骸骨と戯れる1/6

そして翌日。

昨日のことなど忘れてしまったかのように、食堂は賑わっていた。


「ちょっ!ガロウスさん!」


「食事とは戦いだ!ちんたら食ってるお前が悪い!」


「好きなだけ食べさせてくれるんだから奪う必要ないじゃない!」


「黙れ小娘!これも修行だ!」


「シシリー、俺は負けないぜ!うおおぉ!虹龍レインボードラゴン!」


「ゴルルル!!」


「ちょっとダン!なんてところで創龍出してんのよ!!」


「うふふ、楽しいですね」


「あぁ。そうだな」


ダンの召喚した虹龍にハルカが見とれつつムルトにそう言うと、ムルトもそれに同意する。十傑のために設けられた食堂でそんなことをしているわけなのだが、現十傑であるミナミやコットンはそれを苦笑いしながら見守っている。ガロウスがヒートアップをしても、壁などを破壊することはないと知っているからだ。


「……」


「ムルト様?」


ムルトはハルカの後ろ髪をかきあげ、背中を見た。昨日まであった奴隷の印はなくなっており、ハルカが本当にただの魔族になったことに安堵する。


「いや、なんでもない」


「うふふ、変なムルト様」


「そ、そうか?」


各々が食事と談笑で楽しんでいる中、ティングが話始めた。


「さて、今日はどうするか」


「あぁ、みんな昨日はありがとう。今日はみんなで観光できると思うがどうだろう?」


「観光なら俺に任せてくれ」


「コットンさんだけでなく私も案内できますよ」


「それじゃ、今日は二手に分かれて観光する?あんた達はどうするの?」


「我もダンの面倒を見るばかりでは息がつまる。今日は貴様らについていこう」


「それでは、やはりみなさんと一緒に王都を回った方がよいのではないですか?」


ムルト達は今日の予定を考えていく。王都観光もいいのだが、十傑の半分や、美徳持ちと知られているカグヤやハンゾウがぞろぞろと王都を歩いているだけで人だかりができてしまう。それは二手に分かれても同じで、満足に王都を楽しめるかどうかというのはわからなかった。

そこへ、ハルカが元気よく手を上げ、提案をする。


「せっかくみなさん参加できるんですし、今日は遊びませんか?」


「遊び?」


「遊びといっても、この国の娯楽は釣りかカードくらいしかないぞ」


「いえ、道具を使わず、この身一つで遊ぶんです!コットンさん達はガロウスさん達と初対面ですし、ガロウスさん達もコットンさん達とは初対面です!だから遊びを通じて仲良くできたらいいなと思って!」


「おぉ。それはいいな。俺はハルカに賛成だ。友が増えることはいいことだ」


「なるほど……私もハルカさんに賛成です。ティングさんやキアラさん、レヴィアさんとも仲良くなりたいですから」


全員ハルカの提案には賛成のようで、わいわいとまた賑わい始める。


「でも、道具を使わない遊びって何があるんだ?」


ダンがそうハルカに聞く。といっても、この場にいるほとんどが冒険者を生業にしているもの、暗い経歴を持つ者ばかりだ。遊び、といってもすぐに思いつくのは拷問や狩りだ。


「はい!それはですね……」







「……で?なんであたしが呼ばれたわけ?」


「よいではないか、こういうのも悪くはない」


「ふふふ、楽しみなのである」


そう言ったのは、ラマ、ジュウベエ、ポルコの三人だ。ムルト達で仲を深めようと話があがった時、コットンが他の十傑とも仲良くなってほしいと思い、ミナミ達と分かれて他を誘っていたのだ。この場にはバリオを除く現十傑が揃ったことになる。


「丁度修練場の空きがあってよかったな」


「はい!これだけ広ければきっと楽しいです!」


ムルト達は、王城にある兵士たちが使う修練場、第三兵士修練場にきている。普段は兵士たちの訓練に全ての修練場が用いられているのだが、今日は運よくここだけが空いていた。


「はい!それではだるまさんがころんだ。のルールを説明しますね!」


ハルカが修練場の端を指さすと、サキがそこに木を生やす。


「だるまさんがころんだは、鬼と人に分かれて遊びます。鬼はこちらを向かずにあそこから『だるまさんがころんだ』と言って振り向きます。その時動いている人がいれば指摘をします。指摘をされた人は負けとなり、鬼と手をつないでそのゲームはもう参加できません。鬼は『だるまさんがころんだ』を早口でいったり遅く言ったりしてフェイントを混ぜると勝率があがります!言いきらずに振り向くのはダメです。人側は、鬼がこちらを向かずにだるまさんがころんだと言っている時にだけ動けます。振り向いた時に動いていてしまったり、振り向いた後にフラついてしまってもアウトです。これくらいな気がしますが、大丈夫ですか?私、説明が下手なので……」


「いや、ハルカ。俺は理解できたぞ」


「私も大丈夫よ」


「我もだ」


大体は理解が出来たようで、皆楽しもうとしてくれている。その中から、冷たい声が聞こえてきた。


「あたしは帰るわよ」


「ラマさん」


「大体、あたしはあんた達と仲良くするつもりなんかないし、帝国が攻めてきそうだって時に遊んでいる場合じゃないでしょ」


ラマのそれに反論できるものはいなかった。


「バリオさんも来てないみたいだし、じゃあね」


「待つのだラマ」


ジュウベエがラマを呼び止める。


「バリオは俺が誘ったが、遊びに参加できないことを残念がっていたぞ。帝国の襲撃は急を要するものではなく、これから共に戦うのだから、仲を深めたかったと」


「でも来ていないってことは手が離せない用があるってことでしょ?」


「あぁ。吸血鬼の国への入国申請に手間取っているからだ。それも彼らの力を貸してもらうのだから俺達がやるべきことだ。王だってそれが筋だと言っている。彼らに尽くせとな」


「……」


ラマはジュウベエにそう言われ、固まった。唇をかみしめたかと思うと頭を掻きながら大きな声で言った。


「あぁ~もう!わかったわよ!やればいいんでしょ!やれば!その代わり、絶対に負けないから!!」


「そうである。ラマも一緒に楽しむのである」


「うっさいポルコ!ほら、やるわよ!」


ラマは怒りながらスタート地点として引かれている線の外側へと歩いていく。ムルト達も笑いながらそれに続き、綺麗に整列していく。


「せっかく魔法があるんですから!攻撃魔法以外の魔法は使ってもいいのでー!」


鬼として木に向かったハルカは、大きな声でそう言った。

皆がそれに頷き、準備は完了だ。


だるまさんがころんだ。一本目、ハルカは目を瞑り、木に頭を預ける。


「だー……」


ハルカは、初めはゆっくり言ってみんなに慣れてもらおうと思ったが、それは風切り音と共に止められてしまった。

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