骸骨の者

「しっ!」


先に駆けたのはムルト。しかしそんな動きはゴーグに見えている。ゴーグはムルトの攻撃を楽に受け止め、反撃をする。


だがムルトも憤怒と怠惰、加えて暗黒魔法で力の底上げをしている。先ほどまでゴーグよりも優勢で戦えていたが、今では互角だ。


「仲間を逃したのはぁ、ダメだったんじゃねぇ、か?ふ、ふふふ。お前だけで今の俺様に勝てるかぁ?あはは」


ゴーグはクネクネと体を動かしながら、ムルトへそう話しかけるが、ムルトには余裕がなかった。ゴーグのそんな言葉を聞き流しながら、切り続けた。


「無駄無駄無駄無駄ぁぁ!!お前はもう!俺にはぁ。勝てねぇんだ」


「それワ、どうカな!!」


半月でゴーグの剣をきりあげる。


「ー月輪がちりんー!!」


そこから、肩、首、胸、腹、足の付け根を斬りつける。が、ゴーグはそれを防ぎもしなかった。


「無駄ぁよぉ!あっはっはっは!!!」


ゴーグは両腕を開きながら高らかに笑った。

ムルトは怯むことなく攻撃を続けるが、どれも効いていない。


(強欲ト暴食を取り込んダだけでこれカ……)


ムルトは長剣から戦斧へと半月を変え、憤怒と暗黒の魔力を練り込んだ。


「ぬんっ!!」


両腕で振り抜くその斧を、ゴーグも両腕で受け止めた。


「無駄、でワなかったノか?」


「ひひひひ、調子に乗っちゃぁ、いけねぇ、な!!!」


ゴーグが前蹴りをムルトに叩き込む。ムルトはそれを避けずに腹で受け止めた。


「無駄だヨ」


顎をカタカタと鳴らすムルトの腹の骨は、真っ青になっていた。


「言ったはずだぜ。調子に乗るな。ってな」


「うぐっ」


ムルトはすぐに飛び退ける。

ゴーグの足から黄色い魔力が溢れていたのだ。それは暴食の魔力。ムルトの怠惰の魔力に反応し、それを喰らおうとしていたのだ。


「本物の憤怒と怠惰を持っているにも関わらず、借り物の俺にこの程度じゃあ、先が思いやられるぜ?」


「お前に言わレたくはないナ」


「ぬかせ!!」


ゴーグが歩みを進めたその時。


「ムルト様!」


ゴーグを氷の礫が襲う。


「ちっ、邪魔者がぁ」


ムルトはその人物を見る。


「ハルカ!」


「ムルト様!助太刀致します!」


「よせ!下がってイろ!」


ミナミに駆けつけていたハルカが、助けに来たのだ。

ミナミの下にはジュウベエとティアがいる。

ゴンとサキも会場の端におり、完全に去ってはいないようだ。


「危険だ!」


「もう、ムルト様だけに無茶はさせません!」


その目は決意の目。幾度となくムルトは死線を越えてきた。ハルカはそれをそばで見ていた。今度こそはムルトの力になろうと。無力な自分をいつだって悔やんでいた。


「2人なら勝てるはずです!」


「ハルカ……」


「おいおいおい!!俺を無視してんじゃあねぇよ!」


ゴーグがムルトへ飛びついた。

全身を硬化させ、抱きつくように攻撃をする。ムルトはさらに跳びのき、魔法を放つ。


「豪炎弾!」


「効かねえよぉ!!」


ゴーグは腕を振り、その魔法を弾いた。


「氷槍!!」


ハルカの放った攻撃が、ゴーグの背中に命中する。ゴーグは痒そうに背中をかくだけだった。


「目障りだなぁ……」


ゴーグは振り向いてハルカを見る。

よくよく見れば、ハルカは肩で息をしていた。ハルカもムルトは同様、無いに等しい量の魔力を振り絞りながら戦っている。

打てる魔法の量も威力も少ない。


「あぁ。そう、そうだ!そうそうそう!!俺がここにきた目的!陛下から下された命!!忘れてたぁ。うへへへ」


「っ!」


ゴーグは体をくねらせながら、ハルカを見る。その後ろにいるティアとミナミも見ながら、笑いながら言った。


「美徳を殺しにきたんだった」


ピタリと体を止め、そう言い放つ。


「やめっ!!ぐっ!」


飛び込んできたムルトを振り向きざまに殴り飛ばし、その勢いのまま、またハルカへ向き直る。


「なぁムルトぉ……」


ゴーグは不敵な笑みを浮かべ、左腕に魔力を流す。左腕は歪に大きくなり、ヤスリのような形をとる。


「お前が守りたいっていうこの女、失ったらお前は、どうなるぅ?」


「や、やめロおおぉぉぉぉ!!!」


「っ!!」


目にも留まらぬ速さで、ゴーグはハルカへと迫る。体力を消耗しきり、魔力も枯渇しかけているハルカは、まるで反応ができなかった。不気味な顔で笑うゴーグが目の前に現れ、激痛が全身を襲う。


「ムルト、様。申し訳、ありま、せ、ん」


「ハルカあぁぁぁぁあァあぁ!!!」


ハルカの右半身が、大きく抉られている。

右胸と脇腹は荒く削りとられ、内臓が漏れ出している。


「っ!」


ティアとミナミ、ジュウベエもその光景を見て、絶句してしまう。


ムルトはすぐにハルカに駆け寄った。


「ハルカ!ハルカ!」


「ムルト、様……」


「あぁ、ハルカ!ここにいるぞ!」


ハルカは弱々しく言葉を絞り出す。涙を流す。ティアと、ジュウベエに抱えられたミナミも合流する。


「ミナミちゃん、ティア……」


「もういい。喋らないで」


ティアは今にも泣き出しそうな顔でそう言った。ミナミはハルカの半身の惨状を見ながら既に涙を流している。

ムルトは拳を握りしめながら震えている。


「どうしたぁ?ムルトぉ!!静かだなぁおい!!お別れするまでは待ってやるからよぉ!!そいつが死ぬところをしっかり目に焼けつけるんだなぁ!!!あっはっはっは!!」


楽しそうに笑うゴーグの声が、より一層ムルトの震えを激しくさせた。


「お前だケはぁ。オ前ダケは、絶対ニ許サンゾ……」


ムルトは静かに立ち上がり、半月を握りしめながらゴーグを睨んだ。


「オ前ダケワ、オ前ダケワ!!絶対ニ殺シテヤルゥ!!!」


ギリギリと歯を噛み締めるムルトの体は、先程と全く違っていた。

赤、青、黒の三色が混ざっている姿ではなく、赤一色。


それは鮮血よりも赤いその色は、まさに真紅。

憤怒の色だけが、ムルトの全身を包んでいた。


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