骸骨と戯れる2/6
「へ?」
「ハイ、タッチ。これで私の勝ちってこと?」
ハルカは、あまりの早さと肩を叩いた手に驚いてしまう。何が起きたのかわからないまま後ろを振り返ると、身体中が紫色に染まっているレヴィアが立っていた。禍々しくも美しい魔力が、軌跡を描くようにレヴィアが跳んできたであろう場所でキラキラと光っている。
ムルト達もハルカ同様固まっているようで、スタート地点から一歩出たところで止まってしまっている。
「す、すごいですレヴィア様」
「まぁね。嫉妬の大罪は速さに特化してるから。攻撃魔法じゃないし、いいでしょ?」
「は、はい!」
レヴィアは、そう言ってハルカにウィンクをし、鬼を交代した。ハルカはレヴィアと入れ替わりでスタート地点へ戻っている。
「よーし。じゃ、次行くわよー」
レヴィアは手を振ってみんなの準備が整っているか確認をしている。
「「「始めのいーっぽ!」」」
すると、ハルカ、ミナミ、サキが手をつなぎながらそう言って線の前にジャンプした。
「は、はじめの?ハルカなんだそれは」
「あ!そう言えば説明していませんでした……始まる前にそう言って一歩分ジャンプして前に出たり歩いてもいいんです。ごめんなさい!」
「それと、始めの一歩のーこしたって言えば、その分を残せるんだ。その一歩は鬼が振り向いてても始めの一歩って言えば使えるんだぜ」
ジャックがそう補足をし、皆が頷いた。
「なるほどぉ。我はその始めの一歩使わせてもらおう」
ムルト達、異世界組は始めの一歩の使いどころがよくわかっておらず、残していたが、ガロウスはそう言って目一杯にしゃがみこんだ。
「はーじーめーのー、いーっぽ!!!」
ガロウスが気合を入れて地面を蹴ると、地面は陥没し、土煙が舞い、空高くへと|飛〈・〉んでいった。着地点はレヴィア、鬼の目の前である。
「はっはっは!ガロウス殿、それは反則じゃろう!」
異世界ならではの始めの一歩に、ついついミチタカも大笑いしてしまっている。
「一歩目で鬼の目の前に行ってはいけないとは言われてないのでなぁ。反則にするのであれば、次の試合にしてもらおうか?」
ガロウスは腕を組んで仁王立ちし、ハルカ達に向かってそう言った。
「で、でも」
「待ってハルカ、ガロウスの言う通り、このゲームではアリにしましょ。ま、ここまで近づいたところでこいつは私に触れられないから、安心して」
「ほぅ?中々言うではないかレヴィル嬢期待するぞ?」
「ふん、速龍王で嫉妬の大罪の私に触れられるとでも?」
「レ、レヴィア様がそういうのであれば……それでは、皆さん、第二回戦いきますよー!」
スタート地点の遥か向こうでバチバチと火花を散らせる二人。ムルト達がここへ到達する前に終わらせようとするガロウス、ガロウスに触れられることなく振り向く気のレヴィア、ムルト達もガロウスに先を越される前にレヴィアの下へ向かうため、皆が魔法を発動させている。
レヴィアは全身を紫色に染め、ガロウスはそれを見ながら手を構え、ムルトは足に力を、ジャックはクラウチングスタートの姿勢をとっている。その他の面々も各々の得意とする強化魔法、移動魔法を準備している。
「あらぁ~私達は避難してたほうがいいかもね~」
「で、ですね……」
キアラとシシリーは、鬼気迫る皆の雰囲気を感じ取って半笑いで一歩退く。レヴィアは皆のそれを見て木に顔を伏せ、だるまさんがころんだのスタートをきった。
「だ」
「もらった!!」
その一文字を言い終わるかどうかという瞬間に、ガロウスが動いた。だが、その腕が届く前に、レヴィアは横へ跳んだ。
「る」
レヴィアがガロウスの最初の一手を避けたのを皮切りに、至る所で爆発音や破裂音が聞こえてくるが、だるまさんがころんだを言い終えていないレヴィアは振り返ることができない。
「ま・さ・ん・が」
「ラ、ラマ!何をしている!!」
「はぁ?別にぃ?このスケルトンが前に出るんだからそれにあやかろうとしただけよ?」
「だ、だから俺の顔面に鞭を撃ったのか?」
「変な言いがかりつけないでくれる?私が狙ったのは足よ。足。ちょっと手元が狂っちゃったけどね」
「おぉいラマぁ!!ムルト、うちのが本当にすまん!」
「いやいいんだジュウベエ。ティアも咄嗟にありがとうな」
「ん。任せて」
「ムルトー大丈夫か~」
「ころんだ!」
レヴィアは、ガロウスをからかうためにわざと遅く言っていたのだが、後ろから聞こえてくる遊んでいる途中とは思えない話についつい早口で言い切ってしまう。その間にもガロウスの猛攻は続いていたのだが、レヴィアはその全てを避けきっていた。そして後ろを振り向くと。
