予選Aブロック1/2

『あぁぁぁっとぉぉぉぉ!!試合開始のゴングと共に、極大魔法が3つも放たれたぁぁぁ!!Aブロックでは津波のように打ち付ける炎が!!Cブロックでは森のように広がる一本の氷樹が!!Dブロックではそのまま嵐が吹き荒れる!!そしてそれぞれの魔法が収まる頃には……!!な、な、な、なんと!!立っている選手が何人もいます!うおぉぉぉ!!波乱の幕開け!!今年の喧嘩祭りには極大魔法を放てる魔法使いが何人もいるのか!!これは!盛り上がってまいりましたよ!!!』


割れるばかりの歓声をさらに盛り上がらせ、会場の熱気はさらに上がる。





チン、と少女が刀を収める音が聞こえる。

全身を赤い武具でまとめている少女が、先ほどの魔法を放ったのだと、Aブロックに残っているもの達は思っていた。


「案外、残っているわね」


Aブロックに残っているのは5名、今の極大魔法を使った狐のお面をした少女、水魔法を使いバリアを張った男、無傷で立つ老人、巨大な筋肉を待つ男、そして最後の1人は、何もない空間に蝙蝠が集まり、人の姿を作った。


「ロンド……」


「そういうお前は、ミナミか」


蝙蝠が集まり、頭、体、手足と形作り、1人の人型になる。その正体は吸血鬼ロンド、そして先ほどの魔法を放ったのは勇者、ミナミだということがわかる。


「恐ろしい魔法だったが……さらに恐ろしいのは、その魔法を掻い潜って残ったこの5人だな」


「あなたも生き残っているじゃない」


「まぁな」


ロンドとミナミは殺気を隠すことなく放ち合う。ピリピリとしたAブロックに、飄々としたしわがれた声がかかる


「あぁ〜お2人さんがやりあうのであれば、ワシは手を出さぬが、どうする?」


「多対一で戦うのは私も避けたいところです」


ミナミが老人にそう言い、構えを解く。

ロンドは老人をチラリと見て頷く。


「そうかそうか、それでは。ワシはさっきからワシに向けてのみ殺気を放っているあやつを相手するとするかの」


1人仁王立ちをし、沈黙を貫いている大男、ミナミに話しかけた老人は、その大男へと近づいていく。


「お主はなぜワシにそこまで殺気を放っておるんじゃ?」


大男は目を開き、老人を見て、静かに口を開いた。


「お前は覚えておらんかもしれんが、俺はお前が喧嘩祭りで準優勝したときの優勝者だ」


「ほほぉ。お主はワシよりも強いのか、それでは、お手柔らかに頼む」


老人は腰をおりその大男へと礼をした。それを見た大男は老人めがけ山のような拳を振り下ろした。

フィールドの地面が割れ、老人はその下敷きになったように見えた


「突然殴ってくるとは恐ろしいのