骸骨に任せろ

※抜けてしまった話はこれにて終了です。次の話が骸骨達の鎖となります。

日を改めて、順番を戻そうと思います。


★★★



「まず、お前らをなぜここへ呼び戻したかの確認だ」


バリオはそう言って一枚の紙を取り出した。


「これは、十傑全員に出した手紙だ。ここに書いてある通り、緊急事態が発生した」


「十傑全員って、この手紙にジルの名前はないし、ロンドだってまだ来てないのに始めちゃっていいわけ?」


ラマがそう言ってバリオに食って掛かるが、バリオはやれやれ、といった風に頭を振った。


「ジルについてはお前らも薄々気づいているだろうが、ロンドについては儂も大まかに聞いただけだ。説明してくれるな?」


バリオはジュウべエに目配せをし、ジュウベエもそれに頷く。


「あー、真に言い難い事ではあるが、結果を言えばロンドは裏切った」


「裏切った?あんたロンドと一緒にラビリスに行ったんじゃないの?」


「あぁ、そうなんだが、色々と問題が発生してな。件の黒色のスケルトンの配下と思われるアンデッド達がラビリスへ奇襲、俺もロンドもミナミ達もそれの対処にあたっていたんだが……ロンドは喧嘩祭りの賞品だった聖龍の雫を奪取していった」


「ムルト達も戦っていたのに、戦線離脱をしたということか?」


「そういうことになる」


「影の多い色男だとは思ってたけど、本当に裏切っちゃうとはね。行き場所はわかっているの?」


「あぁ。元々あいつの目的が聖龍の雫で、それをお袋さんに使いたいと言っていた。ミナミ達もジャックの腕を治すために競っていたが、そこのハルカちゃんのおかげでなんとかなった」


ラマは、部屋の端に立って恥ずかしそうにお辞儀するハルカを見た。そしてその横のムルトに目が移り、少しイラっとしつつも話を戻そうとする。


「つまり、ロンドは自分の母親を救うために私達を裏切って持ち逃げ、自分の国に戻ったというわけね。そりゃ緊急招集があっても来ないわけね」


「手紙はロンドにも出したが、帰ってきたのはロンドの探鳥のみだ。儂達との決別を望んでいるのは確かだろう」


腕を組みながら静かに言ったバリオを見て、少しだけ場が静まり返った。

コットンもポルコも、短くはあったがロンドと面識はあった。イカロス王国を守るための十傑、冒険者たちの目標でもある自分たちの中から裏切り者が出てしまったことを悔いてはいるが、それ以上に付き合いの長かったバリオやジュウベエ達のことを考えると何も言おうとは思えなかった。


「ロンドの件はわかったわ。ジルは?ジルの身に何かがあったことはわかるわ。それが私達全員を集めるほど重要で危険だということも。で、私が知りたいのはそれが何かっていうこと」


「ふむ。まずはこいつだ」


そう言ってバリオは一つの鳥かごを取り出した。その鳥かごの中には、止まり木で静かにしている一匹の鳥がいた。鳥といってもただの鳥ではなく、全身が鈍色の鋭い刃物でできている。


「ジルの刃飛ハトね」


「その通りだ。そしてジルがこいつに持たせた手紙がここにある」


バリオが次に取り出したのは、少しだけ赤く染まっている紙。それが模様などではなく、本物の血だということをダン以外がわかっている。


「ここに書かれていることをそのまま読み上げる。

天魔族、子供、傲慢、負ける、行き先、吸血鬼

この6単語が書かれていた。ジルはもう死亡したとみて間違いないだろう」


「っ!ジルがそんな簡単に死ぬわけないでしょう!?」


「遅かれ早かれ人は必ず死ぬ。絶対ということはない」


「手下を使い潰してた女王様がよくいうものだ」


「ッ!」


「おお怖い怖い」


「ゴン、口を慎め」


十傑の中で、人一倍仲間想いのラマが取り乱しそうになったところに、ゴンが口を挟んだ。ラマは恐ろしいほどにゴンを睨みつけ、ゴンはそれをせせら笑う。それを横で見ていたティングが注意する。バリオもラマとゴンの二人を睨み、それ以上事が大きくならないように釘をさす。


「……二人共、遺恨が未だにあることはわかるが、この場には持ち出さないようにしてもらおう。庇うわけではないが、ラマも成長している。昔と今では違う」


「……チッ」


ゴンはそれ以上何も言わず、静かになった。


「……話を戻す。ジルのこの手紙から、ジルを殺したのは天魔族の子供、次の行き先は吸血鬼族の国で間違いないだろう。気になるのは、この傲慢という単語だが、これはそこにいる奴らと同じ、大罪のスキルを持っていると考えて間違いない」


「その一単語からだけでは断定できないのではないか?」


「いくら天魔族といえど子供、その子供に遅れをとるほどジルは弱くない。それに、もうここに憤怒、怠惰、嫉妬、色欲が揃っておる。黒いスケルトンは暴食と強欲、残る一つは傲慢だ」


