骸骨達と乱闘3/5
「苦戦してるようだな」
「っ!ロンドさん」
ロンドはハルカの元へ駆けつけた。
ハルカとゴーマは魔法使い同士、魔法を撃ち合いながら戦っていた。ハルカはそれに加え、自動操縦を使い縦横無尽に舞っていたが、それを悉くゴーマがいなしていた。
「何人増えようと何も変わるまい。苦しむ前にさっさと死んだほうが幸せじゃと思うが?」
グズグズに崩れた顔で、ニタリとゴーマが笑う。それは誰もが気色悪いと思えるほどの酷い顔だ。
「魔力は残り少ないか?」
「……はい」
「お前は俺の援護に回れ。……魔力には余裕がある」
ロンドはムッとした顔で言った。
ハルカは、第一回戦。ティアとの戦いで魔力を使い切っていた。ロンドは、ティングとの戦いで手を抜いていたので、魔力にはまだまだ余裕があった。
「……本気を出す。影纏。黒夜叉」
ロンドの持っている影が膨張し、ロンドを飲み込んで形を変えた。
形を変えた。というよりは物質が変化していた。ロンドの手足に絡みついた影は、影というより、身を包むコートとなっていた。
赤い瞳に、鋭い歯。ハルカが生きていた世界で伝わっていた吸血鬼の姿にとてもそっくりだった。
「アンデッドとの戦いは、聖魔法を使えるやつがいるのといないのでは大違いだ。簡単なものでいいから聖魔法でやつの動きを阻害しろ。できるなら俺を巻き込まないでくれ」
「わかりました」
「ふぃ〜……作戦会議は終わったかのう?」
挑発するようにゴーマは、また不気味に笑みを浮かべた。
「いくぞ。合わせろ」
「っはい!」
ロンドが走る。コートがたなびき、まるで影が高速移動しているように見えた。
コートから鋭い爪の生えた手を出し、そのままゴーマに飛びかかる。
「
「
目の前のロンドを攻撃するべく、ゴーマが手を前に出し、魔法を発動しようとした。
その腕めがけ、ハルカが聖属性の回復魔法を放つ。ゴーマは一瞬悩んだが、最後まで魔法を発動させた。
「
ゴーマの手のひらから小さな炎の塊が飛び出る。その瞬間、ゴーマの腕に回復魔法が発動され、ゴーマの腕は消滅した。だが魔法はしっかりと発動し、それがロンドの目の前で爆ぜた。
「しっ!」
ロンドは飛びかかる勢いを利用し、回転。コートをはためかせ、爆発を退け、前蹴りをゴーマの腹に食らわせた。
「うぐっ。中々いい一撃じゃ……」
蹴飛ばされたゴーマは着地し、杖をグルグルと回した。
「何をしているんだ……?」
「わかりませんが、嫌な予感がします!聖領域!」
「遅いわ!『生は苦しみ、死は喜ぶ。死が踊って、生が這い蹲る』ー死獅乱舞!!ー」
ゴーマを中心に、黒い波紋が広がった。ハルカの聖領域はゴーマの放った魔法によって掻き消されてしまう。
「ふっふっふ。これでお前らの勝ち目がさらに薄くなったのぉ……」
黒い波紋がコロシアムに広がりきった後、ハルカやティア、ゴン達の動きが悪くなる。
「これは……」
ハルカは体が重くなるのを感じた。
「なるほど、不死族は力を増し、それ以外の種族の力を奪う。領域魔法か」
「その通りじゃ、吸血鬼の
「……俺も不死族。俺の能力を上げて大丈夫か?それにムルトも」
「はっはっは。たかが虫2匹の力が上がったところでこちらに痛みはない。こちらは幹部3人。そしてここにいる全てのアンデッドを強化したのじゃよ?」
観客席から悲鳴が上がった。
コロシアム内に沸いて出たアンデッド達も強くなっているようだった。さすがに手練れの冒険者も、無数に襲ってくるアンデッドに押され気味なようだ。
「おい、術者を殺せばこの魔法も消える。さっさとやるぞ」
「は、はい」
ロンドはハルカを立たせ、再び構えた。
「それができるならじゃが、な!!」
ゴーマは杖を振り、その先からいくつかの黒い塊が飛来してくる。
「行くぞ」
ロンドはそれを避けながらゴーマに近づく。
「バンシーボイス!!」
黒い塊は途中で形を変え、女性の顔になる。口を大きく開き、聞くに耐えない狂声を出した。
「せ、聖領域!!」
ハルカは自分の周りに聖領域を展開し、それを退ける。ロンドはそんなもの気にならないといったようにそのままゴーマへ飛び込む。
「硬骸塀!!」
「欠影」
ゴーマの目の前にぬりかべのような、頭骨だけでできた壁が出現し、ロンドはそれをそのまま黒い爪で引き裂いた。ゴーマはその間から杖を差し込んだ。
「黒々炎屍!」
「甲影」
ロンドはコートをかぶり、その炎を耐えた。
「屍黒炎雷!!」
ロンドを包んでいた炎が迸る雷へと変わった。コートに身を包んでいたロンドを完全に包み込んだ。
「効かないな」
コートをばさりと開くと、雷は残っているものの、それはロンドへ届いてはいなかった。
「炎影」
影が火のように揺らめいた。
「影牙、炎龍!!」
揺らめく影は巨大な龍の影に変わり、その大顎がゴーマを噛み殺さんと迫った。
「ふひひ、そんなもの当たらぬぞ」
ゴーマは魔法を唱え、後方へ飛んだ。
「ハルカ!」
「はい!!」
「大聖領域!!展開!!」
「!!小娘!くそ!ただの時間稼ぎか!!」
ハルカは地面に膝をつき、両手を胸の前で組み、祈りを上げていた。ハルカのいる場所から、白い光が徐々に広がっていく。
それは、浄化の聖なる光。邪悪なものを退け、勇敢な者を奮い立たせる。
「ふぅ……強いな」
「ぐ、ぐうぅ……」
ロンドが膝をつき、地に手をついた。
ゴーマも同じように手をつき、息を荒げている。コロシアムにいたアンデッド達のほとんども浄化され消え去り、強い者も動きを鈍らせている。
「ロンド、さん!」
「……影は全てを包み込み、影は全てを飲み込んでいく……」
ロンドが息を切らしながらも魔法の詠唱を行なっていた。
「光は影の。影は光の、天敵であり、友である」
「ぬおぉ……ぬうぅぅ……」
「ロンドさ!ん……」
ハルカは一声大きく名前を呼ぶと、力を使い果たしたかのように地面に手をついた。その瞬間、大聖領域の光も消え去る。
アンデッドの動きが戻った。
ハルカは最後の魔力を振り絞り、コロシアム全体に結界を巡らせたが、その広さ、魔法の大きさから、長くは保たなかった。ゴーマの発動させている死獅乱舞の黒い波紋が戻ってくる。
「きえぇぇぇ!!」
ゴーマは奇声を発しながら逃げようと飛んだ。が、それは遅かった。大聖領域で弱ってるにも関わらず、完全詠唱をし、死獅乱舞の効果で力が漲る。
逃げようとするゴーマに追いつき、コートを広げた。
「
ロンドの纏うコートは生き物のように動き、まだ完全に動きの戻っていないゴーマを包み込んだ。
「ぬおぉぉぉ!!こ、こんな!!」
ゴーマはロンドのコートの中へ引きずり込まれ、影の中に消えていった。
「……
ゴーマが発動していた死獅乱舞は消え去った。突如として襲ってきた異形の者たち、その1人を、ハルカとロンドが倒した。
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