骸骨を殺せない

ムルト達がゴーグやティングと戦っている中、周りでも戦っている者達がいる。


「ムルト達が魔法使いを倒してくれたおかげで少しは楽になったな……」


「ええ。でも油断はできないわよっ!」


ダンとシシリーが、ゴーマによって召喚されたスケルトン達を相手している。2人だけではなく、喧嘩祭りを観戦していた冒険者たちが民間人を守るように陣をとり、戦っている。


「うおらぁ!」


「頭部を破壊すりゃ動かなくなる!」


「戦えない方や怪我をした人はこちらへ!」


冒険者たちは、声をかけ合いながら観客たちを会場の外へ逃がしている。


「こいつらはなんとかなるがっ!問題はっ!」


メイスを持った冒険者たちがスケルトンの頭部を破壊する中、ダンはそれに交じり、鈍器ではなくムルトから譲り受けた宵闇でサクサクと切り伏せている。

数々の冒険者が白いスケルトンや赤いスケルトンを切り伏せる中、黄土色を下にワイトに苦戦している。それは、ティングが召喚した不死者達の兵隊達デッドリー・アーミーズ

クロスボウのような形をした多連式の武器を使い、人々を襲っている。


他のスケルトンとは防御力も機動力も違う。数体は倒せているがそれでも数はあまり減っていない。


「ダン!!!」


シシリーが叫ぶ。スケルトンを切り伏せ続けているダンの背後には、黄土色をしたワイト。そのワイトの繰り出した骨矢がダンの足に刺さる。


「ぐあっ!!」



ダンは思わず膝をつく。ワイトはすぐに距離を詰め、クロスボウを振りダンを殴った。


(やばい)


ダンは剣の切れ味から、多数の相手を自分から受け持っていた。冒険者たちはその分手が空き、散りながらスケルトンと有利に戦える。ダンの周りには事切れたスケルトンしかおらず、ダンを助けに入れる者はいなかった。


「ちっ」


黄土色のワイトのクロスボウがダンに向けられる。


「ダアアアァァァン!」


シシリーはダンに向かって駆けだしている。が、防御力の高い黄土色のワイト。シシリーのダガーでは頭部を破壊しきれない。それよりも、ワイトがダンの頭を打ちぬくのが早い。


(ダメかっ……)


目を瞑り死を覚悟するダンだった。

黄土色のワイトはクロスボウを構える。


「ん?」



ダンは目を開け、黄土色のワイトを見る。

ワイトはダンにクロスボウをしっかりと向けている。が、一向に撃つ気配がないのだ。


「ダン!!」


横からシシリーがワイトに向かって体当たりをお見舞いした。シシリーとワイトは倒れ、シシリーはダンに合図を送る。


「おう!」


いくら苦戦するといっても、神匠と謳われる者が打った剣。ダンの宵闇は黄土色のワイトの頭蓋骨をバターのように綺麗に斬った。


「もう!ボーっとしないでよね!」


「あ、あぁ。悪い」


「数は減ったといっても、戦いは終わってないわ!手当して!」


「あぁ」


急かされつつも、ダンは光魔法を使える者にヒールをかけてもらい、止血をし、前線に戻る。

さっきのようなミスは犯さず、淡々とモンスターを切り伏せるが、やはり疑問が浮かんでしまう。


(やっぱりだ……)


さっきから気になっていたことなのだが、ダン達が今戦っている不死族のモンスターは二種類いる。

ゴーマが召喚した、様々な種類のワイトやスケルトン。

ティングが召喚した、黄土色の不死者達の兵隊達デッドリー・アーミーズ

それらは生者であるダン達や民間人を襲っているが、おかしいのだ。

ゴーマのモンスターはどんどん人間たちに襲い掛かる。が、ティングの召喚した兵隊達は攻撃をするものの、どれもが致命傷にはならない攻撃。加えて、トドメをさせる場面では、ダンの時と同様動きを止めてしまうのだ。


(なんでなんだ……)


微かな疑問を浮かべるダンだったが、仲間たちのため、街の人々のために剣を振るうことをやめなかった。




「なぁムルトぉ!滑稽だなぁ!!助けに来たと思ったらすぐにトンズラたぁなぁ?!」


「黙れ!お前に関係ないだろう!」


「あぁ!関係ないさ!でもよぉ!おかしいなぁ!!あっはっは!!」


ゴーグはムルトを煽りながらその剣を受け流している。

激戦の中、ロンドは聖龍の雫を持って逃げ、ハルカとジュウベエとティアは魔力が尽きかけ、まともに戦える状態ではない。

ミナミはゴーパを、ムルトはゴーグを。ゴンとサキは大罪に蝕まれているティングを相手し、観客席でもダン達が奮闘している。


「そろそろ本気を出すか!ムルトぉ!」


「それはこちらのセリフだ!」


ムルトの体が、紫黒く変色していった。



「サキ!」


「できません!」


「お前の魔法があれば!楽に!終わるんだ!」


「できません!そんなことをすれば、ティングさんは死んでしまいます!」


「あいつはもう俺たちの知るティングじゃねぇ!ワイトキングだ!」


「それでも、仲間です!」


「仲間だった・・・んだ!!」


ティングの攻撃を避けながら、ゴンとサキは言い争っていた。


「はっはっは!!どうしたどうした!仲間割れか!そんなことでは我を倒すことはできぬぞ!もっとも、協力したところで俺を倒すことなんざできぬがなぁ!」


攻撃を放ち続けるティングは、2人を追い詰めながら近づいていく。


「くそ!針鉢!」


ゴンは無数の串を取り出し、それをティングへ投げつける。無数の串が鉢のように丸くなり、ゴンたちを隠すようにティングを取り囲む。


「サキ!」


「私にはっ」


その間に、ゴンはサキへ近づき、その頬を思い切り引っぱたいたのだ。


「俺だって辛い!だがこれは殺し合いだ!あいつを倒すにはお前の魔法が効果的なんだよ!ここでティングを殺さなけりゃ、ムルト、ミナミ、観客席で戦ってるやつらが危ねぇんだ。やるしか、ねぇんだよ」


サキの肩を力強く掴み、そう言ったゴンの目には、大粒の涙が今にも溢れだしそうなほど溜まっていた。


ティングとの付き合いは、ゴンがこの中にいる誰よりも長い。それ故に悲しみもあるが、殺さなければいけないとい気持ちも強い。


「あいつが人を殺すことを、誰よりも嫌がってるんだ。あいつに人を、殺させないでやってくれ……」


我慢しきれず、ダンの目からは大粒の涙が溢れる。


「わかり、ました……」


サキは杖を固く握りしめた。


「相談事は終わったか?さぁ、お前らの魂を早く僕に差し出すのだ」


ティングは串でできた鉢を手でかき分けながら、2人の前へ出た。


「援護とトドメは任せてくれ」


「……はい」


ゴンは涙を袖口で拭いながら、串を構えた。サキは杖を前に出し、魔力を練り上げる。

杖の先端についている双龍の目が光り、うねりながら口を開いた。


「創造、聖天樹木魔法……」


「ぬ?」


「魔を退ける神樹、癒しの抱擁樹!!」


「なにっ!」


ティングの足元に魔法陣が輝き、木の根が生え、ティングを取り込み、大きな樹となる。


サキが使ったのは、不死族達にとって弱点である聖天魔法の魔力を込めた創造魔法と樹木魔法を取り入れたオリジナル魔法である。

並みの不死族であれば、耐えられる魔法ではない。


「クソオオオオオオ!!!」


樹木に取り込まれながら叫ぶティングを、サキは杖を固く握りしめ、涙を流しながら見守った。

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