骸骨達と乱闘2/5

ティアは回者スピナー走者ランナーを召喚し、メイスを振り回し戦っていた。


アンデッドの弱点である聖天魔法というものを、ティアも持っている。が、持ち前の死霊術との相性が悪く、発動することのできる魔法も少ない。聖気を武器に纏わせることもできず、死霊術とメイスで蟲男に応戦している。


「なんで」


「なんで俺に反魂術がきかないかか?死霊術師ならわかってるだろ」


聖天魔法が使えないといっても、ティアにはアンデッドに対して必殺の魔法を持っている。それは、反魂術だ。

反魂術というのは、アンデッドの体に定着した仮初めの魂を反発させ、体から剥がす魔法。反魂術を発動されたアンデッドは、体を動かす魂を抜かれ、魂を失った体は成すすべもなく崩れる。


例外もあり、反魂術の効かないアンデッドは、なぜかムルトただ1人だけである。

そして、生者など生きているものには効かない。なぜならば……



「その魂が体の持ち主。だから」


「その通り。だっ!」


蟲男は距離を詰め、両の手に生えている細い針を使って攻撃を仕掛けてくる。レイピアのようにしなやかな針は、予想のできない動きでティアを襲った。


「回者!」


ティアに迫る針は、横から突っ込んできた回者が代わりに受ける。回者は砕けた。


「あなたは望んでアンデッドに堕ちたの?」


「半分正解で半分不正解だ!!」


蟲男の猛攻は止まない。走者や回者や防御者を使い攻撃を防ぎ、避ける。


(魔力が、足りない)


後ろに飛び、距離をとる。


「逃げてるだけじゃ勝てないぜ〜?ほら、こいよ」


蟲男は挑発するように手招きをするが、ティアは突っ込むなどということはしない。まずは敵を観察し、どう戦うかを考える。


(素早い攻撃は避けるので精一杯。仲間達で翻弄してメイスで一撃。できるならやるしかない。でも難しい)


「来ないなら!俺からぁ……」


蟲男は身構え、ティアに迫ろうとしていたが、それをやめた。その顔はティアではない誰かを見ていた。


「やぁお嬢さん!手伝いにきたぞ!」


大剣を地面に突き刺し、ティアの横に立つ、赤い鎧に身を包んだ大男。ジュウベエだ。

ティアはあまりこの男を知らないが、ムルトの知り合いであり、喧嘩祭りでムルトと戦ったところを見ていた。


「助かる。魔力が少なく、攻めきれないでいた」


「はっはっは!魔力が少ないのは俺もだが……2対1なら十分勝てるだろう」


ジュウベエは頰をかきながらティアにそう言った。喧嘩祭りで戦った者達は外傷はないものの、魔力も体力も回復はしていない。


「よし!いくぞ!」


「さっさと倒す」


ジュウベエは自分を鼓舞し、身体強化をかけ、走り出す。ティアはその後ろに隠れるように走った。


「うおおおぉぉぉ!!」


ジュウベエは雄叫びとともに大剣を振り下ろした。全体重を乗せたのであろうその一撃は強力だった。だが、蟲男は両腕の針を交差させ、その一撃を防いだ。地面はその衝撃を物語るように粉々に割れている。


「なんという膂力……!」


「さんきゅ……」


「……!」


ジュウベエの影から、ティアが飛び出す。

髑髏の形をした杖のようなメイスを、蟲男の頭に向かって振るった。が、それは届かない。蟲男の肩や腕、顔に巻きついている巨大なムカデが動き、重なり、そのメイスの一撃を防いだのだ。


「おぉらよっ!!」


瞬間、暴風が蟲男を中心に吹き荒れる。

ジュウベエとティアは、追撃されないよう蟲男と距離を離した。

それを見たジュウベエが口を開いた。


「……その武器と風魔法。まさか」


「……わかるもんなのかよ?」


驚いたように呟くジュウベエの言葉を肯定するように、蟲男が口を開いた。


「声は多少違うが、まさかセルシアンか?刺突戦車、セルシアン?」


「ちっちっち」


蟲男は指を振り、改めてこう言った。


「半分正解だが、半分不正解だ。俺の名はセルシアン。骸蟲がいちゅう、セルシアンだ」


顔に纏わりついていた蟲が蠢き、その顔を晒し出した。腐った眼窩や鼻骨から、蟲が顔を出しているが、ジュウベエはその顔に見覚えがあった。


「久しぶりだな、おっさん」


ジュウベエのかつての仲間だったセルシアンは、そう声をかけた。

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