骸骨と戯れる4/6
「さて、今反応した奴らを捕まえに行くか」
「ちょっとあんた、手加減したんでしょうね……」
レヴィアが心配しているのは、今しがたガロウスが発した殺気のことだ。ガロウスがダンを試した時に使ったような殺気は、常人が浴びればショック死する可能性もある。ムルト達が遊んでいるのとは違って、王城の中には訓練中の兵士やメイドなどがいる。ガロウスの殺気によって王城の中が阿鼻叫喚になっていてもおかしくはない。
「はっはっは!心配しなくともよい!今のは一定の強さを持つ者だけが感じとれる!基準は我だ。我より弱い者は微塵も気づくことはないだろう」
「そう。ならいいんだけど」
「はっはっは!我と同等か、それ以上の者が最低でも二人以上いるのは嬉しいことだなぁ……」
ガロウスは嬉しそうに腕を組み、自分の殺気に気づいた者は誰なのかを考えながら歩き始めた。
「おっと、ハンゾウのことはお前に任せていいんだったな?」
何かを思い出したかのようにガロウスは振り返り、キアラを見てそう言った。
「はい。お任せください」
「悔しいが、我はハンゾウの気配を全く探れない。やるからには勝ちたいからな。頼むぞ」
ガロウスはそう言い残し、去っていく。というのも、ムルト達がジャックとハンゾウと合流した時、その気配に気づけたのはガロウスとキアラだけだった。そしてガロウスはジャックに気づけてもハンゾウには気づけなかった。キアラは、敵意を感じなかったことから言葉にはしなかったものの、二人の接近には気づいていたらしい。
「見つけられても私一人じゃ荷が重そうなので……コットンさん、ご一緒していただいても?」
可愛らしくも、何か含ませたように首をかしげるキアラに、コットンはついついドキッとしてしまう。
「あ、あぁ。俺でよければ。 だが、本当に任せてしまってもいいのか?」
「はい。どんなに隠れるのが得意でも、私が雄に気づかないわけはないので」
これまた劣情を煽るような笑みに、コットンのナニかが反応してしまいそうになるが、それをグッとこらえてキアラと共に王城へ向かっていった。
ムルトとレヴィアもそれぞれに分かれて人間チームの捜索へと向かった。
【十傑宿舎、城壁側】
スピード特化のレヴィア、最強と言っても過言ではないガロウス、この二人から逃げるには狭い宿舎内や室内に逃げ込むべきなのだが、それをわかっているからこそ真っ先にそこへ向かうだろうと踏んだ彼女たちは、灯台下暗し、顔を出すだけで檻が見える地点の陰に隠れている。
「うぅ……なんかすごい気持ち悪い感じがしたんだけど……」
「はぁ?なんだ?もうビビってんのか?」
「べ、別にそんなんじゃないけど」
「殺し合いじゃねぇんだぞ?何ビビってんだよ
「はぁ!?だからビビってないって……シッ」
シシリーは人差し指を立て、ダンへ静かにするように促した。顔を出してしまえば見つかってしまうため、足音で判断するしかないのだが、何者かがこちらへ近づいてきていたのだ。その足音は宿舎内ではなく、真っ直ぐにこちらへ向かってきているようで、シシリーはいつでも逃げられるように、と合図を出す。
「あ……」
まるで、獲物を恐怖させるためだけに出されたと思う大きな手。壁に手をかけているだけでまだ顔は見えていないが、この手が誰のものかなどすぐにわかる。その人物は答え合わせさせるかのようにゆっくりと顔を出し、ダンとシシリーを見つめた。
「ほほう。ダン、お前だったか」
「ひっ」
「ふふふ。我は、楽しみを最後にとっておくほうなのだ。他の奴に掴まるなよ」
ガロウスはそれだけ言い、宿舎内へと入っていった。
「見逃されたのか……」
「そう、みたいね……でもチャンスだわ。場所を変えましょう」
「お、おう」
見逃してもらうなど、人によっては屈辱に感じるものだが、ダンとシシリーはそう感じていない。潜伏場所が見つかってしまったので、早く移動しなければいけない。そう思い、二人は走り始めた。
【東棟、来客用部屋内】
「ハルカー、どこだー。ハルカー?」
(うふふ、ムルト様ったら、私の名前を呼びながら探してるっ)
ハルカは今、ベッドの裏に隠れている。ムルトはというと、そんなハルカを探しているのか、一部屋、また一部屋と扉を開けては閉めている。
ムルトが順番に部屋の扉を開けているため、ハルカの部屋まで来てしまったら見つかってしまうかもしれないが、音を聞く限りムルトは部屋の中まで確認をしているようではなかった。扉を開けて閉めているだけなので、死角に隠れているハルカには気づかないだろう。
「ハルカー?」
すると、ムルトがハルカのいる部屋に到着したようで、扉を開く音がした。
(あっ!ムルト様来た……遠くにいったら隠れる場所変えよ)
