骸骨は柔らかく
(とまぁ、何と言ったところで)
ムルトは何かを掴み、勝つ気で、マサノリも両手で自分の相棒を固く握っている。二人は駆けていた。
(これで終わりですがねぃ……)
幾度とムルトを吹き飛ばしてきた横薙ぎ、それを今日一番の力で振りぬいた。
「ふんっ!」
「っ!な」
キリキリと、高くも鈍い音をたてながら、ムルトがマサノリを睨みつけている。
「わかった」
「ほう?」
ムルトはそのままマサノリの刀を押し返し、距離をとった。マサノリは退きながら刀を構えなおし、ムルトを観察する。
(一歩進んだところで、すぐに躓くと思いやしたが……)
マサノリは、目の前で静かに強く剣を構えている男に、危機を覚えた。
(躓くほど、足腰弱くないものなぁ)
「いくぞっ!」
「こい!」
二人は再び駆け、互いの剣を交わらせる。先ほど何度も見た光景だが、今は完全に互角だ。
また、マサノリの横薙ぎ、ムルトもまたそれをいなし、剣戟を続けた。
「気づきやしたか?」
「あぁっ!」
二人は剣と共に言葉を交わした。
「俺の友が言っていた。攻撃には剛と柔があると」
それは、前の世界で合気道を修めていたミチタカが、ムルトに教えた言葉だ。
攻撃、それ即ち敵を倒すための技だ。だが力任せに剛の攻撃だけでは、敵を倒せてもこちらの体力や身を擦り減らしてしまう。だから扱う技を変えるのだと。格下の相手や、敵が多い場合には剛で蹴散らすのではなく、柔を使って捻るのだと。
マサノリはムルトを舐めていたのか、最初は柔の攻撃しかしていなかった。ムルトの腕であれば、そのような攻撃は簡単にいなせる。が、不意にくる剛の攻撃を受けきれなかったのだ。
ムルトはマサノリが剛と柔を使い分けているのに気付いた。柔には柔で、そして、剛には剛で返すことで、マサノリの攻撃に受けこたえている。
「気づいたところでっ」
「無駄っだと思うかっ」
「っ、あぁ!」
ムルトはマサノリの攻撃を捌ききってはいるが、剛の攻撃を返す時、マサノリに吹き飛ばされないよう全力の一撃を繰り返している。
マサノリもそれがわかっており、先ほどから剛の攻撃しか繰り出していない。全力の攻撃を常に続けているのだ。いつかは体力を削り、自分の攻撃に耐えられなくなると思っていた。
(何度刀を交わせても、全く強さが変わらねぇ……どんだけ体力あんだよ)
マサノリの考えはあっている。だが、それは人に対しての考えであり、ムルトは人間でもなければ、生物でもない。スケルトンなのだ。スケルトンの体力は、
「チッ、骨のくせに力比べはあっしと同等って」
「骨のっ硬さにはっ自信っがある!」
いくら体力があろうと、少しでもマサノリの攻撃を見誤れば簡単に地に転がされてしまう。ムルトにもあまり余裕はなかった。剛と柔が織り交ぜられた剣戟に、ムルトは必死に食らいついている。
魔法やスキルが禁止されている戦いだ。決定打は己の力量のみ。時間が経てば、いつしかマサノリの体力が尽き、ムルトの勝利は確定する。だが、ムルトの中でのその勝利は、認められるための勝利とは言い難い。
「……マサノリ、俺が教えてもらったのは剛と柔以外にもうひとつある」
ムルトはマサノリの剣を捌きながら、ミチタカが自分に見せてくれたものを思い出す。
ミチタカがガロウスと実戦してみせた、合気道の技だ。相手の力に自分の力と技を足して相手に返す。
「柔よく、剛を制す」
「なっ!」
マサノリの繰り出す剛の攻撃を、ムルトは柔で受けた。ただし、受けこたえたのではなく、剣を斜めにずらし、マサノリの刀を滑らせた。刀はムルトの剣の背をなぞっていく。段々と威力の強くなっていた攻撃だ。すぐに止めることはできなかった。
「もらった!」
「っち!」
だがマサノリもS2ランクの冒険者だ。瞬時に刀を反し、切り上げた。
「な、に」
そこにムルトはいない。
「今度こそ、もらった」
下から声がする。そこには、足払いをするでもなく、腹を蹴るでもなく、ただただしゃがんでいるムルトがいた。だがその手には、今まさに自分の首に向けられている剣。
ムルトはマサノリの刀をいなした後、すぐには首をとりにいかなかった。そんな簡単に倒せるほどマサノリは弱くないと思っているからだ。だから確実に、一間空けた。
ムルトがただ立ち上がり、マサノリの首へと剣を突きつけた。
「……へへ、あっしの負けだ」
「感謝する」
マサノリが負けを認め、二人は武器を鞘に納めた。
「ムルト様ーー!!!」
観戦席から大勢が駆け寄ってきた。ハルカ、ティア、ダン、ティングがムルトに抱き着き、まるで我がことのように喜んでいる。レヴィア達もはしゃいではいないものの、心の中では称賛を送っているだろう。
バリオやジュウベエ達もやってきている。
「どうだった」
「そうだなぁ。下駄を履かせたとはいえ、全力を出せばあっしよりも上でしょう。他の仲間も化け物揃い。さすが賢神、いい奴らを仲間に引き込めましたねぃ」
「で?お前はどうだったんだ」
「あっし
「……それはミナミ次第だ」
「へっへ~んありがてぇ!」
ムルトの知らないところで何やら思惑があったようだが、それもムルトの勝利で終わった。
ハルカ達と勝利を分かち合っていたムルトがバリオに近づいていく。
「これで、よかったか」
「あぁ。お前たちの勝ちだ。十傑会議への参加認めよう」
「やりましたね!ムルト様!」
「おめでとうございます!ムルトさん!」
「いやいや、これも皆のおかげだ。俺からも礼を言うぞ」
「へっ」
またわいわいと盛り上がるムルト達を見てバリオは微かに笑った。
「おい、時間が勿体ねぇ。さっさといくぞ!」
「あ、あぁ。すまない」
ムルト達は来た道を引き返し、王城へと戻る。
円卓の間にはバリオ、ジュウベエ、ラマ、ポルコ、コットン、ミナミ、サキ、ジャックたち現十傑の他に、ムルト、ハルカ、ダン、シシリー、レヴィア、キアラ、ゴン、ティング、ティア、カグヤ、ハンゾウ、ガロウスの一行が加わった。
「では、十傑会議を始める」
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