骸骨達と乱闘4/5


「体が重くなったと思ったら軽くなったり、軽くなったと思ったら重くなったり、かと思えばどちらもなくなった。わけがわからないなぁ」


「動けるなら、動いて」


「わかってるよ」


ジュウベエは大きな体を起こし、大剣を構えた。ハルカとゴーマの魔法の影響を、ジュウベエは受けていた。だが目の前のティア、そしてセルシアンはその影響を物ともせずにずっとせめぎ合っている。


「あんた、中々強いなぁ?」


「弱かったら、生きていない」


「確かにっ!なぁ!!」


セルシアンは、ティアのメイスを跳ね除けながら、風魔法を放つ。


「守って」


召喚されていた骸骨がティアの前に飛び込み、セルシアンが放った魔法を代わりに受け、砕け散った。


「なぜ、あなたにさっきの魔法は効かなかったの?」


ティアはメイスをセルシアンに振り落としながらそう聞いた。


「効いてない?いや、確かに効いていたさ。だが、それを俺に聞くまでもないだろう。あんたもわかっているはずさ。あんたの反魂術も俺に効かなかったんだからなぁ」


ティアがセルシアンに聞いたのは、ハルカとゴーマが放った魔法。ゴーマが放った魔法でセルシアンの能力は強化されだが、ティアの動きは鈍くはなっていない。

ハルカの放った魔法でティアの能力は強化されたが、セルシアンの動きは鈍くなっていない。

一緒に戦っていたジュウベエはどちらの魔法の効力も受けていた。


「あなたは、半分死んで、半分生きている」


「まぁ、そうなるんだろうなぁ?俺はあんたが魔法の影響受けなかったのに興味があるなぁ」


「あなたと同じ。半分死んで、半分生きている」


「っ!おもしれぇなぁ!!」


セルシアンは、ティアが横薙ぎに奮ったメイスをしゃがんで避け体を捻り、背後から叩きつけられた大剣を両腕で受け止め、弾かれるように横に飛んだ。


「2対1はさすがに堪えるよなぁ……」


「はっはっは!!セルシアン!生前とは動きが全く違うなぁ!」


「まぁ、な」


セルシアンは蛆だらけの頬をかきながらそう答えた。


「お主は自分の強さ、どのランクにいると思っておる?」


「そうだなぁ」


考えるように腕を組むと、セルシアンは笑いながら答えた。


「今の俺の種族は蝕人食蟲パラサイト・イームのユニークってことになるんだが……素体によってその種自体はS1。俺が成ってることを考えるとS5っつーところだと思うぜ!」


「はっはっは!!大きく出たなぁ!セルシアン!」


久しぶりに会った友人と喋り込むように、ジュウベエとセルシアンは笑いながら言葉を交わしていた。ティアは武器を構えていたが、今すぐに攻撃しようとは思っていなかった。

それを見てなのか、セルシアンも2人に攻撃をしようとはしていなかった。


「……で、セルシアン。お主なぜ生きておる」


ジュウベエの声色は暗くなり、セルシアンにそう聞いた。セルシアンはすぐには答えず、少しだけ間を置いた。


「……俺にもわからねぇ。気づいたらあいつらの操り人形さ……はぁ、あんたの言ってることは半分正解で、半分不正解だ」


セルシアンはティアに向かってそう言った。


「俺は……死にながら、生かされてる」


セルシアンは目を伏せながらそう言った。

ジュウベエもティアも、それを静かに聞いている。


「俺は、異色のスケルトンに確かに殺された。やっと解放されるんだって。これが俺の結末か、悪くねぇって。でもよ、気づいたら、目を覚ましたら、恐ろしいものが目の前にいた」


セルシアンは自分の両腕を抱きしめながら、その時の恐怖を思い出しているかのように震えた。


「死んだはずなのに、俺は生きていたんだ。形は違うが俺の体だった。そして俺はそいつのおもちゃになったんだ。……なぜ、俺が今お前らを攻撃しないかわかるだろう?」


「攻撃する気がないから」


そう答えたティアに、セルシアンは醜い笑顔で頷いた。


「そう。俺にもお前らにも攻撃する気がない。俺に攻撃を加えようとすれば俺は本気で反撃する。そしてもう1つは……」


すると、コロシアムの中がざわざわし始めていた。ゴーマはやられ、冒険者達が召喚されたモンスター達を相手しているのだが、そのざわめきは観客席からではなく、実況席から聞こえてくる。


「な、なんとしてでも優勝賞品は守らなければいけないんだ!」


実況席には、ムルト達の試合を実況していた男と、それを守るように戦うパーティ、そして複数ものモンスターが群がっている。


装備からは、ランクの高いパーティに見え、モンスターにも苦戦していないようだが、モンスターの数が数。1つのパーティで賞品と実況者を守っている。疲労は目に見えて溜まっているようだ。


「聖龍の雫はなんとしてでも壊すか奪え!」


ゴーグがモンスター達にそう指示を出しているようだ。

なぜゴーグが聖龍の雫の破壊に拘るか。それは聖龍の雫の効果が未知数であり、効果を知っているから。

いくらムルトやハルカ達を瀕死に至らしめても、聖龍の雫があれば完全回復してしまう。もしも聖龍の雫が、ブラドやミチタカに使われてしまえば。戦況がひっくり返ってしまう。ゴーマをやられたゴーグは、焦っていたのだ。


「おい!骸蟲!!お前もいけ!!」


ゴーグがセルシアンにそう命令を出した。

セルシアンはそれを聞くと、すぐに身を屈め、動き出そうとした。


「……もう1つは、あいつらの命令だ。俺は、もう、あいつらの人形なんだよ」


セルシアンは目の前の2人を無視し、真っ直ぐに実況席に向かう。


崩れた顔で悲しそうに呟いたセルシアンを、ジュウベエは真顔で見ていた。そして歯を食いしばりながら……


「……あいつらは、絶対に、許さん。協力してくれ」


「わかってる」


ジュウベエとティアは、セルシアンの後を追う。


(……やっぱり私と同じ。私も、生きながら死んでいる)


ティアは、セルシアンを自分と重ねながらも、その苦しみから解放できるよう、メイスを固く握り締めた。

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