骸骨へ会いにきた
「おい、あれなんだ?」
「演出か?」
「おぉ!まだまだ楽しませてくれるのかぁ!」
突如としてステージに現れた黒い亀裂に、観客たちは期待に胸を膨らませる。
『お、おい、あんなの予定にあったか?』
実況がマイクを切るのを忘れてしまうほど、それは唐突だった。喧嘩祭りはそのような演出など予定しておらず、話にも上がっていない。
「あれはまずそうです」
そう言ったのはミナミだ。
「あぁ。俺もそう思う」
ゴンがそれに続き、頷いた。
「ダンさんとシシリーさんはそれとなく観客の皆さんを外に、サキとゴンさんは私についてきてください」
「はい」
「おう」
「な、なんだかわからねぇが、任せろ!シシリー!」
「ええ」
ミナミは迅速な指示を出し、すぐに行動に移った。ダンとシシリーは周りの観客たちに声をかけながら退路を確保。
ミナミ、サキ、ゴンはステージ上は飛び降りた。
「おぉ!やっぱりまだ何かあるのか!」
「あれって勇者様じゃねぇか?」
「てかあの3人、予選でいい線いってたよな?」
「もしかして敗者復活戦ってやつか!」
ステージに降り立ったミナミ達を見て、観客達の盛り上がりが返ってくる。
「皆さん!聞いてください!!喧嘩祭りはこれにて終わりです!職員の皆さんの指示に従っ……!」
手を挙げ、観客に叫んでいたミナミが、何かを感じ、柄に手をかける。
「くるぞ」
ゴンも何かを感じたようで、串を指に挟み、身構えた。
バキッ!!
黒い亀裂から、黒い煙が滲み出た籠手が飛び出してきた。その籠手は亀裂を掴み、無理矢理に広げた。
「ばぁぁぁぁ!!!」
亀裂を引き裂き現れたのは、黒い甲冑の節々から煙が漏れ出ている男。ローブで体をすっぽり隠した小さな老人。巨大な体に小さな子供の顔を貼り付けたような巨人。そして、全身を虫で覆われた男。
異形の姿をした者達が4体。
「ゴン!ミナミ!サキ!」
ミナミ達の後ろから、ムルト達が姿を現した。
「あれは、なんだ?」
「私にもわかりません。が、良い者たちではないことは明白でしょう」
「だろうな……俺の中の大罪も騒いでいる」
本戦を通過したはずのムルト、ハルカ、ティング、そしてティアが駆けつけ、観客達もざわつき始める。
その声など聞こえていないかのように、よろいに身を包んだ男が頭を掻き毟り始める。
鎧を掻き毟っているから、高い音が辺りを包んだ。
「ムルト……あぁ。ムルト、ムルト、ムルト!ムルト!ムルトぉぉぉ!!そう!陛下に見初められしムルトぉぉ!!なぜ、なぜお前がぁぁぁ!!」
血走った目のように見える赤い光が隙間から見える。
「ムルトおおぉぉぉぉ!!」
鎧の男から煙が噴き出す。
『み、皆さん!色々ありましたが、喧嘩祭りはこれにて終了です!落ち着いて帰ってください!!』
全く意味のわかっていない実況だったが、とりあえず観客達を外に出そうと放送をかける。
「ゴーマ、逃すな」
「わかっておる。ー溢れかえれー」
狂ったように頭を掻きむしっていたとは思えないほど、冷静に、冷徹に、ゴーマという老人に指示を出す。老人はそれに答え、杖をコツンと叩くと、そこかしこからアンデッドが現れる。それはステージ上も観客席も関係なしにだ。
それだけで、コロシアム内はパニックになった。
「なっ!何を!」
「ムルトおぉぉぉおぉぉぉ!!」
鎧の男は叫ぶようにムルトの名を呼ぶと、ムルトの目を見つめて言った。
「お前を、殺すぅぅぅぅぅ!!!」
鎧の男の目的は、それだけになっていた。
★
「やれやれ、ゴーグめ、目的を忘れておるな?ゴーパ、ゆけ」
「うん。いくよ」
鎧の男、ゴーグがムルトに突っ込むのを見て、ゴーパは肩を竦め、巨人に指示を出した。
「ミナミ!ゴン!とりあえずミチタカとブラドを!」
「はい!」
「あぁ!」
ムルトは、自分に真っ直ぐに突っ込んでくるゴーグを月光剣で受け止めると、2人に指示を出した。
「ムルト様!」
「ムルト!」
ハルカとティングがムルトに加勢しようとしたが、それに横槍が入った。
「お嬢さんの相手は、儂じゃよ」
ゴーパが割って入る。
「お姉さん。ぼく」
「っ!ゴンさん!」
ミナミはミチタカをゴンに投げて渡した。
ゴンはそれをキャッチした。
「……死霊術師の私がいることは知らない?反魂」
「あんたは俺だ」
ティアの前には虫に覆われた男が立った。
「数では俺たちが有利のようだな!」
「はい!」
ゴンとサキはブラドもミチタカを喧嘩祭りのスタッフに任せると、援護するために戻ってくる。
「あぁぁぁぁ!!そう!そうそうそう!!忘れてた!!」
「む?なんだ?」
ムルトと相対しているゴーグが突然大きな声でそう言った。
「がはっ!」
ムルトに蹴りを入れ、離れると、超高速でティングへと近づいた。
「可能性の器に、プレゼント」
ゴーグはティングの頭を掴み、魔力を流し込んだ。その魔力は、強欲と、暴食。
「ぬぁっ!!ぐ、ぐがぁぁぁぁ!!」
ティングは頭を押さえ、膝を折り、その場に蹲り、暴れ出した。
「貴様ぁぁ!!ティングに何をした!!」
ゴンがそう怒鳴ったが、ゴーグはゴンのことなど眼中にないらしく、すぐにムルトに向かっていった。
「ティング!大丈夫か!何をされた!」
ゴンはティングへ駆け寄り、声をかけた。
「……れろ……」
「ん?どうした?!」
「私……れろ」
「ティ、ティング?」
ティングの身を案じ、近づいたゴンだったが、ティングがそれを拒んだ。
「私からぁぁ!!離れろおぉぉぉぉ!!!」
天に向かって、ティングは咆哮を上げた。
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