骸骨は地底湖へ1/2

そして翌日、宿の前に9人の男女が集まっていた。


「そんじゃ!男女に分かれて楽しむとするか!」


元気に言ったのはダンだ。

今ここには、ハルカ、シシリー、ミナミ、サキ、ティアの女性陣。

ムルト、ティング、ゴン、ダンの男性陣がいた。

ムルト達が昨晩酒盛りをした後、翌日はみんなでラビリスの街を見て回りたいという話が出たのだ。その提案をしたのはムルトとティングの骸骨コンビ。

人の暮らしや、見たことのない街などに期待を膨らませる者達だ。


「ハルカもミナミ達と積もる話もあるだろう。男女水入らず、同性同士大いに楽しもう」


「ムルトの言う通り!シシリーも楽しんでくれよ!」


「って言うけど、みんな初対面の子なのよね……」


女性側に知り合いのいないシシリーは、どこか複雑そうだ。


「すいません、ご迷惑をおかけするとは思いますが、よろしくお願いします」


「いいのいいの!ま!1番年上だし!任せなさい!」


ミナミが丁寧にお辞儀をし、シシリーはそれを笑いながら了承する。

とても朗らかで、すぐにも仲良くなりそうだ。


「ムルト様……」


ハルカはムルトと離れるのが嫌らしく、あまり明るい表情とは言えない。

それに気づいたムルトはハルカの頭を撫で、懐から一本の骨を取り出した。


「ハルカの心配する気持ちはわかる。だが一生離れるというわけではない。今日は男同士、女同士、仲間同士、親睦を深めるのだ。これを渡しておこう」


ハルカはムルトから骨を受け取る。


「これで俺たちは離れても一緒だ」


仮面で隠された顔で、ムルトは笑う。

ハルカはムルトに抱きつき、仮面へキスをした。


「ヒュー。昼間からお熱いねぇ」


野次を飛ばすのはゴン、気のいいおっちゃんのような顔でからかった。


「そ、それでは、行こうか」


ムルトが立ち上がると、今度はティアがムルトへ抱きついた。


「ムルト、私も」


甘えた様子でティアもキスをしようとムルトに近づくが、そんなティアのフードをハルカが掴んだ。


「さぁ!行きましょう!」


ハルカはティアを引きずりながら前へ前へと進んでいく。


「私も、ムルトと、キス〜!」


頰膨らませ暴れるティアであったが、ハルカはそんなことを気にせず進んでいく。

女性陣はそんな様子を苦笑して見ながらその後ろをついていった。


そんな女性陣を見送りながらゴンはまたムルトをからかった。


「モテモテだね〜ムルトは」


「モテモテ、か。それも考えものだな」


やれやれ、といった風にムルトは首を振る。


「さ!気を取り直して行こうか!まずはどこに行くよ?」


「「景色のいい場所」」


ダンの問いに、ムルトとティングは口を揃えてそう言った。


「お前らはそうだよなぁ。んじゃ!探しに行くか!」


ダンとゴンは呆れつつ、歩き出す。

まずは聞き込みだ。





「ここは地底湖のあるダンジョンらしいぞ」


「ふっ!だからさっきからっ!水系モンスターばっか!」


「別に俺たちの敵じゃないからいいだろう?」


笑いながらゴンは串で固めた鉄球を操る。

ムルト達は今、数十体のリザードマンに囲まれていた。丸いバックラーを持ち、鋭い剣に、革の鎧、全身は鱗で覆われたトカゲ男だ。


「それで、肝心の地底湖というのは?」


「再奥にあるらしいが、そこへ行くことができたのは今までで数える程度しかいないって話だ」


「なるほど」


「ふっ!はっ!おらぁ!」


「ここから後どれくらいなのだ?」


「それは俺にもわからないが、っとぉ!奥に行けば行くほど敵の数も強さも増して行くんだとよ!」


数体のリザードマンを息も切らさずムルト達は倒していく。


「それでは奥に行くとしよう」


「ま、待て!お前達はいいが、俺はこの段階でクタクタだぞ!」


「泣き言言うなよダン!絶景のためだぜ?」


「そうだぞダン、喧嘩祭りで見せたお前の強さ、あれほどのガッツがあれば大丈夫だ」


「俺たちもいる。気楽に行こう」


ヘトヘトになっているダンをムルト達は励ます。


「そんなぁ〜」


「さぁ!どれだけ時間がかかるかわからない!次々と行こう!」


「おー!」


絶景が好きなムルトとティングはやる気を増して行く。ゴンは苦笑しながら、ダンは絶望しながら、ダンジョンの奥へと進んで行く。





水滴の落ちる音が洞窟の中に響いていく。

入り組んだように広がる鍾乳洞は、それだけで見事なほどに良い景色だった。

そのさらに上を行く地底湖、その地底湖にない胸を期待に膨らませながらムルト達は進んで行く。


「他の冒険者ともすれ違わなくなってきたな」


「それほど奥に来たということだろう」


「敵の気配もしない。ゴールは近いか?」


「はぁ、はぁ、はぁ」


ダンはリザードマンから奪ったロングソードを杖代わりにして、よろよろと歩いている。


「そろそろ俺もきつくなってきたぞ……」


「そろそろって、さっきのリザードマンはクリムゾンリザードマン、Aランクのモンスターだ。あれとタイマンで勝てたんだから自信持てって!」


ゴンはダンの背中をバシバシと叩きながら励ましていた。


「はぁ、はぁ、そういえばゴン、このダンジョンをクリアした数少ない冒険者っていうのは、誰か聞いたのか?」


「ん?確かそうだな……」


ゴンは顎に手を当て、昼間に聞いた話を思い出す。ラビリスが管理する数あるS級ダンジョンの中で絶景があるという噂のダンジョンを選び、地底湖があるというこのダンジョンを決めた。


