予選Cブロック1/2
時を同じくして予選Cブロック
「はぁ、はぁ……ふぅ」
『ご主人、初めてにしてはいい威力よ』
「ふふ、ありがと」
Cブロックには、幻想的な光景が広がっていた。ハルカの放った極大氷雪魔法
森のように広がるそれはほんの一部分であり、目の前の光景は森ではなく枝葉の部分なのだ。
『でもちらほらと残ってしまってるわね』
「そうね、ユキちゃん、力を貸して」
『ねぇ、本当に私の名前ユキで決まりなの?』
「嫌?」
『ご主人がそう決めるなら、別に私は構わないけど』
「じゃあやっぱりユキちゃんで!」
『はいはい。行くわよ』
ユキと呼ばれる女性、これはハルカのスキル氷獄の姫が顕現しているものだ。
ユキが両手を開き、大気に散らばっている水を、氷から溢れている冷気を集める。
「満分咲き!ー冷姫の吐息ー」
ハルカが蓮華を横に振ると、ユキが集めた冷気が放出される。
吐息と言うよりかは暴風のほうが似合っているのだが、それが残った数人の参加者達を包み込み、皮膚からじわじわと凍らせていく。
『あと少しね』
「はい。各個撃破でいきましょう」
『わかったわ。あっちの方は……少しずつやれてるわね』
ユキが見たのは頭上にある氷の柱。
その中には何百人も参加者がいる。1番最初に放った
「凍死って意識残ってるんですかね……」
『一瞬で氷漬けにされたんだし、残ってるかもね』
「それはそれで申し訳ないですね」
『敵なんだからそんなこと考えないの。ほら行くわよ』
「はいー
ハルカは身体強化を施し、宙を舞う
「なっ!空を飛んでる!」
『正確には違うけどね』
ハルカは蓮華の頭の部分に魔力付与をし、それを棍棒のように振り回す。
大気にある水滴を凍らせ足場にし、それを蹴りながら移動する。参加者の後ろに回り込み、足をかけて転ばせ、そこへ蓮華を使ってトドメを刺す。
これを何人も続けていき、参加者を減らしていく。
『後は氷の中にいる奴らと……あの2人ね』
「さっきから一歩も動いてませんね」
2人が見つめる先には、2人の男がいた。
着流しを着て髪を後ろで結い、刀を腰にぶら下げた男。
その男の隣には、男の半分の背丈しかない老人が体をプルプルと震わせながら杖をついている。
2人に共通している部分としては、2人の周りには雪も氷もないのだ。
Cブロックはハルカの魔法により氷の森となっている。地面も氷が張っているはずなのだが、2人の周りにはそれがない。
『下手に近づかないほうがいいわね』
「これでキメます!満分咲き!ー氷槍葬棺ー」
2人の男の周りの大気が凍り、鋭利な槍のようになる。それは四方八方無数に生み出され、2人を中心に集束された。
『……まだね』
「手強いようですね」
剣山のようなものが出来上がったいたが、2人は無傷。先ほどのように2人の周りに氷はおろか、氷槍すらもない。
そして2人はしばらくすると唐突に戦いを始めたのであった。
★
ハルカが2人へ氷槍葬棺を放つ。
無数の氷槍が2人を串刺しにするかと思われたが、2人の周りがキラリと銀色に光る。
目にも留まらぬ速さで繰り出されるそれは、無数の氷槍を斬り落とし、刻み、かき氷のように細かく切り裂いていく。
これは、ハルカが
氷槍葬棺をいとも容易く攻略した2人は、改めて互いの力量を定め合っていた。
「あの娘、中々手強そうだ」
着流しの男が世間話でも始めるかのように喋り始めた。
「……」
「ご老人もそう思わぬか?」
「……」
着流しの男が老人にそう尋ねるも、老人は体を小刻みに揺らしているだけで言葉を発することはない。
「それにしても、仕込み杖とは、中々粋なものを使っておりますな」
男は顎をさすりながら老人にそう言った。
「同じ剣士として、一戦交えてみたいものだっ」
ーートン
着流しの男は自分の刀に手をかけ、それを抜こうとしていた。が、いつの間にか近くにいた老人が杖の先端でその手を押さえつけている。
「名を、名乗るのが礼儀じゃ」
「初めて喋ったな。いいだろう。我が名はトウショー。霧雨のトウショーで通っている」
「ムサシじゃ。
ムサシはトウショーのすぐ目の前に飛んでいた。体を丸め、仕込み杖から刃を少し出し、トウショーの喉を斬り落とそうとしていた。
「いきなりやれるほど、我は弱くないぞ」
トウショーはそれを自分の刀で受け止め、思い切り押し出した。
「ご老人。いや、ムサシとやら。相当剣を極めているな」
押し出された衝撃でくるくると回り、綺麗に地面に着地するムサシ。トウショーの問いが聞こえているのかわからないほど歳をくっているように見える。依然として体はプルプルと震えている。
「見た目に反して殺気と隙のない立ち姿、恐ろしい」
トウショーはムサシの強さを身に染みて感じている。自分が放とうとした最初の一撃を止められ、ギリギリ目で追えるほどのスピードで首を狙ってきた。
トウショーは油断もせずムサシに相対し剣を構える。
2人の激しい剣戟が始まる。見ていたハルカが目で追えないほどそれは激しく、舞う氷の結晶がその戦いを美しくしていた。
技と技が、力と力がぶつかり合うそれは、まさに達人同士の戦いだった。ハルカが入り込む隙などはなかった。
その激しい戦いはCブロック全体を揺らすほどの勢い。氷の柱はその余波で砕けたり切り裂かれたりしている。
そんな戦いの余波が届かない場所に、氷漬けにされた男が1人。
腕を組み、満面の笑みを浮かべ、氷の結晶の中でそれを見守っている。意識はないはずだ。だが、その存在感は見る者を振るい上がらせる。
トウショー、ムサシ、ハルカは、その脅威的な男にまだ気がついてない。
Cブロックが揺れているのは達人2人の戦いだけが理由ではないのだ。
その男が今、意識を取り戻す。
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