「どこだー。ハルカー」
ムルトの声はハルカのいる部屋を後にし、また隣の部屋、また隣へと移動していった。
「よし。今だっ」
ハルカは立ち上がり、開け放たれた扉から廊下へと飛び出た。
(あれ?なんで扉が……)
ハルカがこの部屋に入った後は当然扉を閉めている。ハルカ以外に部屋に入ってきた者はおらず、ムルトも扉を開けては閉めているはずだった。それが、なぜか開いている。ハルカは疑問に思ったが、もう遅かった。
「っ!」
廊下に出た瞬間、ハルカを待ち構えていたかのように首のない骸骨が立っており、それがハルカを優しく抱きしめた。ハルカは一瞬焦ったが、この骸骨がムルトかティングの召喚物であるならば、ムルトがこちらに来るまでに振りほどけばまだ逃げられる。だが、ハルカはその骸骨の首を見てしまう。
「赤と青の斑模様……この身体はムルト様の!」
「おーいハルカー!もう五秒たったぞー!」
ムルトの声が、遠ざかっていった廊下の奥で、赤と青の頭蓋骨を持った白い骸骨が手を振りながら走ってきている。
「あ、ムルト様!」
「捕まえたぞハルカ!」
「えへへ、捕まっちゃいました」
優しく抱きしめているムルトを振りほどくのは簡単だったが、ハルカは嬉しさのあまりそれをしなかった結果五秒経ってしまい。捕まってしまった。
「ムルト様、なんで私がここにいるってわかったんですか?」
「あー、それを説明するのは簡単なのだが……近くにティアもいるだろう。向かいながら教えよう」
ムルトは自分の頭蓋骨を身体に戻し、新しく青いスケルトンを召喚し、ティアがいるという場所へ向かいながら、それを説明した。
【十傑宿舎横、庭園】
「本当にここにハンゾウがいるのか?」
「はい。まず私達大罪持ちは、美徳持ちに惹かれるようにできています」
というのも、大罪は美徳を、美徳は大罪を殺すようにできている。互いに嫌悪感を感じるようになっているのだ。
ムルトがハルカを見つけられたのもこれが理由で、来客用の部屋の一つから、途轍もない気持ち悪さを感じていた。ムルトもレヴィアもキアラも、美徳を持っているハルカやミナミ達もこの気持ち悪さを感じているが、それにはもう完全に慣れており、別に殺し合おうなどとも思っていない。だが、この気持ち悪いという感覚を使うことにより、このドロケイでは探索に向いている。
「ですが、ハンゾウさんは凄いです。その気持ち悪ささえも隠しきっています」
普通ならば、ムルト達は美徳持ちを見つけられないということは絶対にない。ハルカ達もムルト達の存在に気づいて逃げられるのだが、ハンゾウはその気配も、気持ち悪さも一切感じさせていない。
「やはり、さっき言っていた」
「ええ。雄ならば、私が気づけないなんてことはありません。そこです」
キアラは、花壇でも柵でもなく、空中を指さした。
「……」
誰からの返答もなく、一瞬の沈黙が流れる。キアラが指さしている空中で風が吹き、花びらが舞い、そこに壁や何かがあるわけではないということを教えてくれる。
「キアラ……空中には隠れられないと思うが……?」
「いいえ。絶対にあそこにいます。攻撃魔法は禁止なので確かめられませんが、絶対です」
そう言い切ったキアラを肯定するように、空中に亀裂が入った。
「なっ」
亀裂が広がり空間が割れ、その中から黒づくめの忍者が出てきた。
「これを見破るとは……お見事」
「うふふ。雄なれば、私から隠れることはできませんよ」
「隠れることはできなくとも、逃げ切ることならできるさ」
その瞬間、ハンゾウがブレ、残像が見えるほど速く動いたようだった。キアラはそれを予測していたかのように、服を脱ぎ去った。
「胸器乱舞」
それを見てしまったハンゾウは、まるで時を止められてしまったかのようにその場で止まってしまった。
「俺はいらなかったのではないか……?」
キアラはそれにゆっくりと近づき、胸を顔に近づけた。
「最近は私の魅了を退ける人ばかりで……ちょっと自信ありませんでしたが。『コットンさんに従ってください』」
「は、はい……」
ハンゾウはまるで操り人形のように姿勢を正し、コットンの下へと近づいていく。
「コットンさん、ハンゾウさんを檻までよろしくお願いします」
「あ、あぁ。キアラはどうする?」
「はい。残りの雄を探してきますよ」
「わかった。どうやら、俺の出る幕はなさそうだな。檻の監視は任せてくれ」
「はい。それでは」
そこでコットンとキアラは分かれて行動する。離れていくキアラの足音を聞きながら、コットンは高鳴る胸をおさえていた。
(……キアラ……エロいな)
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