予選Cブロック2/2

ムサシとトウショーが熾烈な戦いをしている中、ハルカはそれを見ていることしかできなかった。


横から攻撃をしようと魔力を練ろうとすれば、2人からの斬撃が飛んでくるのだ。


Cブロックに残っているのはハルカと、今目の前で戦っているムサシとトウショーの3人。2人のどちらかが負ければハルカは予選突破ができる。とりあえずは2人の戦いを静観しつつ、警戒を怠らないようにしている。


Cブロックにいるのは3人。

そう、ハルカ、ムサシ、トウショー3人の誰もがそう思っていた。


そして、4人目の男が動き出す。


「っ!」


「む?」


「……」


氷が砕ける音がした。

音だけならば誰も驚きはしないのだが、3人が3人、反応してしまう。

その理由は、溢れ出すプレッシャーの波を感じたからだ。


ハルカは音のした方向を注視する。

ムサシとトウショーは尚も剣を交えながら神経を研ぎ澄ませる。


「むっはっはっはー!!いやぁ何という魔法だ!昔女房に凍らされた時のことを思い出したわい!」


氷は砕け、結晶が舞い、その声を出した人物を隠していた。そしてすぐにその結晶が晴れる。だが、そこにいるはずの人物はそこにはいなかった。


「えっ?」


『ご主人!後ろ!』


ユキに言われ武器を構えながらハルカは振り返る。そこにはハルカよりも大きい男が立っていた。3m近いその大男は、上半身が裸。両手両足と首に、銀色に輝く枷を嵌めている。

乱暴に生えた髪は腰にまで届いている。その形は、まるでドラゴンの背中のようだった。


「この魔法を使ったのはお前かぁ……中々腕が立つようだ」


(い、いつの間に?!)


ハルカは内心焦っていた。背後をとられたこともそうだが、一体それがいつ・・だったのか。声のしたあの結晶が舞っている場所からハルカの背後にまで来たということなのだが、移動する時は必ず空気が動くはずだ。

あの場所の空中を舞っている結晶も共に動くはずなのだが、それがなかった。


「その精霊?も召喚しているのか、すごいなぁ……是非手合わせ願いたいが……女には手をあげない主義でな……」


その大男は腕を組み、首を捻りながら何かを考えているようだった。


(この人は一体……)


その大男は魔力を放出しているわけでも、殺気を漂わせているわけでもない。

ただそこにいる。

ただそれだけでハルカは恐怖を抱かされている。


(殺らないと殺られるっ!)


恐怖を抱くハルカだったが、ムルトのため、そして自分のために踏ん張った。


「ユキ!」


『えぇ!』


2人は同時に魔力を練り上げる。極大魔法を目の前の大男に放つため。だが


「まぁ、待て」


『「っ!」』


目の前に迫る巨大な手が、待ったをかける。

大男が、ハルカとユキに手のひらを向け、待つように言ったのだ。

それだけで2人は魔力を練ることをやめてしまった。やめさせられてしまったのだ。


先ほどのように魔力も殺気も感じない手であるが、それは絶対的な力を持っていた。


「予選を通過できるのは2人なのだろう?ならばあそこの2人をなんとかすればいいだけの話ではないか?あの2人は我がなんとかしよう。君はここで待っていてくれ」


「……」


「なんだ、嫌か?」


心底困ったような顔をした大男、ハルカとユキは一歩も動けなかったが、やっとの思いで口から言葉を絞り出した。


「か、構いませんが、1つ教えていただいても?」


「む?なんだ?出来るだけ答えてやろう」


「あ、あなたは一体……」


「我の正体か?うーむ。それは言えないが、娘からこの大会に出るにあたってもらった名はあるぞ……確か我の……ブラック……ドラ……おぉ!思い出した!ブラド!ブラドがこの大会での我の名だ」


マイペースを貫くブラド。

ブラドはそれだけ答えるとトウショーとムサシに眼差しを向ける。


「さっさと済ませるか」


「さ、さっさと?って、あれ?」


目の前にいたはずのブラドが消えている。


『……あそこよ』


ユキが指をさしたのはトウショーとムサシがいる場所だ。そしてそこにはブラドの姿もあった。




「真剣勝負中すまないな」


トウショーとムサシの間に割ってはいるブラド。2人は刀を構えたままブラドを見据えている。


「さっそくで悪いのだが、2人には退場してもらうことなった。理由としては……そうだな、我が女性とは戦えないから、と正直に言っておこう」


ーーガキィィィィン


「むっはっはっは!!元気がいい!!そして良い太刀筋!我でなければ三枚におろされておるわ!!」


耳をつんざくほどの金属音、トウショーは上段から、ムサシは下段から2ブラドへと切りかかっていた。

ブラドはそれを仰け反るでも避けるでもなく、両手の枷で2人の刃を受け止めていた。


「むっはっはっは!!……それでは2人には退場願おう」


ーードゴッ


短い打撃音。そして数度聞こえる衝突音で、何が起きたかを教えてくれる。

ブラドの放った裏拳が2人を場外まで吹き飛ばしたのだ。


トウショーとムサシの2人は防御することも避けることもできず、その裏拳をまともに受けてしまった。


何本もの氷の柱をへし折りながらCブロック外まで飛ばされてしまったのだ。


そして、Cブロックの予選突破者が決まる。

嵐のように現れたその大男が一瞬にして幕を下ろさせた。


「むっはっはっは!!我が強すぎたな!」


Cブロック予選突破者は、ハルカとブラドに決まった。

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