敗者達

その後、見事予選を突破した面々は別室へと移動し、疲れをとりながら本選の内容などを知らされていた。


開催は2日後、ルールは今回と同じで禁止魔法や武器などはなく、1対1の対決になる。

対戦相手は当日発表。トーナメント形式となる。

そして当日、特設ステージに入場する際、選手紹介を含めたアナウンスを実況がするため、どんな紹介をしてほしいかということを教えてほしいということで紙を渡され、それを当日に回収する。


「以上でとりあえずの説明は終了しますが、何かご質問はありますか?」


ロンドが手を挙げる。


「ロンド様」


「優勝賞品の受け渡しはいつ行われるんだ?」


「優勝は自分だと言わんばかりの堂々としたご質問!さすがは吸血鬼、いや、吸血王子と呼んだほうが」


「そういうのはいらん」


「あ、はぁ、申し訳ありません、実況者としてのノリで……そうですね、優勝賞品の【聖龍の雫】は、優勝者が決まり次第お渡しすることもできますが、閉会式に副賞と合わせてお渡しする予定です」


「わかった」


「ちなみに決勝戦は5日後になります。2日後のトーナメント、翌日の準々決勝、翌日の準決勝、それまた翌日に決勝戦が行われます」


「長いな」


「連戦というのはどうしても疲れが出てしまいますからね。1日だけでも疲れをとっていただいて、ベストな戦いを見せてほしいということです」


「連戦でバテるような者など、予選を通過する資格などないと思うがのぉ」


「がっはっはっは!全くだ!ご老人!良いことを言うな!」


「ほほほ」


ミチタカとブラドは、予選で見せた殺気や凶悪な顔など嘘かのように笑いあっている。


「そう言われましても、やはり運営側にも事情がありまして、申し訳ありません」


「別に良い。賞品は逃げない」


ロンドがそう言うと、皆も納得したように頷く。結局のところ、ここにいる大半は腕試しを目的としてここにいる。

そしてその他は純粋に賞品を狙って来ているのだが、ロンドが頷けば、後の皆も頷くのだ。


「それでは説明は以上になります。宿を無料でご用意できますが、どうなさいますか?」


「おぉ!それでは頼む!昨日ついたが金を持っていなくてな!がっはっはっは!」


「かしこまりました。ブラド様以外の方は大丈夫、ですね。それではブラド様、こちらへお願いします」


「おう!」


ブラドが部屋を出た後、ロンド、ジュウベエ、ミチタカも共に部屋を後にした。

ブラドは途中で違う方へ連れていかれた。


3人はコロシアムの入り組んだ通路を出口へと向かって進んで行く。すると、2つの人影が3人の行く手を阻んだ。


「何か用か?」


ロンドは、まるで尖った刃のような視線をその人影に向ける。人影は一歩前に出て、ロンドとミチタカを見て問いかける。


「手を組んでいたのですか」


「まぁな」


「すまんの」


悪びれる様子もなく、2人は軽く返事をする。


「恥ずかしくはないのですか」


「何がだ」


「卑怯な手を使って勝ったことにです」


ミナミは少し語気を強めロンドに迫る。


「卑怯な手を使ってでも勝つのが戦場だ。俺は……どんな手を尽くしてでも優勝しなければいけないんだ!」


「私だってそうです!ですが卑怯な手を使ってまで」


ロンドは素早く動きミナミの首を掴み、壁へと叩きつけた。


「それでもだ!俺は勝たなければ、聖龍の雫を手に入れ、持ち帰らなければいけないんだ!!」


ロンドの目は真っ赤に血走り、口からは鋭利な牙が見えている。


「っ!」


「やめなさい」


「待て」


サキが杖を構え、ジュウベエが大剣に手をかけ、ミチタカはその2人の間に立ち、拳を軽く握った。


「ここで争い、問題を起こせば失格となり、優勝はおろか次の戦いもできなくなる。それに」


ミチタカは濃厚な殺気を放ち、足を肩幅に開いた。


「この狭い通路では、儂が1番強いぞ?」


剣呑な雰囲気が通路内に漂う。冬の冷たい風が通ったかのように、5人は一瞬固まり、ロンドがミナミから手を離す。


「……行こう」


「ふむ」


「それが良い」


ミチタカはニコリと笑い、それに従う。3人はミナミ達を無視し出口へと向かっていった。


「私は納得いってません!」


ロンドはミナミのそんな言葉など聞こえない風なふりをし、そのまま行ってしまった。


「ミナミちゃん……」


「サキ」


「私たちは負けちゃったから何もできないよ……」


「そうだね」


「信じよ?」


「えぇ、そうね。信じましょう。仲間を」


ミナミは首をさすりながら、唯一自分たちの中で予選を突破した仲間を思い浮かべている。


「ティングさんならきっと」


浮かべているのは、骸骨頭の優しい彼だった。




時は遡り、予選のデスマッチが行われている時のこと、予選開始と同時に極大魔法が3つのブロックで発動され、大半の参加者は退場させられた。


退場者が送られてくる部屋は一瞬で満員となり、怪我人なども出てしまったが、そこまで大きな怪我人はいなかった。

退場部屋に送られた者はその時点で喧嘩祭り敗退となり、解散や観戦となる。


時間は進み、Cブロックにてブラドが現れ、ムサシとトウショーがやられた後。


「ふむ……なんと恐ろしい」


「…………」


ムサシとトウショーはブラドの恐るべき強さに手も足も出なかった。そしてその強さは自分たちの遥か高みにあることも理解していた。