「明らかな敵対、その大罪を仕留めに行くってこと……明らかな敵対だったらそこのスケルトンもしたはずだけど?」


ラマは、ムルトがセルシアンを殺したことを未だ許していないようで、そう言ってムルトを睨みつけた。バリオはまたしても複雑な顔をしてラマを嗜める。


「だから遺恨を持ち出すな。セルシアンについてはまた別に話がある。この天魔族の子供にしても、ひとまずは話し合いをしたいところではあるが、どちらにせよ人を送らねばならない。ロンドに件に対してもそうだ。裏切りは重大な罪だ。何らかの罰を与えなくてはいけない」


「つまり、ロンドさんと同等、その天魔族の子供以上に強い戦力を向かわせなければならない、ということですね?」


ミナミがバリオに対して確認をした。バリオは静かに頭を縦に揺らしたが、すぐに口を開いた。


「だが、難しい問題がある」


「問題?」


「クルス帝国に侵入している斥候からの報告が途絶えた」


クルス帝国、イカロス王国に並ぶほどの力を持った武装国家である。年中殺気だっているわけではないが、何度かイカロス王国とは戦争を起こしている歴史があるが、ここ数百年はそれもなく、他国に対しての攻撃もしていないのだが、念のためバリオはクルス帝国へ自分の部下を忍ばせている。

その部下からの定期報告が少し前からなくなっているのだ。さすがのクルス帝国でも、端的に殺すということはしないはずだが、それをするということは、それほど本気でことを進めているということになる。


「知っての通り、冒険者は傭兵ではない。政治に巻き込まれることを良しとせず、また、巻き込むことも良しとしない。つまりイカロス王国の防衛はイカロス王国兵士、そして、冒険者ではあるが儂等十傑がそれにあたる」


「ほう。読めてきたぞ。我らをその吸血鬼の国とやらに向かわせる魂胆か」


ガロウスが薄っすらと笑い、バリオに向かってそう言った。


「その予定なのだが、貴様は国の防衛にあたってもらうぞ」


「おう?」


バリオは腕組みをしてムルト達を見渡した。


「冒険者を政治に巻き込むことは良しとはせんが、それ以外の者はそうではない。お前らの中にも何人か冒険者ではないものが混じっておるな?」


それはガロウスとティア、ハンゾウやゴンのことを言っている。ガロウスは勿論として、ハンゾウなどの美徳も貴重な戦力である。


「それと美徳のスキルを持つ者もこの国から出したくはない。正義、知恵、堅固、信仰、節制、慈愛。七つの内の六つが揃っている。正直なところ手放したくはない」


「なるほど」


ムルトは顎に手をあて考え、レヴィア、ティング、キアラを見る。それに気づいたレヴィアは面倒な顔をしつつも微笑んだ。


「ならば、その任務、俺達モンスター組が請け負おう」


ムルトはそう言って手を上げた。


「ふふ、自分から名乗り出てくれるとは、有難い」


「元々俺達はミナミに協力するためにここに来たんだ。できる限りの協力をする」


「吸血鬼の国に赴くのはムルト、ティング、レヴィア、キアラでいいな?」


「出来ればハルカも同席してほしいのだが」


「さっきも言ったがそれはできない。勝手なお願いだとは儂も思うが、どうかよろしく頼む」


「ムルト様……」


ムルトは断られることをわかっていたが、もしかしたらという気持ちでバリオにきいてみた。

だがそれは叶わず、ムルトは少し暗い顔をしてしまった。ハルカはそれを見つけ、ムルトの手に触れ、名前を呼ぶ。


「大丈夫だハルカ。ならばバリオ、ハルカ達のこと頼むぞ」


「あぁ。美徳持ちは前線に出さん。ハルカは儂が守ることを約束しよう」


「ムルト、俺もついている。安心してくれ」


バリオとムルトは約束をし、コットンも心配はいらないと言ってくれ、この話は解決した。


「それでは、吸血鬼の国に向かう四名に詳細を話すが、他にしたい話もある。大罪と美徳のスキル持ち以外は退出してくれ。後で決まった事柄をこの場にいる全員へ連絡する。それまでは自由にしていてくれ」


ラマやポルコ、コットンの十傑達はすぐに席を外し、円卓の間を後にする。ガロウスやダン達も一言二言ムルトと言葉を交わし、部屋を後にした。

円卓の間に残っているのはムルト、レヴィア、キアラ、大罪を持つ三人とティング。そしてハルカ、ティア、ミナミ、ジャック、ハンゾウ、カグヤ、美徳を持つ六人とバリオだ。


「自由な席についてくれ。これから話すのは大罪、美徳、双方にとってとても大事な話だ。しっかりと聞いて、よく考えてくれ」


バリオは先ほどのように威厳のある口調で話し始めた。


「端的に言えば、世界の命運はお前らの手にかかっている」


全員の頭の片隅にあった不安は、徐々に形を成していく。

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