龍王騎士の試練
龍王騎士。
それは文字通り、数ある龍王の一体へ騎士になるための試練を受け、龍王へ生涯を誓うというものである。
本来、龍王の騎士とになるためには、龍が龍王に認められ力を分けてもらいなるのだが、例外も存在する。
魔族や獣人、エルフやドワーフなど、多種多様のものが龍王の騎士となる可能性がある。それは当然人族も。
だが、龍王の騎士になるためにはいくつかの条件がある。
一つ、龍王に認められていること。
一つ、龍であること。
一つ、裏切らないこと。
細かいものはその龍王によって違うが、大まかなものはこの程度だ。気になる条件は龍であること。というものだが、ならばなぜ魔族やエルフなども龍王の騎士になれるのか?本来はなれないはずなのだが、これにはちゃんとした手順がある。
龍種以外の種族が龍王の騎士になるためには、龍を|創〈・〉らなければならない。そうしてできた龍は|創龍〈そうりゅう〉と呼ばれ、その龍を創ったものの新しい武器となり翼となる。
これは龍種以外が龍王騎士になるために編み出されたものであるが、試練のひとつとなっている。
創龍とは、言わば誓いの具現化。材料が良ければ、多ければ多いほど強い創龍を創ることができるが、その分失敗も多い。
簡単なものであれば、龍王の血に自分の血を混ぜて作るのだが、そこで対話が必要になる。自分の血と龍王の血と話し合うのである。材料が増えればそれらとも話をしなければなくなるのだが、相手が多ければ多いほど、自分という個を見失いやすくなってしまう。
強くなるために、龍王の役に立ちたいがために無謀な材料を組み合わせ強力な創龍を創ろうとするものもいるが、それらは箱に閉じこもった後、対話がうまくいかずに箱から出られなくなり、餓死してしまう。
試練はそれだけではないのだが、欲張ってしまったが最期、龍王騎士として振舞うこともなく命を落とすものも少なくなかった。
『ダンが今やっているのはこんなところね』
「なるほど。ダンは今、俺やレヴィの血と対話をしているといことか?」
『そうなるけど、本当に無茶だと思うわよ。いくらなんでも多すぎる』
「ダンならやってくれると私は思うぞ」
「あぁ。俺もそう思う」
レヴィアの背中の上で、ムルトとティングは龍王騎士の試練について話を聞いていた。
シシリーが心配しないようにと、ガロウスとは距離を空けているので、聞かれる心配はない。
「シシリーさん、なんだか悲しそうですよね」
「あぁ。俺もそう思う」
『そうね。無理に明るく振舞っている気がするわ』
レヴィアの背中からシシリー達を見下ろし、ムルト達はため息をついた。
「だが、今の俺たちはダンを信じて待つことしかできない」
「そうですね。ムルト様」
「ダンならやってくれるさ」
『……だといいんだけどね』
龍王騎士の試練で、強い創龍を創ろうとし、色々な材料を混ぜたことのある魔族がいた。
その魔族本人の血、龍王の血、Sランクモンスターの血、名のある武道家の血、合計4つの材料を混ぜ、龍王騎士になったものがいる。だが、それが成功例の|最高〈・・〉。
5つ以上になると、誰も龍王騎士の対話の試練を突破できるものはいなかった。
それに対し今のダンは、ガロウスの血、ムルトの骨二本、ティングの骨二本、レヴィアの鱗、キアラの体液、ハルカの血、ティアの血、ミナミの血、ミチタカの血、合計11つの材料を混ぜ合わせている。
レヴィアには不安しかなかったが、それでも止まることはできなかった。
何よりダンが望んでいることであり、それを教えたとしてもダンならば「少しでも可能性があるんだったら」と言うと思っていたからだ。
『でも、信じることしかできないのよね……』
「あぁ。そういえばレヴィ、試練は対話だけではないと言っていたが、他には何があるのだ」
『え?そうね。大きく三つあるわ。対話、闘争、一体化。それをあの箱の中で終わらせるの』
「闘争と一体化?」
『説明するとね』
まずは対話。