そして地底湖があった。という報告をした冒険者こそがこのダンジョンをクリアした冒険者、ゴンが聞いたその冒険者の名とランクは……


「クリアした冒険者はバリオのS2以上のパーティ、ちなみにこのダンジョンのランクもS2だ」


「バ、バリオって!拳神バリオか⁈しかもS2パーティって!俺たちは……」


ダンはこの場にいる面々を見渡す。

目の前にいる、白髪の混じった初老の男、Sランク冒険者。

太陽の描かれた仮面をしている、ワイトキング、Sランクモンスター。

月の描かれた仮面をしている、月の骸ムーン・スケルトンBランクモンスター。

そして、そこまで腕が立つと思っていない自分自身、Bランク冒険者。


「なんでこの面子でS2ランクのダンジョンに挑戦しようと思ったんだぁぁぁぁ!!」


「面白そうだから?」


悪びれた様子もなく、ゴンは言った。

ダンは絶望と怒りに体を震わせながら剣を掲げる。


「やってやろーじゃねぇか!!」


開き直った。


「その意気だダン。頼もしい限りだな」


ティングは事の大きさがわかっておらず、明るくダンにそう言った。


「皆、静かに」


ムルトは口に人差し指を当て、3人に静かにするよう合図を出した。


「水の音だ」


水の滴る音、そして複数の生物が水場で動く音が聞こえてくる。

その音のする方へ歩いていくと、巨大で荘厳な扉が姿を現わす。

その扉は、ここへ来るまでいくつか通ってきた。

俗にいうボス部屋というものだ。

扉の奥には、ボスモンスターという、他のモンスターとは違い圧倒的な強さを持つモンスターが他のモンスターに混じって一体いる。

ムルト達は当然ここにくるまでそのボスモンスターを屠ってきたが、このような巨大な扉ではなかったはずだ。


「これで最後、ってことだろうな」


ゴンは顎をさすりながら言った。


「どの道ゴールはこの先だ。行こう」


「ま、待てよムルト!」


待ったをかけたのはダン。この中の誰よりも弱く、誰よりもその弱さを知っている男。


「俺でもわかる。この先にはとてつもねぇモンスターがいる。それに本当に勝つ自信があるのかよ?S2ランクはあるかもしれないっていうモンスターに」


ムルトは考える。

S2ランクモンスター、Sランクの上、ということになるのだが、正確には違う。

冒険者もモンスターも、G〜Aランクというのは強さの指標であり、1段階ランクが上がれば、強さも1段階違う。ということになる。

だがAランクからSランク、SランクからS2ランクには途方も無いような強さの壁がある。

Sランクというのはそれだけで次元が違うのだ。


「通用するかはわからない。が、ここまで来て退きたくはない。確かに命の保証はない。ダン、お前だけでも先に帰っていてもいいぞ」


ムルトは懐から1つの石を取り出す。

これは帰還石という魔道具で、ダンジョンの中でこの石に魔力を通せば、ダンジョンの入り口に戻れるというすごい道具なのだ。

ダンジョンに入る者は1人1つずつこの石を渡されている。


「心配するな、ダンは私たちが守る」


ティングはダンの頭に手を乗せ、わしゃわしゃと髪を撫でた。


「どうする、ダン」


「……わかったよ!行くよ!」


「……よかった」


ダンは決意を固め、ポーションを一息に飲み干す。

ゴンもポーションを飲み体調を整える。


「よし、それでは行くぞ」


ムルトが先頭に立ち、巨大な扉を開けた。

呆気ないほど軽い扉の奥には、重苦しいほどの空気が漂う。


「これは……」


4人の目の前に広がったのは、見事なまでの湖、ライトブルーに光る水面には、天井からつららのように伸びた岩から、水滴が落ち、波紋を広げている。

重苦しい空気を取り去るほどの、清々しい風が吹く。


だが、誰1人としてその光景に見惚れるほど気を緩めてはいなかった。

4人の視線は4人とも同じ場所を見つめている。

ライトブルーに光る水面に、水滴以外の大きな波紋が広がる。

その波紋を広げながら、ジャブジャブと地底湖の中から首をのぞかせた。


地底湖の水のように輝く、ライトブルーの鱗を持つ巨大なリザードマン。片手にはそのリザードマンのように巨大な斧を持ち、片手にはタワーシールド。

シュルシュルと威嚇のような声を出し、その姿を完全に現した。


4人の視線は、そのリザードマンのみを見ていた。

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