ジュウベエVSムルト2/3
「ぬおぉっ!」
ムルトは叫びを上げながら飛び上がり、右から左へ斧を振るった。
ジュウベエはその動きを目で追い、楽に対処をした。
「んぉっ⁈」
大剣でガードをしたジュウベエだったが、ムルトの放った攻撃により、足が少し浮き、ふわりと左へ押し出された。
「ふふ、中々良い一撃だろう?」
「あぁ。だがまだまだだ。なっ!」
斧を振り抜いてしまったムルトの体はガラ空き。ジュウベエはすぐに体勢を整え、前蹴りをムルトへと放った。
ムルトはそれをまともに食らってしまったが、腕をクッションにしてダメージを和らげつつ後ろへ飛ばされながらも綺麗に着地する。
「いい動きになってきたな。これは俺も少しばかり本気を出さなければなぁ」
「最初から全力で来なければ、負けた時言い訳をする羽目になるぞ?」
「自分だってまだ本気を出してないのによく言えたもんだぞ?……身体強化、っと」
ジュウベエは身体強化を自分へとかけた。
そう、ムルトが身体強化、憤怒の魔力、月読を使って戦っている中、ジュウベエは未だ身体強化、魔法すらも使わず、己の純粋な力と技術だけでムルトの相手をしていたのだ。
月読で相手の動き、魔力すらも見えるムルトはそのことに気づいている。だからこそこれから苦戦を強いられることもよくわかっている。
(これで負けるようでは、俺もまだまだということだ)
ムルトはジュウベエの身体強化を静かに見ていた。だが、ムルトの体を包む憤怒の魔力は燃え上がる炎のように煌々としている。
「ふぅ……少しは楽しませてくれよ?」
ジュウベエはそう言うと、ムルトへと突っ込んで行く。だがその速さは先ほどとは別だった。
「はぁっ!」
「ぐっ!」
ムルトは腕と斧を怠惰の魔力で包み、防御力を上げた。それでもなお、ジュウベエの圧倒的な破壊力の前では耐えきることはできなかった。
勢いよく薙ぎ払われ、吹っ飛んでしまう。
「
ジュウベエが魔法を唱えると、吹き飛ばされるムルトの後ろの地面が盛り上がり、大きな壁となる。
「ぐぅっ!」
ムルトは勢いそのままに壁へと激突した。
「ふんっ!」
そこへジュウベエは自分の大剣を思い切り投げた。
ズルリと壁から落ちるムルトの目に大剣が入る。大剣は一直線にムルトの頭を狙っている。
「っ!」
大剣を避けようと右を向いたムルトは、全速力で両手を引きながら突っ込んでくるジュウベエを月読で見てしまう。
その体勢から、両手を引いているのはフェイクなどではなく、ムルトが大剣を左右どちらによけても拳を打ち込めるようにしているのだとわかる。
「くっ!」
「そうだよなぁ!上しかねぇよなぁ!」
ムルトは左にも右にも避けず、飛び上がってジュウベエの拳を避けた。
ジュウベエの拳は大きな音を立て、土の壁を破壊した。
ムルトは崩れていない壁を足で蹴り、ジュウベエの後ろへ飛ぼうとしていたが、気づいた。
「だが、それが俺の狙いだっ!」
壁へ拳を放ったジュウベエ、だがそれは腰の入ったしっかりとしたパンチではなかった。
腰を落とし、腰をまっすぐに伸ばしているのだ。それは拳を放つ姿勢ではなく、今、まさに
(っ!しまった!、)
「気づくのが遅せぇ!」
ジュウベエは高く飛び上がった。そしてその飛び上がった上には、既にムルトがいる。
「ぐはっ!」
ムルトは強烈な頭突きを腹に受け、更に真上に浮かされてしまう。
「まだだぜ?」
ムルトへ頭突きを繰り出したジュウベエは地面に着地せず、壁にめり込んでいる自分の大剣の柄へと着地し、姿勢を低くする。
大剣が突き刺さっている土壁は軋み、大剣はしなる。
「そぉら!」
瞬間、ジュウベエは高く飛び上がり、天高く浮かび上げられたムルトに肉薄した。
「っ!
ムルトは風魔法を自分自身に放ち、真横に吹っ飛ぶ。
「ちっ!」
ムルトはジュウベエの追撃からは逃れたが、うまく着地することができず、自分の放った魔法の勢いを殺すことできず、地面に叩きつけられてしまった。
「はぁ、はぁ、ふぅ……っ」
「おいおい、もう息が上がっちまったのか?」
膝を突き、剣に戻した半月を地面に突き刺しながら、ジュウベエの動きを注視しているムルト。
そんな余裕のないムルトに比べ、ジュウベエは見事に着地し、壁に突き刺さった大剣を引き抜き、地面に突き刺して言った。
(これが、S2ランクと呼ばれる冒険者か……)
圧倒的な強さ、戦ったことのあるセルシアンはS1ランクだったとミナミから聞いたが、それでも実力が全くの別次元といっても過言ではないほど、ジュウベエは強く見えた。
「もう、終わりか?」
ジュウベエは飽きたのか、地面に突き刺した自分の大剣に半身を預け、腕と足を組んで余裕の笑みを浮かべ寄りかかった。
そんなジュウベエを見て、大きな怒りを抱いたムルトだが、すぐに冷静になる。
「ふふ、ははは。本当に、強いな」
立ち上がり、笑い声をあげるムルトにジュウベエは驚いた。
「お?まだ諦めちゃいないか」
「出し惜しみなど一切せず、全力全霊、全魔力をもって相手をさせてもらおう。ジュウベエよ」
「やっと実力差がわかったか。今日のことなんて気にせず使い切りゃいいんだよ。どうせ、明日の準決勝には俺が進むんだからよ」
「はは、そうかもしれないな……だが」
「……だが、なんだ?」
ステージ上で負った傷や破壊された装備は、魔法に元どおりになるが、戦闘で使った魔力や体力などは戻りはしない。
動けなくなるほど戦えば、戦闘が終わり控え室に戻ったとしてもその体力は戻ってこない。
だがムルトはそんなことを気にするほど余裕がないのも確かであった。
少しの体力と魔力は残しておこうと考えていたムルトだが、それではジュウベエに勝てないと改めて思い知らされた。
「だが、準決勝に進むのは、この俺だ!!下位召喚!!!
ムルトが魔法を唱えると、大小様々な魔法陣がステージ上にいくつも現れ、夥しいほどの月下の骸骨を召喚していく。
「ちっ、予選でやられて、ちっとばかしスケルトンには苦手意識があるってのによ」
ジュウベエはそう言いつつも大剣を担ぎ、その腹でスケルトン達を砕いていく。
「殺れるかどうかは別だけどな」
ジュウベエが砕いた側からスケルトンは次々と生み出されていく。それでもスケルトン達がジュウベエに敵うはずもなく、段々と数を減らされていく。
召喚も打ち止められ、残りのスケルトンを砕いてる中、ジュウベエがムルトへ声をかけた。
「お前の思惑通り、時間稼ぎに付き合ってやったぜ?準備は出来たか?」
最後のスケルトンが砕かれ、散りとなって消えていく。
その中に、ローブを着込み剣を持ち、魔力を練っている仮面を被ったスケルトンが一体。
「おかげさまでな」
ムルトの体は2色の魔力に包まれていた。赤い憤怒、青い怠惰。2つが合わさり、紫がかっている。
「ふっ、異色のスケルトン、か。楽しませてくれるんだろうな?」
「無論だ。だが、すぐに終わる。目を離さないことだ」
赤い力の憤怒、青い守りの怠惰、そしてじわじわとムルトが更に纏ったのは、黒い増幅の暗黒、それら三色を混ざり合わせた魔力は、ムルトを包み、禍々しくなる。
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