これは創龍を創る前段階。それぞれの材料と対話をし、どのような龍にするかを擦り合わせ、力になってくれるように話し合うのだ。本来であれば自分の血と龍王の血とで話し合い、どのような形態になるのかを話し合うのだが、材料が多ければ多いほどそれに相違がでてしまい、話がまとまらず次の闘争へと移ることなく息絶えることがある。
そして、闘争。
対話を元に、どのような姿になるかを話し合った後、材料がその姿形になるのだが、その固められた力を屈服させ、自分の力にしなければならない。
対話の試練を超えられたとしても、この闘争に負けてしまえば逆に力を奪われ、精神を乗っ取られてしまう。精神が元の人物と全く違うものになってしまい、閉じ込められた箱から出られなくなってしまい、息絶える。
それに打ち勝ち、最後の一体化へと移る。
対話、闘争を終え、力を我がものにした後、自分の精神と混ぜ合わせ、完全な姿形を持った創龍へとなる。創龍は個人によって姿形、用途が変わり、必ずしも龍王と同じ属性とも限らない。
ここまで終わってやっと箱の中から出てくることができる。
レヴィアとガロウスは、早くとも対話が終わるのは二週間ほどかかり、闘争、一体化まで終わらせるためには長く見積もって一ヵ月以上、もしくは一生出てこないものと思っている。
(んま、こんなこと考えるのはやめて、今は目の前のことに集中しないとね)
レヴィア達が飛び立ってから既に3時間ほどが経っている。レヴィアの見立て通りであれば、王都へはもう半分、同じく3時間ほどあれば到着するはずだ。
『王都まであと3時間くらいよ。武器の手入れなりなんなり今やっちゃいなさいよ』
「武器の手入れ?」
『……ったく。あんた平和ボケしすぎ。いくら大人数、勇者様がいたって、私たちはモンスターなのよ?王都の影が見えるころには私達も発見されて、警戒網が張られるはず。Sランクのドラゴンが二体もいたら、ねぇ?』
「……ふむ。確かに」
ムルトは顎の骨をさすりながら考えた。王都という大きな国へ、大災害レベルのドラゴンが二人向かってるというだけで危険なのに、その背中には何人もの脅威を乗せている。討伐対象にされても仕方がないほどに。
「ガロウス達にも報せなければな」
『それは大丈夫よ。ガロウスにも、王都が近づいてきたら敵意がないようにゆっくり飛行するって伝えてるから』
「ふむ。それはよかった」
『えぇ。それに……』
『ぬおおおぉぉぉぉ?!!』
レヴィアが何かを言おうとした瞬間、下からガロウスの大きな声が聞こえた。
何事かと皆が下を見ると、ガロウスが手に持っている箱が、ガタガタと大きく揺れているようだった。
「まさかっ」
『ダン?!』
『おぉ!!レヴィル嬢!!ダンのやつ!!対話を突破したようだ!!』
「レヴィちゃん、それってすごいことなの?」
静かだったキアラがレヴィアとガロウスの喜びようを見てそう聞いた。
『すごいってレベルじゃないわよ!さっき話たけど材料が多すぎる上に、そのすべてがダンより格上の材料なのよ!それを一日、いえ。半日足らずで対話を終えるって、聞いたことがないわ』
『ふははははは!次に移る!!サキよ!少しだけ箱に穴をあけてくれ!』
「はい!!」
箱には、人一人が出入りできるほどの穴ができた。
『女!ダンの武器を投げ入れろ!』
「えっ?でも対話に武器は必要ないって」
『その通り!対話に武器は必要ない!だが、それはもう終わった!次は……闘争。戦うためには武器が要る』
「えっ」
『早くしろ!ダンが死ぬぞ!』
ガロウスにそう言われ、箱が大きく揺れるのを見たシシリーは、宵闇を箱の中に投げ入れた。
『サキ、穴を閉じてくれ』
「はい!」
ダンの入った箱は、また出入り口のないものへと戻っていく。
先ほどと違うのは、やむことのないような衝突音と、金属のぶつかり合う音。
皆は、箱の中で熾烈な戦いが繰り広げられていることを理解し、ダンの勝利を願うのみだった。
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