龍姫の惨状

「へぇ。やるじゃない」


ゴードは、レヴィアの放った拳にハンマーを当て、振り抜いた。

レヴィアの拳はハンマーと同じ方へ動かされ、ゴードは攻撃を避けることに成功したのだ。


「我を舐めてもらっては困る!!」


ゴードはレヴィアに突っ込み、ハンマーを振り下ろす。


「遅すぎるわ」


その攻撃をレヴィアは難なく避け、攻撃を加えようとするが、ゴードの動きが一段速くなる。


「2度目は通じないが、もらった!」


振り下ろしている最中のハンマーを手放し、横に回り込んだレヴィアに対して蹴りを食らわせたのだ。

ゴードにとって、ハンマーだけが武器ではない。破壊力は確かにあるだろうが、大きさ故に動きが制限されてしまう。


「ぷっ。へぇ。当たったらいけないのはハンマーだけじゃないみたいね」


レヴィアは口から血を吐き出し、改めて構え直す。


「我の蹴りを食らって腹が裂けないとは……油断している内に決着をつけたかったが、難しいようだ」


「ふふ、あんたの攻撃を食らって、私が本気になると思う?」


「……本気にならないほうが、我としてはありがたい、な!!」


ゴードはハンマーを持ち直し、同じように突っ込んでいく。今度のレヴィアは避けない。

自分の頭に向かって振り下ろされたハンマーを、紫色の魔力で包まれている掌で受け止めた。


「なら、さっさと殺した方が身のためよ。できるものなら、だけどね!」


レヴィアはゴードに攻撃せず、力任せにハンマーを奪い取った。

そしてそれをそのままあらぬ方向に投げる。


ゴードの武器はこれでなくなる。レヴィアとの純粋な殴り合いになったということだ。


「見た感じ、あんたも私の仲間と同じ、バフを得意としてるんじゃないの?よく私と渡り合えるわね」


レヴィアの見立て通り、ゴードの能力はバフ。本来は前に出ず、後ろから味方の支援をする。キアラもバフをするが、自分は前に出ず、冒険者達に守ってもらっている。


「あぁ。貴様の言う通りだ。だが我はそれを抜きにしても強い。それを我自身にかけることでさらに強くなる!」


ゴードはそう言って、両の拳を打ち鳴らす。

ゴードの体が、黒く輝き始めた。自分にも死の軍勢と同じようなバフをかけたようだ。


「このバフは、陛下への忠誠心の度合いによって、強化の具合が変わる。我等の陛下への忠誠は、絶対忠誠。簡単に倒れると思うな」


「へー。そんなもの、私が簡単に砕いちゃうけどね」


「ほざけ!!」


2人の拳と拳が重なり合う。その衝撃で突風が巻き起こるほどに。


「うおおおぉぉぉ!!!」


ゴードは雄叫びをあげながら、次々と拳をレヴィアに放ったが、レヴィアはその全てに拳を叩き込んだ。


「まだ、遊ぶ余裕があるか!!」


「んー。まぁね」


ゴードの拳の威力と、レヴィアの拳の威力は互角。いや、レヴィアがゴードに合わせ、威力を調整し、相殺しているのだ。


「あんたをさっさと倒して、あっちを手伝うってのもいいんだけど、私、強すぎるから、周りを巻き込んじゃうのよねぇ」


「ふっはっはっは!!貴様!もしや嫉妬ではなく傲慢なのではないのか!」


「あっはっは。違う違う」


殴り合いをしている中、レヴィアがゴードの手首を弾き、攻撃を止める。

そして肩、脇腹を殴り、足を引っ掛け、体勢を崩した。


「嫉妬するほど、あんたが強くないから」


レヴィアは腰を落とし、両手を引き絞り、放った。


「ー龍の大顎ドラゴン・ヘッドー」


「ぐはぁっ!!」


それはゴードの腹に炸裂する。ゴードは輪ゴムのように体を伸ばし、木を何本もなぎ倒しながら、後方へと吹っ飛んでいった。


レヴィアはスッと姿勢を正し、手を開いて確認する。


「嫉妬の魔力を使うほどじゃないわねぇ」


後方に吹っ飛んでいったゴードを見ながら、呟く。

ゴードは折れた木の中からすぐに立ち上がり、レヴィアを睨む。


