予選Dブロック1/5

予選Dブロック

嵐のような豪風が吹き荒れ、多数の参加者を吹き飛ばしていき、その数を減らした。


「ぐぅうぅぅぅ」


ムルトは全身に怠惰の魔力を巡らせ、地面に突き刺した半月でその風を耐え凌いでいた。

目の前から他の参加者が吹き飛ばされ激突するも、踏ん張りながらも術者の女性を見ていた。


しばらくして嵐は止み、ムルトは耐えきることに成功する。そしてDブロックを見渡す。

ムルトと術者の女性以外にも数人が残っているようだった。


無数の針でできた球体、表面は他の参加者が突き刺さったのか真っ赤になっている。

その球体が開き、中から初老の男性の顔が見える。


そしてこれまた球体なのだが、それは髑髏の形をしている。大きな頭蓋骨の中には、ハルカと同じか、少し小さい人間が立っていた。

ローブの隙間からは青い髪が見えている。

嵐が止むと少女が出したと思われるその頭蓋骨は、砂のように霧散していく。


(あれは登録会場にいた)


全身を甲冑に包み、隙間から黒い煙が出ている。その男は腕を組んでいるだけで微動だにしなかったらしい。地面に穴が空いていることから、何らかの魔法か何かを使ったのだろうが、ムルトにそれはわからない。


そしてもう1人、金髪の髪に純白の鎧と金色の前垂れをしている。聖騎士のような男。

ムルトのように剣を刺し、甲冑の男のように仁王立ちをしている。


(Dブロックはこれで全員か)


術者の女性、球体の男、頭蓋骨の少女、甲冑の男、聖騎士の男、そしてムルト

Dブロックはこの6人で戦うことになった。





(さて、この中で弱そウなのは……)


甲冑の男は腕を組みながらDブロックに残った者達を見る。その中で目に止まったのは、先ほど頭蓋骨を召喚していた少女。

甲冑の男はガシャガシャと音を立てながら少女へ向かって歩き出し、手を伸ばす。


「待て!」


甲冑の男を止めたのは、ムルトだった。


「ん?あぁ、ムルト、残ったかそうでなくちゃな」


「登録会場にいた奴だな?なぜ俺の名を知っている?」


「それここで言ウことか?とりあえずこいつを片付けてからっ。っと」


ムルトは甲冑の男に向かって走り出し、半月を振りかぶる。甲冑の男はそれをなんのことなく腕だ受け止めた。


「ライバルが減って万歳じゃないのか?」


「年端もいかない少女を攻撃するのは見てられない」


「は?あっはっハっは!それじゃお前はこの女を守りながら戦うっていうのか?」


「その通りだ」


「お前ハこの女と戦わないと」


「あぁ」


「そしたらどうやってこの予選を勝ち抜くんだよ!他の奴らもこの女を狙うぜ?もしかしたらあんたも負けチまうんだ!それでもいいってのか?」


「それでもだ」


甲冑の男は笑うのをやめ、頭を抱えながらよろよろと下がった。


「甘い、甘すぎル。王の器としてそりゃダメだ」


「何?」


「俺はお前をここで潰させてもらうぜ?」


甲冑の男が全身から黒い煙を溢れさせる。ムルトはそれを警戒しながら少女を背にし構えるが、少女が一歩前に出てくる。


「勝手に話、進めないで」


「下がっていろ」


ムルトは尚も少女の前に出るが、少女が杖を前に出し行く手を阻んだ。少女の持つ杖の先端には髑髏がついていた。


「とても感情豊か。術者はすごい」


「何を言ってんダ?」


少女は甲冑の男に向け杖をかざす。


「あなたの主人は、とても腕のいい、死霊術師ネクロマンサー。自我を持たせるなんて、いい人。だけど、私の方が上」


少女はさらに一歩前へ出る。甲冑の男はそれに合わせて一歩後ずさる。


「お、お前まさか……」


「そう、あなたの主人と同じ死霊術師。でも、反魂術・・・を使えるのは私くらい」


少女は甲冑の男の鎧に杖の先端を当てながら言った。


「歩いてステージの外に出て、じゃないと反魂術で元の骸に戻す」


「……」


「目を通して見てる……?あなたの大切な人形を、無為にされたくなかったら、引いて」


甲冑の男は、体を震わせながら不意に後ろを向き、ステージの外に向かって歩き出した。

ムルトと少女はそれを見ていた。


「ちっ、ムルト、お前は王に相応しくない。必ず潰す」


甲冑の男が後ろを向いたままそう言い捨てる。


「ま、待て!お前は何者だ!王とはなんのことだ!」


甲冑の男は何も答えずステージの外へ出ていき、そのまま裏へと引っ込んでしまった。

Dブロックは、未だに誰も戦闘を行なっていなかった。だが静かに、最悪を免れていた。


少女は甲冑の男を見送った後、ムルトへ向き直り、先ほどと同じようにムルトに杖の先端を押しつける。


「あなたも。退場して」


「……それはできない。君とは戦わないが、予選を突破するのはつもりはあるからだ」


「……反魂術は怖くない?」


「それが何かはわからないな」


「死霊術師なのに知らない?反魂術っていうのは、魂を剥がす魔法」


「話が見えないな」


「きっとこれもあなたの大事な人形だけど、見た方が早い」


少女の杖から魔力を感じる。髑髏の飾りの目が光り、ムルトの体を包み込んだ。


(ぬぅ!体を何かが……通り過ぎ……た?)


「……」


「……一体何が起きたのだ」


「えっ」


「む?」


少女はあり得ないというような顔を浮かべムルトを見つめる。


「な、なんで」


「な、何がだ」


「魂が抜けてない」


「む?」


「あなたから生者の魂を感じない、なのに生きてる。どういうこと?」


「わからないな」


そして、Bブロックから大きな音がする。ムルトは不意にそちらを見てしまう。

巨大な上半身の骨格のみの骸骨が現れていた。


「なっ」


そちらに目を奪われていると、少女がムルトの仮面へ手をかけ、ムルトの仮面を剥がした。


「……」


ハルカと共に買い物をし、カツラをしていたムルトだったが、仮面の下は何もいじっていない。白い骸骨を見られてしまった。


ムルトは思わず顔を隠し、少女の手から仮面を乱暴に奪いとる。少女は驚きで固まっているのか、声も発さず微動だにしない。


「な、何をするのだ!」


ムルトは少しカッとし、語気を荒げる。少女はそんなことお構い無しに、どことなく愛らしく、儚げに言葉を漏らす。


「綺麗……」


「は?」


荒々しく始まったDブロックに、温かな風が吹く

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