「まだまだお互い、剣の腕を磨かなくてはな。それでは……先に失礼しよう」


トウショーはある青年を見て、部屋を後にした。


その青年は自分の剣を抱きかかえるようにし、部屋の隅で丸くなっていた。退場部屋にはムサシと青年、ダイチだけが残っている。

一瞬の静けさが部屋を支配し、ムサシは優しく声を出した。


「……偉そうなことを言って、儂も予選敗退じゃ」


「……爺ちゃんも負けたのか?」


「恐ろしく強い化け物じゃった」


「剣者の爺ちゃんに勝つ相手だなんて、想像できないな」


「上には上がおるものじゃ」


ムサシがそう言うと、青年は口を噤んだ。

そしてすすり泣く声が退場部屋に聞こえる。


「爺ちゃん……俺、強くなりたい」


カタカタと、剣と鞘が当たる音が聞こえる。


「折れては、いないようじゃな」


「折れねぇよ。剣も、心も」


「ならば、強くなれる」


ムサシはダイチの頭を優しく撫で、手を差し伸べる。


「行こう。まずは勉強じゃ」


「あぁ」


こうして剣の師弟、お爺ちゃんと孫は退場部屋を後にした。

さらに剣の腕を磨くために、観客席へと向かう。





「くっそ!頭にきやがる!」


「どうシタ」


「器のあいつだ」


「王の予備カ、そういエバ、人間ノ祭りに言っテ間引キをすると言ってイナカッタか?」


「訳あって戻ってきた。死の軍団を編成してくれ」


「……この前勇者ドモに大半を使った。余りイナイぞ」


「ヒャハハハ!!マサカ人間ゴトキニ負ケタノカ?!」


甲冑の隙間から煙を漏らす男を、鳥の骨の頭をもつ男がバカにした。

甲冑の男は素早く移動しその鳥頭を鷲掴みにすると、全身から黒い煙を溢れさせ、その鳥頭の男を包み込んだ。


「殺スナヨ」


「もう遅い」


甲冑の男が手を離すと、鳥頭の男は力もなく地面に横たわる。全身の骨がバラバラと散らかった。


「お前の力ワ私タチにも効くからナ、そう、死霊術師の反魂術ノヨウニ」


「死霊術師が見つかった。俺はそいつに追い返されたんだ」


「ナント」


その場にいる全員が全身を鳴らしながら驚いた。


「そしてそいつの感じからして美徳のスキルを持っている。その他に器の女と勇者の女、美徳スキル持ちが3人いた」


「ナルホド、スグに手をウタナケレバな」


「つまりそういうことだ。死の軍団を編成、俺たち幹部も出る」


「大きな戦い。なる」


「あぁ。そうなる」


ドクン、大きな脈が聞こえる。その場にいる誰もが息を止め、その脈を打ったと思われるモノを見る。そこには、繭のように重なる骨があった。そしてその骨を掻き分けるように、一本の巨大な手が出てきた。

いくつもの骨を乱雑にくっつけたように見えるそれは、甲冑の男を手招きする。


『ゴーグ、そノ話ワ、本当カ』


ゴーグと呼ばれた甲冑の男はすぐに礼の姿勢をとる。その他の面々も即座にそれに従った。


「はっ!本当でございます。我が王よ」


『そうカ、美徳スキルを持つ者ガ3人に、我が兄弟ガいるノカ』


「はい……ですが、やはり私はあのスケルトンは王の器に相応しくないと思います」


『……それは我ノ目が節穴ダト言っているのか?』


プレッシャーが跳ね上がる。

無いはずの心臓が早く脈打つのがわかった。

それは死の恐怖、生前に持っていたものが、死後の自分たちにその恐怖を思い出させる。


「め、め、滅相もございません!我が王の下したことに間違いなどあるはずもなく!」


『あぁ。そうダロう。ゴーグ、並びに配下各位に命令を下す』


「「「なんなりと」」」


『美徳スキルを持ツ者達を殺シテこい。我が兄弟にワくれぐれモ手を出さヌヨウ』


「はっ」


『我ワまだ動ケヌ、故に指揮はゴーグニ任セル。部隊を編成シ、命令をコナセ』


「はっ!」


『それト』


「はい」


『出陣する幹部ワ5体マデだ』


「かしこまりました」


『よし、ゴーグ、良いものオやろう。近クに来い』


「はい」


ゴーグの頭へ、エルトの手が伸びる。そして、そこから黄色と灰色の魔力がエルトからゴーグへ流れる。


「こ、こレは……」


『うまク使え。それデワ、良い知ラセを待ってイル』


骨で組まれた腕は再び繭へと戻り、その腕の主が再び眠りについたことを教える。


ゴーグは振り返り、この場にいる面々を見渡した。


「王の話は聞いていたな」


カタカタと骨を鳴らすモノ、そして皆は頷く。


「死の軍団の編成をゴード、Sランク100、Aランク1000、Bランク1万だ」


「ゴーグ、Sランクは10体ほどしか仕上がっとらん、それとBランクはこの間在庫が尽きたばかりだ」


「また作ればいいだろう」


「時間がかかる」


「それでもいい。確実に息の根を止めるためだ」


「わかった。Sランクももう少し出せるよう調整しておこう」


「ゴーグ!!美徳を狩ルノワ誰が行くんだヨ?!」


人狼の形をしたゾンビが飛び跳ねながらゴーグに聞く。


「それはこれから考える。まずは幹部を全員集める。この部屋に呼べ」


「何人来ルカなぁ?みんな自由ダカラな〜」


「王の命令だと言えば全員揃うだろう」


「それもそうカ〜んじゃ呼んデクルよ」


不穏な影が再び動き出す。

既に生を手放したはずの彼らは、王のために第2の生を使う。

自分たちを生み出した王のために

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