予選Aブロック2/2

ミチタカがグリゴラと戦いを始めた時、こちらもまた、始まっていた。


「行くぞ!ミナミ!」


「はいっ!」


ロンドは両手を開きながらミナミへと向かって行く。その動きを予測しながらミナミは刀を下段から上段へ切り上げた。


「シャドウソード」


その動きに合わせるようにロンドは自分の影から影でできた剣を取り出し、弾いた。


「影魔法っ」


「正解だ。シャドウクロー!」


ロンドはミナミへと迫りながら両手の爪から黒い爪を伸ばし、抱きつくように腕を交差させる。丁度ミナミの胸から上を切り裂ける位置だった。


ミナミはそれを上体を逸らしながら避ける。

その勢いを殺さぬまま、刀を持っていない手を地面につき、バク転をする。


「ごっぁ」


その足でロンドの顎を蹴り抜いた。


「ふっ、やはりやるな」


「ロンドの方こそ、昼だというのに中々やりますね」


「吸血鬼は日中活動できないってのは大きな間違いだ」


ミナミは踏み込み、ロンドへと距離を詰め、剣を交える。


「でも、夜の方が強いのでしょうっ?」


「その通りだっ!影犬!」


ロンドの影から真っ黒な犬が大量に出てくる。


「犬というより狼だ」


ミナミはロンドの剣を押し返し、刀を地面に刺した。


「ー豪猿ー」


刀から豪炎が吹き出し、それが形を成して行く。ミナミよりも大きな猿を形作ると、その炎が命を持ったかのように動き始める。


「ヒヒ、お願い!」


「ウッキー!!」


体を自由に操り、予測もつかない動きをしながらロンドの周りに、ミナミに襲いかかろうとしていた犬たちを焼いていく。


「私もいますよ!」


犬たちが焼かれていく様を見ていたロンドに、ミナミが飛びかかる。

2人の剣と刀が交じり、火花が散る。


「影糸」


ロンドの影から無数の糸が、2人を包み込むように溢れ出した。ミナミは何かを感じ取り、後ろに飛んで大きく距離をとった。


「変換。針!」


その瞬間、糸に見えたそれか、鋭利な針として2人を包んでいた空間を串刺しにした。

ミナミはそれを間一髪で抜け出している。


「そこだ」


ミナミが生み出した炎の猿に影犬が群がっており、猿をすっぽりと覆い、地面に吸い込まれるように、ロンドの影へと戻る。そこに猿の姿はなかった。


「酸素をなくせば炎も燃え続けることはない」


ロンドは、チラリとグリゴラとミチタカの戦いを見た。ちょうどミチタカがグリゴラを倒そうとしているようだ。

ミチタカはロンドの視線に気づき、目線を返すが、すぐにグリゴラへと戻す。


「戦いの最中によそ見なんて、余裕ね」


「余裕……か、そうだな、余裕かもしれない」


「私も舐められたものね」


「舐めてはいない、さっ!」


ロンドは手に持っていた剣をミナミへと投げるが、それはミナミを避けながら後ろに飛んでいく。


「何のつもり?」


「勝つつもりに決まっているだろう。影縫」


ロンドの投げた影剣はミナミの後ろ、丁度ミナミの影のある場所へと刺さる。


「勝つつもり?これでっえっ?」


ミナミは自分の体を自由に動かすことが出来なかった。


「影縫。相手の影を縛り、相手の動きをも縛る魔法だ」


「ぐっ、こんなもの……っ!」


「な!」


ミナミは体を無理やり動かし、微かにだが、徐々に刀を持つ腕を持ち上げる。本来、影縫をされた者は動くことができないはずだった。だがミナミはロンドの前で確かに腕に力を入れ、無理やりに動いている。ロンドは焦り、影剣を生み出し、ミナミへと襲いかかる。


(何かされる前にっ!)


ロンドがミナミへと肉薄した時、ミナミもまた、準備を整えていた。


「灯れー火花ー」


ミナミの頭上で、刀が炎を纏い、眩く輝いた。その光のせいで、ミナミの影は消えてしまい、影縫の効力は消えてしまった。


「太刀合いー花火ー」


上段で構えた刀をそのまま振り下ろす。ロンドはそれを避けきることができない。影剣で受け止めようとしたが、それも無駄だったようだ。


「ぐぁっ!!」


ロンドは右腕を切り落とされてしまう。コロシアムから出れば腕は再生するが、痛みは感じる。ロンドは自分の右腕を握りながら、またチラリとグリゴラとミチタカの戦いを見る。丁度終わったところのようだ。


「またよそ見!随分と余裕があるようね!!」


ミナミは間髪を入れずにロンドへと斬りかかる。ロンドはそれを後ろへ飛びながら、残った片腕で耐える。


ロンドがミチタカを見ると、ミチタカもまたロンドを見ていた。


「居合の型ー静形一閃……」


「くっ!影縫!」


ロンドはまた剣を投げる。ミナミはそれを見てスキルの発動をやめ、また頭上へと刀を上げる。


「その技はもう通じないわ!」


「いや、その隙だけで十分だ」


「え」


ミナミの動きが一瞬止まる。ミナミの刀へと炎が灯り、動けるようになる前に、その老人はミナミの背後に立っていた。


「……すまない」


トン、と優しくミナミの首へと手刀を叩き込む。ミナミは糸の切られた人形のようにその場へ倒れ動かなくなる。


「……すまない。ミナミ」


ロンドはそう言いながらミナミの首元へと影剣を差し込み、首を絶つ


「ご老人をすまないな。約束を犯させてしまって」


「……強い者が減るのは悪いことではない。じゃが、お主がワシに勝てるとも思えんが、よかったのか?」


「負けるわけにはいかないんだ。俺は、俺は母さんのために、勝たなければいけない」


「ワシとの約束は守るんじゃぞ?」


「あぁ。あんたは金が、俺はあの霊薬が欲しい。利害は一致している」


「ふむ。よろしく頼むよ」


ロンドとミチタカ不敵に笑いながら、それでいて心のどこかに闇を抱きながら手を取り合った。




吸血鬼ロンド、流水拳ミチタカ

両名は喧嘩祭りの予選、Aブロックを突破した。

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