骸骨と剣の極み
「どうする?やめるか?」
マサノリは、余裕かのように大太刀を肩に担ぎ、修練場の端にまで飛ばされたムルトの方へ近づいていく。
「いいや。まだだ!」
そこへ、未だ立ち込める土煙の中からムルトが飛び出した。
剣を突き出しているムルトと、肩に担いでいるマサノリ、すぐには反応できないはずの攻撃に、マサノリは対応している。
「ダメかっ」
「あっしと満足に戦いたいなら、あと2、30年は修行しないとダメですよい?」
ムルトの剣をいとも簡単に受け止め、いなしている。
「そんなに待ってはいられないのだ。すまないが、押し通る!」
「へぇ……」
ムルトはマサノリに向かって飛び込み、一心不乱に剣を叩きつける。スキルを使ってはいないが、持ち前の怪力と、今まで培ってきた剣技を全て出しきっている。
マサノリはそんな攻撃を、まるで赤子でもあやすようにその攻撃を受け止める。
「ふむ」
マサノリは短く息を吐き、ムルトの攻撃に合わせて、ムルトの剣へ大太刀を叩きつけた。
「ぐぉっ」
先ほどまで互角の剣戟かと思われていたのだが、マサノリの放った一撃を喰らったムルトは、最初の時のように吹き飛ばされてしまった。
「眼はいいようですが、いくら修行したところでお前さんがあっしに勝とうだなんて夢のまた夢ですねぃ」
マサノリはムルトに対して呆れかえってしまっているようだ。マサノリは、なぜバリオとガロウスがこの男を自分と戦わせようと思ったのか、全く見当がつかないでいた。
(バリオさんがこんな無駄なことに時間を割くだなんて思えやせんが……)
ひとつの希望としては、目の前の男が真なる力を覚醒させて、自分に勝つという可能性もあるが、この戦いはスキルと魔法を禁止している。ムルトもそうだが、当然マサノリもスキルなどは一切使っておらず、持ち前の技術だけで戦っている。
「はぁ……」
マサノリは、自分の貴重な時間をこんなにも無駄に浪費していくムルトに、段々と苛立ちを隠しきれなくなってきている。マサノリはため息をつきつつも、ムルトに参ったと言わせるために追撃を仕掛けようと歩き出す。
(どうすれば……)
ムルトは、マサノリに吹き飛ばされた先で考えていた。
(俺もあの男もスキルは使っていない。純粋な力と技。剣を交えたからわかる。それらは俺と何ら変わらない。マサノリはさらに上の何かを……)
マサノリがムルトを吹き飛ばす際の一撃、それ以外ならばムルトも弾き、受け止めることが出来ている。受け止めることのできないその一撃が、純粋な力の差だけではないとムルトは確信した。
(ならば技、スキルではなく、加減? 力の加減か? ミチタカとミナミが何か話していた気がするが……)
もう一息で答えがわかりそうなムルトだったが、マサノリが既に迫っていた。
「もう一丁、いきましょうかい」
「頼む」
マサノリは飽き飽きしていた。
確かに、ムルトを人間の冒険者のランクに当てはめるとすれば、Sランク、あるいはS1ランクの強さを保有している。それはスキルや魔法を使った時の強さではあるが、それらを抜いてもSランク相当の強さはあるはずだ。だがマサノリはさらにその上、スキルを抜きにした素の状態でも、S1ランク以上の強さはある。
そんなマサノリが、自分よりもはるかに格下であるムルトを相手にしているのだ。本気を出せば楽に勝てるはずなのだが、マサノリと肩を並べているバリオからのお願いだ。きっとムルトには何かあるのだろうと、マサノリはあえて手加減をしている。だが、ムルトの成長というなの可能性は、未だ微塵たりとも見えてはいない。
(……はぁ。
