予選Bブロック5/5
ジュウベエは次々と参加者達を屠っていき、前に進んでいく。自分が飛び込んでいった側の参加者は誰1人残っていなかった。
少し腕の立つ戦士もいたはずなのだが、ジュウベエに歯が立つものはいなかった。
そしてジュウベエはコルキンが飛び込んでいった側へと向かっているのだが、少し前まで聞こえていた戦闘の音はとうに消えており、コルキンが立てていたはずの拳が何かを砕く音も聞こえなくなっていた。
(コルキンを負かすほどの強者があちら側にはいたということか)
コルキンは、先ほどまで自分が相手をしていた青年を思いだす。
(まだまだ青いが、あいつは化けるだろうな)
大剣を肩に担ぎながら歩く姿は、まさに鬼のよう。ジュウベエは他の参加者を蹴散らしながら進んでいく。
しばらくすると、剣戟の音がする。
「ふむ」
目の前には骨の山、ジュウベエの足元にも転がっているようだった。
剣戟の音を立てているのは目の前の参加者達だ。
骨の山を守るように丸くなりながら数人が戦っている。
「はははっ、骸の王と、その従者ってところか?」
ジュウベエは思わず笑ってしまった。
骨の山の上には、紫のローブを着た下半身のないワイトが座っており、周りの参加者はそれを襲おうとする者と、それを守ろうとする者がいるようだ。
散乱する骨や、地面に残る戦闘の痕跡、そしてコルキンの姿がどこにもないことから、ここでコルキンが敗退したということをジュウベエは知った。
「よぉ!俺も混ぜろよ!」
大剣を勢いよく振りかざしながらそう言い放つ。その言葉に気を取られる数人の参加者、その一瞬の隙をついて、骸の王の従者とも呼べる者達は襲ってくる者達を何人か倒した。
「はっはっは、邪魔して悪いな、それで……コルキンを倒したのはどいつだ?」
互いが互いに隙を作ることなく、話を聞いている。誰も言葉を発さず、目の前の相手のみを見ている。
「無視をしないでくれ。ここにいる奴らがBブロックでの生き残りだ。俺は強いやつとやりたい。それ以外のやつの邪魔はしない」
「俺だ」
声を出したのは、ダンだ。
「お前が?得物は……棍棒、じゃねぇな。なんだそれは」
「骨だ」
「ほね?!」
ジュウベエは頭を抑えながら大笑いをする。その姿はどこにでもいる気のいいおじさんのような姿だった。笑い疲れたのか笑い声が小さくなり、下を向く、頭から手を離し真っ直ぐにダンへと目を向ける。
「冗談言っちゃいけねぇ。あいつがそんな武器とも言えねぇもんでやられるようなタマじゃねぇってことは俺が1番よくわかる」
剣呑な雰囲気を醸し出すその目は、まさしく狩る者の目だった。
「正確には俺たちで、だ。紅鬼ジュウベエ、あなたのことはよく知っている。S2ランクの冒険者だ」
「知ってくれてるのか、ありがたい。だが、俺はお前を知らねぇ。そんな棒切れ使ってる冒険者なんざ早死にした幽霊か、Gランクの初心者ぐらいのもんだ」
「棒切れかどうかは戦ってから決めるんだな!」
ダンは走り出し、ジュウベエへと飛び込んでいく。ムルトの骨を振り回すが、ジュウベエはそれを易々と避けていく。
「はっはっは、Gランクは言い過ぎたな、Fランク冒険者ってところか?」
ダンはその言葉にカッとなってしまう。
大振りの攻撃が増えてしまった。
「かはっ」
ダンの腹へジュウベエの拳がめり込んでいる。ダンは吹き飛ばされることなく、その場に倒れ込んでしまう。
その攻撃は手加減されてのものだったのだ。
「冗談だよ。悪くない動きだが、冷静さを欠いちゃいけねぇ。さてと、有力なのはそこのモンスターか」
ジュウベエが見据える先には力なく首を垂れている骸骨だった。
「人間も亜人も参加できるんだから、モンスターがいてもおかしくはないわな」
「ま、待て」
ティングへ向け歩き出そうとするジュウベエの足を、ダンが掴んだ。
「あがぁっ!」
ジュウベエはそれに見向きもせず、足蹴にする。少し力の入った蹴りにダンは耐えることができず、数m飛ばされてしまう。
「1人だ!や、やっちまえ!!」
ティングを襲っていた参加者達がジュウベエに向け刃を向けた。
「邪魔だ」
ジュウベエはそれらを大剣の一振りで片付けてしまった。
(既に強者も残っていない。さっさと終わらせるとするか……)
期待をしていた青年は脆く、互角に戦えると思っていたコルキンは既にいない。これ以上長引かせるつもりはなかった。
「ほう?」
改めて骨の山へ向かうと、ティングを守るため戦っていた参加者達がじりじりと寄ってくる。
