龍姫と淫魔
「どう?片付いてるぅ?」
声のした方を見れば、白銀の翼を持った美少女が飛んでいる。
丁度、ムサシとコルキンがエルダーリッチを倒していた。
「っ!さっきの地響き……まさか、もう倒したのか?」
「えぇ。まぁね。そっちはどう?」
「丁度今倒したところだ。Sランクなんざ俺たち2人でやりゃあ苦戦するこたぁねぇ」
「そう。じゃ、苦戦してる人達を手助けしに行きましょうか。と言っても、キアラのバフがかかってるし大丈夫だと思うけど」
上空から見た限り、苦戦をしている冒険者は誰一人としていない。4人1組で有利に立ち回ってるのもあるが、キアラの魔法でさらに強化をしており、逆にアンデッド達はゴードのバフが切れたことによって、通常の強さに戻っている。
ランク相応のモンスターを相手にすれば負けることはなく、一つ上までならばキアラのバフでまだ有利に戦える。
「数が数だし、ちゃっちゃと片付けちゃいましょう。あなた達は別に単独でもいけるでしょ?」
「まぁな」
「…………」
コルキンは上機嫌に言い、ムサシはプルプルと体を震わせている。
「あなた達はそっちのAランク、私はあっちのAランク共を蹴散らしてくるわね」
「わかった!」
「…………」
コルキンとムサシは走り出し、それぞれの仕事を全うする。
「私も……っと」
「お待ちください!」
移動をしようとしたレヴィアに、声がかかる。下を見ると、ピンク色を基調とした装備に身を包んだ女性が立ち、レヴィアを見上げている。
「何かよう?」
「……もしかして、貴女様はレヴィル・ア・ドラゴニア様ではありませんか?」
その女性の問いに、少しだけ眉を動かした。
レヴィアは戦況を眺めつつ、問いかけに答えた。
「よく見ると……あなた龍族ね?ほぼほぼ完璧な人化ですぐ気づかなかったわ。その名前を知っているってことは……」
「はい!ガロウス・グ・ドラゴニアの娘、火龍のチェコと申します」
「……ガロウス……馬鹿力おじさんの娘、か……」
チェコに聞こえないほど小さな声で呟いた。
チェコはそんなこと気にしない風に、話し方が段々熱くなる。
「もっとも龍神に近いと言われた貴女様にこんなところで出会えるなんて、ほんっとうに光栄です!実はずっとずっと憧れていました!雌なのに雄にも負けないパワー。そして繊細な魔法!父から話を聞かされては、私も貴女様のような龍に」
「はい!はい!ちょっと待って待って!」
レヴィアは手を叩き、チェコを制止するように手を前に出す。
「まず、私はもうその名前を捨てたし、龍神に近いって言っても、見た目が派手ってだけだから」
「そんなことはありません!神々しいお姿に、圧倒的な力、まさにドラゴニアを賜るに」
「だから!私はもうその名前は捨てたの!今は|龍王〈・・〉じゃなくて魔王よ!」
レヴィアのかつての姓、ドラゴニア。
チェコの父であるブラド、本当の名を、ガロウス・グ・ドラゴニアにも、同じ姓が使われている。
このドラゴニア、というのは龍王の称号を持つものに送られる姓だ。そしてグ、や、ア、などは階級を示している。
かつてのレヴィアも、龍王の称号を賜り、ガロウスよりも上の階級にいた。
それは、大昔の話だが。
「それより、ほら、他のみんなが戦ってるんだから、私たちもやるわよ」
「は、はい。周りが見えておらず、勝手に舞い上がってしまい申し訳ありませんでした」
「……別に良いのよ。捨てた名前だけど、褒められるのは悪くないし……」
「は、はい?」
「!いや、なんでもないから!ほら!行くわよ!」
「御意!」
レヴィアは照れ隠しに超スピードで飛んで行ってしまった。チェコはそれに追いつこうとせず、自分の近くにいるアンデッドに突っ込んで行く。
「ー|龍の爪〈ドラゴンクロー〉ー!」
レヴィアの爪が堅く、鋭くなり、バターを切るようにアンデッド達の頭蓋骨を次々とスライスしていく。
「ここまで減れば大丈夫でしょう……キアラ!」
「はい!」
キアラはなぜか、テントの中から出てきた。
アンデッドがおらず、もっとも安全なラビリスの門の近くに、野営するわけでもないのにテントを建てている。
その周りは3組のパーティに守られているのだが、キアラははだけた服のままレヴィアの前に現れる。テントの中には服を着ていない冒険者たちが数名。キアラは少しばかり遊んでいたらしい。
「……まぁ、あんたのバフに性欲ってのが必要不可欠だってのはわかってるから何も言わないけど」
「えへへ。ごめんなさい」
軽く頭をコツンと叩き、ベロを出しながら謝る。同性のレヴィアですら、それにはドキっとしてしまう。
「そんなこと、どうでもいいのよ。それより、戦況が安定してきたし、私は街の方を見てくるわ」
「はい。あ、そうそう。街の中のコロシアム?ってところでもアンデッドが湧いているそうです。そちらは優秀な冒険者達が強いアンデッドの相手をして、観客達も他の冒険者が逃していると話を聞きました」
「あらそう。なら安心かも。知っている魔力が動いてるし、どうやら頑張ってるようだし」
「レヴィちゃんが大好きな、憤怒の大罪を持ってる人でしたっけ?名前は確か……」
「べ、別に!だ、大好きなわけじゃないわよ!少しだけ一緒に旅した仲なだけよ!」
「でもぉ、早く会いたい早く会いたいってるんるんだったじゃないですか〜いきなりアンデッドの大群と戦うなんて思いませんでしたが……」
「は、はぁ?!そ、そんなこと言ってないでしょ!わ、私にとってムルトは別に、そんな……」
「そうそう!ムルトさん!私も早く会ってみたい……!!!!」
突如、キアラとレヴィアが同じ方向を見た。
その場にいないはずのコルキンやムサシも、感じ取った魔力の方向を思わず向いてしまう。
震えた口でキアラがレヴィアに聞いた。
「レ、レヴィちゃん、これ、まずいんじゃ」
「えぇ。わかってるわよ。こんなに濃い大罪の魔力、感じたことも出したこともないわよ」
「完全に、呑まれてます……その、ムルトさん、私みたいにアイテムに大罪を入れているんですよね?!なんでこんな暴走してるんですか?!」
「そうだけど!そんなの知らないわよ!キアラ、ここは任せるわ!」
「は、はい!」
レヴィアはすぐに飛び上がる。
全身を紫色の魔力で包み、光速とも呼べるスピードで憤怒の魔力が溢れ出ている方向へ向かっていく。
(ムルト……何やってるの!!)
久々に会う友人、レヴィアにとってただの友人だと思ったことはないが、そんな友人と慌てて会うようになるとは、思ってもいなかった。
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