「いいぞ!いいぞ!いいぞぉ!!これこそ我の望んだ戦い!血湧き肉躍る我のもっとも好む血みどろの戦いだぁ!!」


「血湧き肉躍るって。あんたアンデッドでしょうが」


「ふはははは。だからこそだよ。枯れ果てた血が、干からびた肉が、戦いを望んでいるのだ。さぁ、もっと楽しませてくれぇ!」


ゴードを包む黒い光が、さらに濃くなる。

濃くなったかと思えば、どこからか飛んだきた黒い光が、ゴードに集まっているようだ。


「他のアンデッドのバフを自分に集めてる……?」


「ふははは!その通り。陛下への忠誠心で強化の具合が変わると言ったが、あれは少し間違っている。元々、意思を持たないアンデッドが忠誠心を感じるなど、おかしな話ではないか?」


「確かに、そうね。それがどうしたの?」


「ふふふ。我のバフは、我の力を我が軍勢に分け与え強化しているのだ。底抜けの忠誠心で手に入れた力を、部下達に分配している」


「……それを元の一体に集めたから、さっきまでのあんたとは格が違うって?」


「その通り!!部下達の強さは元に戻ってしまうが、それも致し方ない。貴様を倒し、我が戦線に加わればよいだけ!」


「へぇ。遊んでたから最初から本気は出してなかった。と」


「だが!遊びも、貴様も!もう終わりだ!」


「あなたの忠誠心は、その程度ってことね」


「っ!な、に」


ゴードの横に、レヴィアが立っていた。

いつの間に移動したのか、ゴードには全く見えていなかった。


「飽きたし、少しだけ私の本気見せてあげるわよ」


「ぐっ!!!」


真横に移動したレヴィアに向かって、予備動作なしの裏拳を放った。本気を出したゴードのスピードは先程と比べものにならなかったが、手応えを全く感じない。

レヴィアは、既にそこにいなかったから。


「どこに攻撃してるのよ」


ゴードの耳元から、レヴィアの声がする。

ゴードが横を向くと、そこには褐色の太ももが見える。

レヴィアはゴードの肩に乗っており、しゃがんでいるのだ。


レヴィアの全身は白銀の鱗に覆われており、翼と尻尾が生えていた。


「貴様、竜人族ドラゴニュートか……?」


「ぶっぶー。ハズレ」


レヴィアはゴードの肩を蹴り、宙に舞う。

白銀の翼をはためかせる姿は、なんとも美しい。


「私は白銀龍プラチナドラゴン。歴としたドラゴンよ。ー龍の嫉妬ドラゴンレヴィー」


レヴィアの全身を紫色の魔力が包んだ。

その魔力は、翼も尻尾も全身の鱗も包み込み、紫色に変えていく。


「龍のユニーク……だと?それにネームドで大罪を持っている。ははは……S2ランクなどくだらない。S3、いや、それ以上……!」


妬黒とぐろ


巨大な翼で全身を包み、それが外れないように尻尾を巻きつける。


「我が勝てるわけがないのだ……いくら本気を出した我でも……」


「あんたの忠誠心は、勝てない相手を前にしたら諦めるくらいのものなのね」


レヴィアは宙で高速回転する。あまりの速さに風が吹き荒れ、それをさらに取り込んでいく。漏れ出る風は刃のように木々を傷つけていた。


「喰らいなさい。ー嫉妬の塊パープル・ロールー」


「う、うわ」


ゴードは叫びをあげながら逃げようとしたが、その叫びを上げる前に、目にも留まらぬ速さで、ゴードにレヴィアが突っ込んだ。

そこには、まるで隕石が落ちたかのようなクレーターができていた。木々は衝撃で根元から抜け飛び、石や岩は粉々になり砂になっている。

周りに人がいなかったからよいものの、いれば確実にとばっちりを受け死んでしまうほどの威力だ。


紫色の塊が解け、中から無傷のレヴィアが姿を現わす。

足元には原型がないほどぺしゃんこになったゴード。勝敗は明らかだった。


「あんたの忠誠心、嫉妬するほどのものじゃないわね」


レヴィアは捨て台詞を吐き捨て、今もなお戦い続けている冒険者達の方へ歩いていく。

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