「はははっ従者か……そのモンスターにそこまでする義理がお前らにあるのか?」
「俺たちはあんたに敵うわけがない。だけどな、俺たちはこいつに勇気をもらった。到底敵うはずのなかったあの選手に勝てたのはこいつの、こいつら・のおかげだ。そんな恩人のために俺たちは戦いたい」
「そうだ!」
「死んでも退かねぇ!」
口々にそう言う参加者達は改めて武器を構える。
「みんな!行くぞ!歯ぁ食いしばれ!」
「「「うおおぉぉ!!」」」
叫びをあげながらジュウベエへと突っ込んで行く。
「口だけは達者だな」
一振りで人が弾け飛ぶ。それを抜けジュウベエの鎧へ剣を突き立てる者もいたが、ジュウベエの拳がその者を押し潰す。
「あぁぁぁあああぁぁ!!!」
「遅すぎる」
足を上げ、身体強化、鎧への魔力付与、強烈なかかと落としがその者へと襲い掛かり、原型を崩す。
ジュウベエはそれから1分もかからぬうちに残りの参加者達も屠っていく。
「ふむ」
Bブロック予選通過者が発表されないことから、未だ2人になってないことがわかる。そして骸の王が座る骨の山に、もう1人の男がいた。
「死んではいないか」
「はぁ、はぁ、はぁ」
赤く光る骨を持つダンが、ティングとジュウベエの間に立っていた。息は荒々しく、立っているのがやっととも言えるほどだ。
「うおおぉぉぉぉ!!」
雄叫びを上げながらジュウベエへと向かうが、力の入っていないその攻撃はジュウベエの鎧すら傷つけることはできない。
「……折れない心は褒めてやろう」
ジュウベエは大剣を持ち上げ振り下ろす。
ダンは骨を両手で持ちそれを受けようとする。
「があぁぁあらあぁぁ!!」
踏ん張ることのできない足では、耐えられるはずがなかった。
だが、踏ん張りのきかなかった足のおかげか、ダンの体勢は崩れ、骨が傾く。ジュウベエの大剣は傾いた骨に沿って滑るように振り落とされる。そしてムルトの骨は限界の迎えたようで途中で折れてしまう。勢いよく振り落とされたジュウベエの剣は、ムルトの骨とダンの左肩を巻き込み、切り落とした。
左腕を失ってしまったが、ダンは一命は取り留める。
「運がいいやつだ」
「ふぅ、ふぅ、ふぅ」
武器を失い、腕を失っても、友のために強者へ挑むその姿は勇敢だった。
「お前に敬意を評し、Bブロック予選突破者は俺とそのモンスターにしてやろう」
「ふぅ、ふぅ、あ、あり、が」
ジュウベエが大剣を両手で持ち上げる。
ダンはジュウベエの言葉に感謝し安心をしていたが、決して倒れることはなかった。
立ったまま自分の最後を受け入れようとした。
「お前
ジュウベエが大剣を振り下ろす。
ダンはそれを受け入れる。
(ティング、予選突破おめでとう)
ダンは、心の中で新たな友の健闘を讃えた。
そしてジュウベエとダンしかいないはずの骨山が微かに音を立て、動き出す。
「なにっ」
「っ!」
ガラガラと音を立てながら骨が形を作っていく。巨大な丸太のように合わさったそれは意思を持っているかのように動き、ダンとジュウベエの間に入り、ジュウベエの剣からダンを守った。
「すまない友よ。少し眠っていた」
その声はダンの後ろから聞こえていた。
先ほどまで一緒に戦っていた骸の王ティングが目を覚まし、腕を動かしていたのだ。
「後は任せてくれ」
ダンはその声を聞き、安心し気を失い倒れる。
「なっ」
「私たちの勝ちだ。ー骨壷ー」
ティングは両手を合わした。
ジュウベエほどの者であればこの程度の技簡単に避けられるはずだった。だが、場所が悪かった。
ジュウベエのいる場所は骨の山の頂上。
足元の骨の山、あたりに散らばっている骨がカタカタと揺れ、一ヶ所に集まっていく。
無数の骨はジュウベエを包み込み、閉じ込め、小さく圧縮されていく。
魔力が残り少ないためか、圧縮されるスピードは遅かったが、何層もある骨の壁を崩すほどの時間と攻撃を繰り出す隙間などない。
「ダン、私たちの勝ちだ」
ティングは骨壷を作りながらも、繊細に気をつけながら移動させた友がいる場所を見る。
そこには多量の血が残っているだけで、ダンの姿はなかった。
Bブロック予選の終了の合図が聞こえる。
予選通過者は、今まさにジュウベエを閉じ込めているティング。
そして、そのティングの魔法によって骨の塊の中にいるジュウベエだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます