ミチタカVSブラド2/3

それから、ミチタカの猛ラッシュが始まった。突き、殴打、蹴り、流れる水のように次々と繰り出される攻撃を、ブラドは片手・・のみを使い、凌いでいる。


「ほほ。儂の力を認めてくれたのではないのかな?」


「認めているとも」


「ほっほっほ。そうかのぉ……」


軽口を叩くミチタカだったが、猛攻は緩めなかった。


(身体強化を使わず片手だけであしらいおって……そして何より……)


「一歩も動いてはおらぬではないか」


「そうだなぁ。少し、動くとするか」


ブラドが一歩だけ足を踏み出した。


「ぬっ!」


ミチタカは猛攻をやめ、後ろに飛んでブラドとの距離をとった。


「ぬっはっは!どうしたどうした!ご期待通り動いてやったぞ!」


胸を張り、堂々と叫ぶブラド。

ミチタカがブラドと距離をとったのは、突然強烈なプレッシャーを当てられたからである。


(まだ身体強化を使ってはおらぬ。か)


「お前は強い!強い、が!やはり、我の相手ではないな!!」


ミチタカは呼吸を整えた。


「流水拳、300年」


「残りの寿命を使ってでも我を越えようとするか!その意気やよし!だが!もう遅い!!」


一歩でミチタカとの距離を詰めるブラド、槌のような大きな拳がミチタカめがけ飛んでくる。


(きたかっ!)


それを勝機と感じ、ミチタカはその拳を受け流そうと構えるが、それはできなかった。


「なにっ」


構えをとったミチタカの腕を、ブラドが掴んでいたのだ。


「流水拳とは何度かやりあったことがある。分家、本家に限らずな。流水拳とは相手の力に自分の力を上乗せして放つ技。攻略法は自ずと見えてくる」


「くっ……」


ブラドの言う通り、流水拳は相手の拳を受け流し、攻撃を加える技。

それ以外にも衝撃を流して和らげたりするのだが、相手の攻撃を受けなければ、攻撃ができない。つまり、後手に回らなければ勝つことは不可能だということだ。


だが、ミチタカはそんなことは知っている。


「ただの流水拳であれば、な」


ミチタカは掴まれた腕を下げ、体を捻る。

ブラドはそれにつられて体を捻るが、掴んでいた腕を離してしまう。


「ぬっ?」


ミチタカは軸足を回しながら回転力を上げ、下から掌底を放った。


「ぐっ」


それは確かにブラドへダメージを与えた。


「ふっふっふ。腕を掴まれても流水拳は生きているのか……これではまだまだ流水拳破れぬか!!」


ダメージを負わされたというのにブラドは大笑いをした。


「おもろしろくなってきたなぁ!ミチタカよ!次は何を見せてくれる?!」


「ほっほっほ。そう焦るな。儂の全てを、見せてやろう」


ミチタカはゆっくりと構えをとった。

右腕を上段に、左腕を下段に、足を前後に開き、腰を落とす。



「あ、あれはっ」


その構えに反応を示したのは、ミナミだった。


「どうしたミナミ?」


ダンはミナミが突然声をあげたのに驚きつつも、聞いてみた。


「いえ、あの構えを私は見たことがある気がします」


「見たことあるって、予選の話か?」


「いえ、 前世で。確かあれは……」


ミナミは何かを思い出すように頭を唸らせる。


「そう、私の家のライバルとでも言うような。居合の藤山と、合気の海松……確か、師範の名前は、海松満鷹……流派の名前は……」




「龍吸拳」


「龍を、吸う?ぬわっはっはっは!!」


「おかしかのぉ?」


「いやはや……我を倒すにはぴったりと思ってな!!」


「やはりお主は……」


「あぁ!お前が思っている通り、ドラゴンだ!!」


「ブラド、というのは、ブラックドラゴンの略かのぉ?」


「おぉ!そこまでお見通しとは!さすがだ!」


「なに、何とも安直で、わかりやすいというものじゃ」


「なに?」


瞬間、ブラドからプチッと、何かが切れる音がした。


「我の仮の名が、安直だと、そう言ったのか?」


「あぁ。何とも安直で、稚拙じゃ」


ブラドは体を震わしている。


「この仮名は我が愛しの娘がつけてくれたもの、それが稚拙だと?」


「あぁ。そう言っておるのじゃよ」


ミチタカは明らかに挑発をしていた。それがわからないブラドではなかったが、愛娘が自分のためにつけてくれた名を馬鹿にされ、頭にきてしまったようだ。


「いいだろう……今すぐに本気を見せてやろう」


ブラドはそう言うと、自分の両手両足、クビに取り付けている枷を外していく。


「なぜ我がこんなものをつけているか、おしえてやる」


枷を外すと、そこから黒い鱗が浮かび上がる。


「我は人化が苦手でな。このように不完全なのだ」


枷を全て外したブラドの姿は、人というよりかは、どちらかというと龍人のようだった。

額からツノが生え、手足には鱗が生えている。


「苦手、というのも少し違うがな。苦手なのではなく、力が強すぎて抑えきれないのだ」


枷を外したブラドからは、常にプレッシャーが発せられていた。さらに身体強化を身に纏う。


「ほっほっほ……儂もロンドのことは言えないのぉ……」


正直に言って、想像以上だった。

モンスターの中でも最上位に座すドラゴン。

その中でもブラドはさらに上のランクにいた。


「さぁ、我を前に、何秒生きていられる?」


(これはちと賭けになるが……)


圧倒的な力を前に、ミチタカは賭ける。

賭けに負ければ、死ぬことのないはずのこのステージにいても、確実に死が。

寿命という名の死神が。


「流水拳、全寿命を、捧げよう」

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