骸骨と兵隊達
「ティング!どうした!」
「あ、あが、うぅ……ぐぁぁあぁ……」
ムルトの声はティングに届いてないようだ。
ティングをこのようにした張本人の男が口を開いた。
「ふぅ。すっきりだ……頭の中から厄介なやつが消えた……」
「貴様!予選にいたやつだな?選手登録の時にも声をかけてきた」
「その通りだ。名乗るのは初めてだな?陛下より
ゴーグは突然自己紹介を始める。
皆、黙って目の前の敵を注視している中、ゴーグとムルトだけが口を開いている。
「ティングに、何をした」
「2つの大罪を送り込んだ。こいつは今、頭の中をぐちゃぐちゃにかき回されているような苦しみを味わっている。俺でも自分を見失わずに耐えることしかできなかったのだ。いちモンスターであるこいつは死ぬか……自我を保つことはできまい」
「どうすれば元に戻る?」
「あっはっはっは!!」
ゴーグは顔に手を当て大笑いをした。節々から黒い煙を噴射させながら腹を抱え、ひとしきり笑うと、それを口にする。
「いやぁ。ははは……元に戻すことは不可能だ。こいつに罪を拒むことはできないだろう。それでも元に戻したいのならば……殺すしかない。殺して、元の白骨に戻す。それしかない」
「くっ……」
なおも絶叫しているティングを、苦虫を噛んだような顔でゴンが見ているが、問題なのはティングだけではなかった。
ミナミ、ティア、ハルカと相対する異形達と、観客席に突如として現れたアンデッドにパニックになる客達。
冒険者達が武器をとりアンデッド達と戦っているようだが、正直言って戦況は悪い。
「ゴーグ」
「わかってる。頭の中がすっきりしてな。長話しちまった」
ゴーマと呼ばれていた老人がゴーグの名を呼ぶと、ゴーグは首を振りながら何を言いたいのかを察した。
「やれ」
「
ゴーグが短く指示を出すと、ゴーマが杖を掲げ、魔法を発動した。
光が杖の先端に集まっていく。
皆、杖からどのような魔法が放たれるかを見ている。どう防御するか、今のうちに攻撃してしまうか、それぞれが考えを巡らせる中、ムルトは嫌なものを抱いていた。
(胸騒ぎがする……)
ムルトはちらりとゴンの側にいるボロボロの2人を見る。第4回戦でダメージを負った2人。致死のダメージを負っていないからか、未だステージ上にいる。ムルトはそんな2人を見て気づいた。
「ゴン!!2人を殺せ!!」
「っ!」
ムルトは、ゴンに向かって大声で言った。
ゴンはムルトの声を聞き、指に挟んでいた串をしっかりと握り込む。咄嗟の指示に殺気を放ってしまったゴンだったが、2人はそれでも気がつくことはなかった。それほど体力を消耗しているということだ。
「気づくか」
ゴーグはゴンに手を伸ばした。
「させるかっ!」
ムルトは足に憤怒の魔力を纏わせ、一足でゴーグとの距離を縮め、腕を切り落とす気で剣を振るった。
「ちっ」
ゴーグはその剣を両手でガードした。
「ゴン!」
「あぁ!」
一瞬の出来事だったが、ゴンはブラドとミチタカの喉に串を差し込み、脳を巻き込むように腕を回した。その場にいたはずのブラドとミチタカの姿は消え去った。
「やれ!ゴーマ!」
「わかっておる」
ゴーマの杖の光が収束し、撃ち放たれる。
それは、ミナミ、ティア、ハルカ。そしてステージを囲む白い柱に向かって飛んでいった。
3人はそれぞれその攻撃の対処をしていたが、柱は無残に崩されてしまう。それが原因でコロシアムが崩壊するということはない。
「これで腕輪をしていても、生き返ることはできなくなったぞ?」
ゴーグ達の狙いは、最初から柱だった。
この柱こそが、コロシアム内で死んでも復活する仕組みの要なのだ。
復活の腕輪は、柱内で致死の攻撃を受けた者をステージ外へ飛ばす。この柱は8本で1セットなのだが、その内の5本が破壊されてしまった。
「うぅ……がぁ。ムルト、ムルト。ゴン、ゴンん……」
ティングの絶叫は徐々に収まり、友を求めた。
「ティング!」
「ティング!」
ムルトはゴーグと組み合ったまま、ティングへと顔を向けた。
「ゴン。ゴぉン。私をぉ……殺せぇ……」
「っ!任せろ!!」
ゴンは懐から更に数本の串を取り出し、組み合わせ、メイスのようなものを作り上げ、ティングに向かっていく。
「ゴン!やめろ!」
「っ!ムルト!言ったはずだ!戦場では甘さを捨てろと!」
ゴンはティングに向かってメイスを振り下ろす。
「まだだ!まだ助けられる可能性がある!俺の宝玉があれば!」
ゴンのメイスがピタリと止まる。
「それは本当か」
「あぁ。ティングの中に強欲と暴食の罪があるのならば、俺の宝玉でどうにかできるはずだ」
そう早口で言うムルト。ゴンは少し立ち止まり考えてしまった。
「
「くっ!俺としたことが!」
ゴンはすぐに目の前のワイトキングに目を向けた。止めてしまったメイスをまた振り上げ、力一杯に振り下ろす。
それをワイトキングが片手で受け止めた。
「
ワイトキングの眼窩には、黄色と茶色の炎が灯っていた。
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