ジュウベエVSムルト1/3

第2回戦を延期され、待たされた観客のボルテージは最高潮だった。


ムルトがステージに進むなり、はち切れんばかりの歓声が轟いた。


「ふむ。すごいな……」


ムルトは観客席を見渡した。

ギュウギュウに詰め込まれ、見渡す限りの人、人、人。その誰もがムルトや他の選手の戦いを今か今かと期待している。


「ムルトー!!頑張れよー!!」


「応援してるわよー!!」


ムルトが、声のしたほうを見てみると、そこにダンとシシリーの姿を見つける。その他にもゴンやミナミ達もいるようだ。


「……ふふ」


ムルトはその姿を見つけ、手を振る。


「お!ムルトが気づいたぞ!!おーい!頑張れー!ハルカちゃんの分まで頑張れー!」


ダンはハイテンションなようで、ムルトに声援を送り続ける。ゴンは笑みを浮かべ、シシリーはハイテンションなダンに困っているようだ。ミナミとサキはムルトへ控えめに手を振っている。


「人気者だなぁ!はっはっは!」


ムルトが振り返ると、そこには対戦相手のジュウベエが立っていた。

大きな体に真っ赤な鎧。背中に背負っている巨大な大剣が、ジュウベエの威圧感を3割増しにもしているように見える。


「……今日はよろしく頼む」


「あぁ。こちらこそ。いい試合をしようぜ」


ジュウベエとムルトが向かい合う。互いに剣に手をかけ、試合の開始を今か今かと待っている。実況の選手紹介が行われ、1試合目と同様、カウントダウンが始まる中、ジュウベエが口を開いた。


「ムルトさんよぉ……」


「む?なんだ?」


「セルシアンは、強かったか?」


「っ!なぜそれを?」


ジュウベエが何を言っているのか、ムルトはすぐに答えがわかった。

ムルトは話を続けよう思ったが、試合のゴングが鳴らされる。

そしてそれと同時にジュウベエが肉薄してくる。


「ぬぐっ!」


ムルトは半月を抜き放ち、その大剣を受け止める。予選での話と、月読でジュウベエの動きは読めていた。


見た目からは想像できないほどのスピードに、見た目から容易に想像できるパワーが、ムルトを襲った。


「ロンドやミナミから話は聞いているかもしれないが、セルシアンは俺の仲間でもあった」


ジュウベエは息つくことなく攻撃を続けた。


「お前がセルシアンを殺したことを俺たちは聞いているぞ!異色の骸骨・・・・・!」


ムルトはジュウベエの強力な一撃を受け止めたが、後ろに飛ばされてしまう。

足を擦りながらも勢いを殺し、静止する。


「確かに、あの男を殺したのは俺だ。俺が憎いのか?」


ムルトがジュウベエに向かってそう問いかけると、ジュウベエは一瞬だけ驚いた顔をしたが、大笑いして言った。


「はっはっは!そう聞こえたか?悪い悪い。この世は弱肉強食。あいつが弱いから負けたってことだけさ。それに、お前が危険なモンスターではないということは聞いているし、見て俺自身そう思う」


「……?ではなぜセルシアンの死のことを俺に伝えた?」


「はっはっは!」


ジュウベエはもう一度大笑いをし、剣を構え、真剣な眼差しでムルトの問いに応えた。


「俺たち十傑はな、序列みたいなもんはあるが、それぞれが同じような強さや強みを持ってる。それは俺とミナミ、俺とロンド。そしてセルシアンだって間違っちゃいない」


「……話が見えてこないが?」


「つまりはだ……俺たちの仲間であるセルシアンを殺せたお前とやれるってのが嬉しいのさっ!」


ジュウベエが突進をし、剣を振り下ろす。

ムルトはそれを横に避け、距離をとった。


「敵討ちではないのか!」


「はっ!さっきも言ったろう!それはあいつの自業自得!俺はただ強いやつと戦いたいのさ!」


ジュウベエの鋭い横薙ぎ。

分厚い鉄板のような剣を、ジュウベエはナイフでも使っているかの如く楽々と振り回している。


「ふむ。ならば!正々堂々、俺の全てを持って相手をしよう!」


「あぁ!それで頼むっ!」


ムルトは、ジュウベエの攻撃の隙をつき、接近をした。そこから剣を振り続けたが、その全てをジュウベエが受け止める。


「ぐっ……!」


「はっはっは!お前の考えてることはわかるぞ!俺と初めて戦うやつはいつも『図体と早さがあってない』って言うんだ!お前もそう思ってるんだろ?」


「ふっ……その通り、だ!」


半月を両手で握り、憤怒の魔力を纏わせた一撃を放つも、ジュウベエは楽々とそれを受け止めた。少しジュウベエが前傾姿勢で耐えたというところ以外、他の攻撃と変わりはない。


「ふむ……剣は誰かに習ったな?だがまだ我流が強い」


「ふふっ、そんなことまでわかるものなのか?」


「あぁ。しなやかで鋭く、相手の次の行動を考えている。それがお前の戦い方なのだろうが、所々甘く、押し切れない動きがある」


「なるほど、いい勉強になった。感謝する」


「自分の動きのどこを直せばわかったか?なら、ほら本気で来い」


ジュウベエは手をムルトに差し出し、手首を返して挑発した。


「本気……か。俺の本気はまだ不完全でな……多少は出してやるよ」


ムルトの体は赤い魔力に包まれている。

それは、憤怒の魔力。

ムルトの仮面からは二本の角が生え、半月は牛の頭骨の形をした戦斧へと変わっている。


「中々いい威圧感出してるじゃねぇか」


「ふっ。感謝するっ!」


ムルトは斧を握りしめ、ジュウベエへと肉薄した。

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