ムルトとの剣戟。自分の軽い攻撃を必死に弾く姿を見て、これ以上成長しないことは明らかだ。それに、マサノリはムルトが人間ではないことをとっくに知っている。ここで殺したとしても咎められることはない。マサノリを咎められるほどの実力を持つ者が少ない。
先ほどの手加減ではなく、全力の攻撃。ムルトの剣を強く弾き、手を高い位置へと上げさせ、股に足を入れ、軸をずらす。身体と大太刀を縮め、突きの姿勢になり、それを放った。
「っ!瞬歩・霞、 連撃・五月雨ッ!」
濃厚な死の接近に気づいたマサノリは、瞬時に
「ははは、あっしでも骨が折れちまうな……」
「マサノリいぃぃぃいぃぃぃぃぃ!!!だから儂は貴様を十傑に入れたくないのだ!!!!」
修練場へ響き渡るバリオの怒号、ムルトは尻餅をつきながらも、何が起こったのかをしっかりと見ていた。
マサノリが、殺す気でムルトに攻撃を加えた瞬間、大きな影が三つ、観戦をしているバリオ達の場所から飛んできた。
一人は城のように巨大なハンマーで潰そうと、一人は紫色の爪で心臓を抉ろうと、もう一人は氷の鎌で首を斬り落とそうとしていた。観戦席とムルト達のいる場所は決して近くはないが、その者たちは一瞬で詰めてきた。そしてマサノリと同じように、マサノリを殺す気で攻撃を仕掛けていた。
そして当のマサノリは、それらの攻撃、
「へへへ、すみませんねぇ」
不意打ちを全ていなしたマサノリでも、さすがに少し焦っているようだ。
観戦席を見ると、マサノリに攻撃を加えようとしたのはハルカ達三人だけではないらしく、ガロウスはバリオと睨み合い、ティングはゴンに肩を掴まれ、ティアはミナミに抱きしめられている。そしてこの男も。
「どりゃあああああああああ!!」
時間差で、ダンが飛んでくる。
「……」
殺気も何も孕んでいないダンの突撃に、マサノリも横薙ぎで対応する。
「せいっ!!」
ダンもそれに合わせ、宵闇を赤へと変え、攻撃を繰り出す。
(……ッ!)
ビリビリと大気が震え、ダンが地面へと着地する。
「あっしが悪うござんした。もう殺そうなんてしやせんので、武器を引っ込めてもらっても?」
それでも殺気を引っ込めないハルカ、レヴィア、コットン。
「俺が不甲斐ないばかりにすまない。俺からも頼む」
「……次はないわよ」
ムルトが声を変えると、三人は渋々といった風に殺気と武器を引っ込め、観戦席に向かって歩き始めたが、レヴィアはマサノリに捨て台詞を吐いていった。ダンも三人の後を走って追いかけようとしたところに、ムルトから声がかかった。
「ダン、お前には助けられてばかりだ」
「へ? 俺何もしてないけど?」
間抜けた顔でそう答えたダンに、ムルトは微笑んだ。
「いや、なんでもない」
二人は、四人が観客席に戻るのを見送り、マサノリがムルトへ向き直って厳しい口調で言った。
「正直、お前さんは弱い。次、あっしがお前さんを吹き飛ばすか膝をつかせたら、あっしの勝ちでこの勝負終わってくだせぇ」
マサノリからの提案。これ以上は付き合いきれないと言っているようだ。
「あぁ。それで構わない。最後の一本、よろしく頼む」
「……わかりやした」
ムルトは月光剣を真っ直ぐに構え、マサノリと相対する。
(……?さっきとは何か違う?)
先ほどと全く同じのムルトの構えだが、マサノリはムルトの何かが変わったと感じ取った。
(マサノリが先ほどダンに繰り出した横薙ぎは、俺が受けきれなかった一撃と同じ攻撃だった。だがダンは吹き飛ばされず、そのまま着地した)
ムルトは月読で見ているのだから、間違いはない。そこで、ムルトは気づいたのだ。
「いくぞ」
「頼む」
二人は短く言葉を交わし、最後の剣戟を交わす。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます