骸骨と耳飾り
「この髪飾りはサキに似合いそうね」
「これワンちゃんのブローチだよ!ミナミちゃんに絶対合う!」
ラビリス内にある露店。
ミナミ達女性陣は服や雑貨、アクセサリーや、何に使うかよくわからないものを見て回りながら買い物を楽しんでいた。
「勇者様ってんだからどんなに怖いものかと思って見れば……普通の女の子と変わらないわね」
シシリーはそんな勇者2人を見ながら優しげに微笑む。
「これはダンに似合うわね……」
シシリーは、ライオンをモチーフにしたような胸当てを見つける。
ダンとシシリーはBランク冒険者になったものの、まだまだ駆け出し。収入は安定していなかったため、ダンの新しい武器や防具も買えていなかった。もっぱら食費か、ダンはシシリーの装備品などを優先して揃えてくれる。
(……足りない)
自分の財布の中身と胸当てについている値札を見比べ、溜息を漏らす。
「絶対こっちのほうがムルト様に似合います!」
「違う。こっち」
「はぁ、またか」
シシリーが頭を抱えているのは財布のことだけではない。共に買い物をしている女性達にも悩ませている。
ミナミとサキは落ち着いて買い物をしているのだが、ハルカとティア。
この2人は行く先々でどちらがムルトにより良い贈り物を決められるかで言い争っている。
「はいはい。2人とも落ち着いて」
「シシリーさんはどっちの方がムルト様に合うと思いますか⁈」
「当然、こっち」
「んんと……」
ハルカは魚の串焼きのペンダント。
ティアは犬の肉球に弓矢が刺さったブローチ。どちらもお洒落とは言い難いほどのものを選んでいた。
シシリーはその2つを交互に見ながら、2人に向かって包み隠さず言った。
「どっちも……ダサい」
「「はぁ……」」
先ほどからどこを回っても妙なものを見つけてくる。シシリーはその都度2人の選んだものを見て、どちらがよりムルトに似合うかを選ばされているのだが、どちらも同じように奇抜なものなので決めかねている。
「くぅー!悔しいです!」
「また、ダメだった」
「次です!」
「負けない」
ハルカとティアは次のアクセサリーを探しに露店を突き進んで行く。
「ははは、大変ですね」
その様子を見ていたミナミがシシリーへと話しかける。
「そうねぇ。でも誰かのためにああなってるのは悪いことじゃないんだけどねぇ……そっちの世界じゃ仲間だったんだろう?あんな感じだったのかい?」
「そう、ですね……ハルカとはあまり長く一緒にいれませんでしたから。でも、笑顔はあの時のように輝いています」
「あぁ……あの子が先に死んじまったんだっけ」
「はい……」
少しだけ空気が重くなる。
そこに唐突に2人の明るい声が聞こえてきた。
「これ、かわいい」
「!確かに!これはかわいいですね!」
「ムルトに似合う」
「私もそう思います!」
2人は競い合うことなど忘れて、2人でその品物を褒めていた。
2人で財布を取り出し、半分ずつ支払う。
「どれどれ……?ふふ、いいセンスじゃない?」
シシリーも2人が選んだそれを見て褒めた。
「ですよね!2人でこれをムルト様にプレゼントします!」
「決定」
月が少しずつ空に登る頃、5人の女性は仲を深めていく。
★
「ゴンがアイテムバッグを持っていてよかったな」
「つってもそんなに容量はないけどな」
「最下層付近の素材を入れられれば十分さ。それにレアドロップ?というものもあったしな」
「なぁおい、これ本当に俺がもらってよかったのか?報酬もきっちり山分けだし……」
ムルト、ティング、ゴン、ダンが宿に向かって歩いている。
ダンジョンを攻略し終えた一向は、ゴンのもつアイテムバッグ、ハルカのアイテムボックスの簡易版のようなものに素材を詰め込んでいた。
ハルカのように無尽蔵ではないが、それでも十分な量が入る。
それにダンジョン内でドロップした素材などを入れ、ギルドで換金してきたばかりだ。
「お前以外装備するやつがいねぇし、いいんだよ!」
「俺には不要なものだしな」
「私も世話にはならない。それどころか皮膚がないからな、はっはっは!」
「みんなが納得するなら、俺も得するからいいんだけどよ……」
ダンが両腕に嵌めているのはライトマリンの色をした籠手。
鉤爪のように指先が尖ってはいるが、握ったりしても邪魔にはならない。
「これでダンがさらに強くなったな!」
「良いことだ!はっはっは!」
談笑をしながら宿へと戻る。
宿の前には、別行動をしていた女性陣がすでに集まっていた。
合流した後はミナミが予約したお店で食事をとることとなった。
完全個室で、ムルトとティングは仮面を外しリラックスし、喧嘩祭りの予選通過者ということにより他の者が詰め込んでくることもない。
食事を楽しみ、談笑も楽しむ。
ハルカとティアはムルト隣の席の奪い合いをし、ミナミとサキはそれを笑顔で眺め、ティングとダンが隣の席を譲る。
シシリーはダンの装備の変化に気づき、ゴンが茶化す。
なんとも微笑ましく平和な会食は、確実にみんなを元気にしていた。
ハルカとティアがムルトの隣を陣取ると、今思い出したかのように。
「あ!ムルト様!」
「ムルト」
「ん?どうした?」
可愛らしい小包みを取り出し、それをムルトに手渡す。
「私とティアちゃんで選んだんです!」
「ムルトに合う。開けてみて」
「2人が俺のために……?」
包みを開け中身を取り出すと、そこには骸骨のイヤリングが入っていた。
それを見てムルトは優しく笑い、2人の頭を撫でた。
「嬉しいな。何かを贈られる。というのはこんなにも嬉しいことなのだな。再確認した」
ムルトはチラリとダンを見た。ダンはそれに気づき、手元にある剣を軽く上げ、笑った。
それを見たムルトは2人に視線を戻し
「だが2人とも、俺に耳はないぞ?」
「あ」
「そ、そうでしたっ!」
「ははは!」
「貸してみろよ」
ゴンはそのイヤリングを借り、ムルトの耳の、軟骨にあたる部分にそのイヤリングを引っ掛ける。
「おぉ、その手があったか」
「自分の体を把握していないのか?」
「盲点だった!!見る目はないがな!はっはっは!」
「そりゃそうだ!はははは!!」
楽しい談笑は夜まで続く。
次の日には、また祭りが始まる。
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