ミチタカVSブラド3/3


「ゆくぞ」


ブラドが駆ける。その姿を、ミチタカは追えない


(なっ!)


強烈な裏拳が、ミチタカを襲った。

流水拳を使って受け流すか、または増幅させ放つべきなのだが、今のミチタカにそれはできなかった。

ブラドの拳の間に腕をクッションとしていれ、耐えることしかできない。


「流水拳!!使ってみるがいい!!」


流水拳の弱点は、腕を掴まれることだけではない。受け流すことのできないほどの破壊力、または受け流される前に当てるという速さだ。


「もろいなぁ!!流水拳!いや、龍吸拳!!」


「ぐっ!」


吹っ飛ばされるミチタカにブラドはすぐに追いつき、追撃を繰り出す。

ミチタカはそれをガードするしかない。


(せめて隙があれば)


そう考えるミチタカだったが、ブラドがそれを許さない。先程までの余裕な態度など全く見せず、ひたすらに猛攻に専念している。

ミチタカが構えをとれないように、ミチタカが反撃できないように。


「ぬん!!」


ブラドの拳がミチタカを押しつぶす。

クッションにしていた腕は既にボロボロだった。並の人間やモンスターであれば、最初の裏拳で粉々になるのだが、ミチタカは寿命と引き換えに驚異的な力を手に入れていた。


(隙が……全くない)


ミチタカは攻撃を防御しつつも、反撃のチャンスを探している。が、そんなことはブラドも知っている。ミチタカが構えをとれないように攻撃の手を緩めず、踏ん張れないように常にミチタカを宙で殴っている。


「もう終わりだなぁ!!」


ブラドはミチタカを殴り上げた。

地面に向かって叩きつけるように殴ってしまえば、足がつく。そこから何かがあるかもしれないと警戒したためだ。


だが、ミチタカが空中に投げ出されたことで、やっと隙ができる。


「ほっほっほ。耐え抜いたのぉ……体も、馴染んできおったわい」


空中に投げ出されたミチタカが、龍吸拳の構えをとった。ボロボロのはずの両腕を力強く前に出した。それはまるで龍の顎のよう。


「ぬ!空中でも何かできるのか……だが!近づかなければどうということではない!!ードラゴンブレスー!!」


ブラドは胸を膨らませ、喉を赤くし、口から黒い火炎を吐き出した。


「相手の力を受け流し、放つ、流水拳。

己の寿命を縮め、力を得る、流命拳

そして、相手の力を己の力として吸収する、龍吸拳」


黒炎がミチタカを包み込む。だがそれは風に操られているかのように、ミチタカを中心に徐々に吸収されていく。


「強大なはずの龍の力をも吸ってしまうからこそ、龍吸なり」


ミチタカはゆっくりと地面に向かって落ちていくが、ブラドがそれをさせるわけはない。


「それが!!どうした!!」


ブラドの姿が消え、ミチタカのすぐ目の前に現れる。


「ふん!!」


先程の速さで、先程の破壊力。

先程のミチタカであれば、無様殴られていただろう。が、ミチタカはブラドの拳を指一本で止めてみせた。


「相手の力を自分のものにしてこその龍吸よ。今の儂は、お主と同じ強さを持っていると心得よ。そして」


ミチタカはブラドの腹に手を添えた。


「お主の強さと、儂の寿命を差し出し、かりうけた力。それらを流水拳でさらに強大にした。受け取るがよい」


「がはっ!!!」


ブラドが初めて血を吐き、体をくの字に曲げられた。


その勢いのまま後ろへ飛ばされ、大の字でステージに叩きつけられる。ミチタカはそれを余裕の表情で見ている。


土煙がブラドを包んでいたが、ブラドは何のことなく起き上がった。


「そうこなくっちゃぁなぁ……」


怒っているわけでも、驚いているわけでもない。心からこの戦いを楽しんでいるようだった。


「さあぁぁぁぁぁ!!!どっちが先にブっ倒れるか!!!勝負といこうじゃねぇか!!!」


雄叫びのような声をあげ、ブラドの姿が消える。ミチタカの目前、拳が迫る。


「今の儂に敗北の文字はない」


ブラドの拳を受け流し、先程のように掌底を放つ。


「ぐおぉおぉ!!あっはぁ!!」


体をくの字に曲げたブラドだったが、怯むことなく拳を押し込んだ。


「ぬぉっ!」


ミチタカはブラドの攻撃を完全に流しきれなかったようで、殴りつけられてしまった。


(ほっほっほ……驚いた)


ミチタカの使う龍吸拳とは、相手の力を吸収し、自分の力とする、足し算のようなものだ。1という自分に、10という相手の力を加えることで、11になる。

ミチタカはそれに流命拳を加え1000に、流水拳を使うことで2000にして跳ね返しているはずなのだが、ブラドは怯まない。


それどころか


(儂の強さに追いついてきておる……)


先程まで10だったはずのブラドの攻撃力、防御力、動きの全てが、時間が経つごとに増えていっているのだ。そしてそれは今のミチタカに追いつき始めている。


「さぁぁぁぁぁ!!どうした混ざり者よ!!!我を越えれるか!!」


ブラドはミチタカに殴られたら殴り返す。

吹っ飛ばされたら吹っ飛ばし返す。そんな戦いを繰り返した。


そしてそれは着実に、着実にミチタカを苦しめている。


「かはっ!」


ミチタカがその攻撃を受け流しきれず、もろに受けてしまった。


「やぁぁぁぁ!!もう終わりかぁ!!」


ブラドは凶悪なほどの笑みを浮かべる。ミチタカはそれに引き攣った笑みを浮かべるしかなかった。


(儂の寿命は残り僅か、といったところか)


ミチタカの体にはガタがきている。全寿命を捧げているのだ。本来は体が動いていることに驚くべきなのだ。


「まだまだぁぁぁ!!」


だがミチタカは立ち上がる。


「そうこなくてはぁぁぁぁ!!!」


もはや体中が粉々であるはずのブラドもそれに答えた。


その後の戦いは、泥沼化した。


殴り殴られ、蹴り蹴られ。

一発には一発。ターン制になったと言っても過言ではない。


「く、くらえぇ!」


ブラドの拳を受け流しもせず、ミチタカは真正面から受ける。変な音がしたが、ミチタカは倒れなかった。


「はあぁぁぁぁぁ!」


掛け声とともにミチタカもブラドの鳩尾へ肘を捻りこむ。

ブラドも血反吐を吐きながらそれを耐えた。


ゆっくり行われる攻防に、観客も白け始めてしまっていたのだ。

だが、決着は唐突についた。


「うおおぉぉぉぉ!!!」


「んああぁぁぁぁ!!!」


2人は同時に拳を交えた。クロスカウンター。


2人の拳が2人の顔面に炸裂する。


「やる、な」


「お主も、の」


そう、2人にしか聞こえない言葉を呟き、2人は倒れ込み、気絶した。


『しゅ、終了ぉぉぉぉぉぉぉ!!喧嘩祭り本戦、第4回戦!!これにて終了です!!!

お2人が同時に気絶、ということで、お2人の意識が戻り次第、簡単な勝負で決着をつけていただき』


試合終了のゴングが鳴った。

実況がこの後の流れを説明し始めた頃、ステージ中央に、黒い亀裂が現れた。

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