ」
「……ぬんっ!」
ガロウスはミチタカを掴むのではなく、完全に身体に抱き着いた。
「がっはっは!これでどう……」
してやったりと笑うガロウスだが、ミチタカを拘束していた両手両足は、自分の意思とは関係なしに開け放たれ、そこからミチタカを逃がしてしまった。
「ほっほっほ」
「な、何をした」
ミチタカに魔法を使われたと思ったが、魔力の動きはない。なのになぜガロウスは自分から拘束を解いてしまったのか。疑問が尽きない。
「合気道じゃよ。これでも海松流の師範をやっていたんでな」
「ぐ、ぐぬぬ~!」
ガロウスは諦めずにミチタカに掴みかかった。だが、掴んだ端から宙を舞ったり、ただ手を放してしまったり、がっちりと掴んでいるはずなのにいつの間にか拘束を解かされている。
「ぐう~!ミチタカァ~!」
「ほっほっほ。ガロウス殿、攻撃魔法は禁止じゃよ?」
ミチタカは段々と募っていくガロウスの怒気と殺気に気づき、そう忠告した。ガロウスはミチタカに、人間に転がされているのがたまらなく悔しく、静かに拳を握りしめている。
「……ちっ」
「ほう?諦めるのか?」
ガロウスは怒る自分を制し、ミチタカへ背中を見せて歩き出した。
「腹立たしいが、我が貴様を捕まえることはできないようだ。我らの勝利のため、先に他の奴を捕まえる」
「ほっほっほ。賢明じゃのう」
ガロウスはそれ以上ミチタカに構わず、歩き出す。ミチタカはそんなガロウスの背中を眺めながら、静かに頷いていた。
(やはり、儂の見込んだ男じゃ)
敵わぬ相手には必要以上に突っ込まず、確実に勝利をするために引き際も弁えている。
それは、これがルール無用の一対一の殺し合いではなく、定められたルールの中で行われたゲームだからなのであるが、ルールや仲間との共闘であれば、ガロウスは周りを見て動けるということだ。近々大戦があるのを知っていれば、作戦に沿って動く強大な兵がいるだけでその大戦の勝利が近づく。
今に始まったことではないが、ミチタカはガロウスの強さも仲間思いなところも知っている。だからこそ、安心と尊敬を改めて抱いていた。
「……さて、何人か捕まっておるかの?助けにいくとするか……」
ミチタカは、全力で駆けまわれると楽しみにしていたが、どうやらその必要はなくなってしまったようで、ゆっくりと檻に向かって歩みだした。
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