「ぬおぉぉぉ!!」
「はい、ガロウス動いた。それとムルト、ラマ?ジュウベエ、ティング、コットン、ハルカ、ダン、ティア。って、あんた達何してんのよ」
呆れたようにそう口をしたレヴィアが見たものは、尻餅をついているムルトに向かって伸びている鞭を掴んでいるティアの召喚した骸骨を強化するティングに加勢すべく走り出しているダン。それと、ラマを叱っているジュウベエとコットン。ラマを睨んでぷるぷると震えているハルカだ。
「大体わかるけど、これだるまさんがころんだだから。さっさとこっちに来なさい」
ハルカはハッとし、ムルト達を連れてレヴィアの下へ歩き出した。ラマもジュウベエの小脇に抱えられて移動させられている。
「よーし、次行くわよ~」
レヴィアと手を繋いでいるのは、ガロウスだ。そこから順番にハルカ、ムルト、ティア、ティング、ダン、コットン、ラマ、ジュウベエだ。
ハルカとティアはしっかりとムルトの手を握り、ダンは両手の骸骨の迫力に身をすくめている。
(警戒するのはジャックね……)
レヴィアの目の前には、走っていた時のままの姿勢で止まっているジャックがいる。後方から聞こえた二つの爆発音の内の一つがジャックだ。一心不乱にレヴィアの下へ駆けていき、振り向くと同時にその速さを殺してビタッと止まっていた。
「だー」
その刹那の爆発音。
「るまさんがころんだ!」
レヴィアは早口にそう言って振り返った、目前にはジャックがすごい姿勢で固まっている。先ほどジャックの立っていた地面を見ると、地面が抉れてしまっている。
「もー!あんたらやる気ないの~?」
レヴィアがそう声をかけたのは、遥か後方、スタート地点から数歩ほどしか歩いていないキアラやシシリーだ。
「そんなこと言われてもー!皆さんがすごすぎるんですー!」
「そうよそうよ!私だって頑張ってるんだからー!」
キアラとシシリーはそう答えたが、レヴィアは少しだけ不機嫌そうだ。それは、キアラやシシリーよりも後ろにいるゴンとミチタカを見つけてしまったからだ。
「様子を見てただけだ」
というのは、だるまさんがころんだが終わってゴンが発した言葉。ミチタカはハルカ達と同じく日本の産まれだから遊び方もわかっていたのだが「子供たちが楽しく遊ぶ姿に楽しくなってしまった」とのことだ。
(ま、いいけど……問題はジャック、次で動いてるところを見なきゃ私の負けね……)
レヴィアに一番近づいているジャック。その距離は5mほど。。
「じゃ、次行くわよー」
「ふっふっふ、次はないぜ……」
ジャックが俯きながらそう言葉にした。
「な、なんですって?」
「この時のために残してたんだぜ?始めの一歩をなぁ!!」
ジャックは姿勢をなおす。
「ハルカ、あれはアリなの?」
「はい。始めの一歩は無敵状態みたいなものなので。始めの一歩を使う時は動いてもアウトにはなりません」
「なっ」
「始めの一歩てのは、ここぞの詰めって時に使うもんなんだよ。いくぜ?」
ジャックはそう言って腰を落とし、腕を後ろにもっていく。
レヴィアとの距離は5mも開いている。始めの一歩で到底届く距離ではないのだが、ジャックは元陸上部員。立ち幅跳びもしたことがあり、その自己記録は高校生の平均を上回る3m。それでも5mという距離には届かないはずなのだが、2mの距離を埋めるのは決して不可能ではなかった。ここはジャックにとって異世界、元の世界にはなかった身体強化魔法を使えば、その2mも詰めることができる。
「始めの、いいぃぃぃぃぃっ!ぽぉぉぉぉぉぉ!!!」
ジャックは、雄叫びとも言えるような声を上げながら跳びあがった。走るように手足をバタつかせ、少しでも前へ前へ跳ぼうとするジャック。それは、元の世界での自己ベストを、この世界では大幅に塗り替えることができるのではないかと期待に胸を膨らませていたからだ。
レヴィア達はジャックを見上げ、その見事なまでの跳びっぷりに口を開くことしかできなかった。
「うおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!これは2、30m跳べたんじゃねぇか?!世界新記録ってレベルじゃねぇよこれぇ!!!」
尻餅をつくことなく華麗に着地したジャックは、|振り向きながら〈・・・・・・・〉尋常ではないほどに喜んでいる。
「……ジャック、動いた」
「へ?」
喜びに浸っているジャックの耳に、冷静なレヴィアの言葉が届いた。
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