勝者達
ロンド、ジュウベエ、ミチタカが部屋を後にし、ブラドも別室へ移動し、部屋に残ったのはムルト、ハルカ、ティング、ティアである。
「ワイト、久しぶりだな、また会えて嬉しいぞ」
「ムルトも元気そうでなによりだ」
「あの時お前と別れて、本当に心配したんだ」
「お前を逃すにはあぁするしかなかった。またこうして出会うことができたのだ。それを良しとしようじゃないか」
「あぁ、そうだな」
「それとムルト、私の新しい名は……」
「ムルト様」
ムルト達の会話に、ハルカが口を挟む。
「どうした、ハルカ」
ハルカに突然名前を呼ばれ、そちらを向くと、ハルカは両の頬を膨らませ、何やら怒っている様子。
「どうしたもこうしたもありませんよ!その子は何なんですか!」
ハルカが真っ直ぐに指をさした先、ムルトの腕にしがみつく少女が1人。
「初めまして、私はティア」
ティアはムルトの腕にがっちりと手を回し、抱きついている。
「名前を聞いてるんじゃないんですよ!どうしてそんなにムルト様と親しげなんですか!!」
「私とムルトは助け合った関係。それにこの曲線、ツヤツヤした骨、イイ」
頰をムルトの肩に擦り付けている。
「ムルト様から離れてくださーい!!」
ティアに負けじとハルカもムルトの空いている腕へとしがみつき、頰を擦り付ける。
「何を張り合っているのだ……」
譲り合おうとしない2人にムルトは困りつつ、席を立った。
「とりあえず宿に戻るとするか」
「ムルトの泊まっている宿はどこなのだ?」
「あぁ、ダンと……いや、友の冒険者と同じところなのだが、宿の名は忘れてしまったな」
「ダン?予選で軽く戦ったぞ。なかなか筋の良い男だ」
「そうなのか、宿に酒場もあったはずだ、とりあえず英気を養うとしよう」
「あぁ。そうしよう」
「よし、それではさっそく……ほら、2人とも行くぞ」
「「はい」」
ハルカとティアの2人はムルトが立ち上がっても離れず、歩き出しても腕を離すことはなかった。
「……やれやれ」
★
「ここが俺たちの泊まっている宿だ」
「ほう、なかなか良い場所ではないか」
4人はムルト達の泊まっている宿の前まで来た。ここに来るまでコロシアムで観戦をしていた者たちから声をかけられたり、サインを求められたりして、30分ほどしかかからない道を2時間もかけて歩くはめになった。
時間が経つにつれて徐々にその人だかりは少なくなっていたが、歩き難いことに変わりはない。
「そうだろう?……っと、ワイト」
「ムルト、先ほど言いそびれたが、今はティングという名がある。是非その名で呼んでくれ」
「む?名をいただいたのか、ティング、そうかティングか、良い名だ」
「そうだろう?」
「誰につけてもらったのだ?」
「ははは!話したいのは私も山々だが、まずはゆっくりしようではないか!」
「あ、あぁ、そうだな、すまない」
「大丈夫だ。ゴンを呼んでも?」
「構わないぞ」
「それでは」
ティングは服の裾から小鳥の形をした骨を出し、それを飛ばした。
すぐに屋根より高く飛び、ゴン目指して飛び立っていった。
「ほら2人とも、離れてくれ」
「「嫌です!」」
「むぅ……動き難くて仕方がないのだが……」
「す、すいません!ムルト様!」
ハルカはすぐに離れ、申し訳なさそうな顔をして立っている。ムルトはそれを見て困った顔をしたが、やっと離れてくれたことに感謝する。
「ほら、ティアもだ」
「えへへ、わかった」
ムルトはティアの頭をポンポンと叩きながら言うと、ティアも素直に離れてくれた。
そのまま4人で宿の中に入り、酒場へと向かう。
さっそく席に着き、注文をした。
「それにしてもティング、その仮面はなんだ?」
「あぁ、これか」
ティングはつけている仮面を触りながら嬉しそうに言った。
「中々似合っているだろう?」
「あぁ。白い下地に、それは……太陽か?」
ムルトが見ているのは、ティングの仮面にペイントされているマーク、白い下地に、オレンジ色の太陽が描かれている。
「私を自由にしてくれたのはムルト、お前のおかげだからな」
「俺の、月の反対か?」
「あぁ!その通りだ!」
「はっはっは!中々粋だな!」
「そう言ってもらえると嬉しいな!はっはっは!アイディアはゴンが出したものだがな!」
「ゴンか、強かった。不意打ちをして勝てたようなものだが、根性もあり力も知恵もある」
「私の友人をそう言ってくれるのは嬉しいことだ。はっはっは!っと、噂をすれば」
4人の視線が鋭く一箇所を見つめる。
そこには1人の男、ゴンが立っている。気配を完全に絶っていた。
「ゴン、なぜ気配を消している」
「おぉ。全員気づくとは。いやぁ、すまないな、ついつい試してしまった」
「これでも皆予選を突破している強者だぞ?」
「それもそうだ!お前は俺を負かしているしな!」
ゴンは大笑いをしながらドカりと席に座り、エールを頼んだ。
それからは5人で談笑をする。
ムルトとハルカがどうここまで来たのか、どんなことがあったのか、ティングとゴンも話をする。
「ハンゾウを知っているのか!元気だったか?」
「あぁ。それはそれは元気だ。今はジャックと修行をしているらしい。詳しい場所は知らぬがな」
「そうか、ミナミ達も……そう言えばティアと戦っていたのはサキだったような……」
「そう。とても強かった」
「素手で戦えるとはな」
「びっくり」
話を重ねていると、いつの間にか夜も深まっていた。
「月を、見に行かないか」
ムルトは唐突に、そんな言葉を出してしまった。全くの無意識でそんなことを言う。
「あぁ、いやすまない、最近見ていないな、と」
一同はキョトンとした目でムルトを見ていたが、一様に笑顔で
「もちろん!行きましょう!ムルト様!」
「私はムルトについていく」
「私の友が行きたいと言うのだ。断ることがあるか?」
「もちろん俺もついていくぞ」
「……ふふ、では行こう」
どこからが1番よく見えるかなどは分からなかったが、ムルト達はラビリスの街を行くあてもなく歩きながら、楽しく話をしながら、空を見上げ歩いて行く。
活気のある街の音、どこからか吟遊詩人の歌が聞こえ、今日の喧嘩祭りの盛り上がりもあり、本当に眠らない街となっている。
静かな月はそれを見下ろし、優しく微笑む。
そんな時間を堪能しつつ、宿へと戻る。
ティングとゴンは宿をとっていなかったらしく、丁度ムルト達の泊まっている宿が空いていることもあり、そこになった。
ダンやシシリー、ミナミやサキとの顔合わせは明日にした。
今日の出来事を思い出しながら、ムルトはゆっくりと眠る
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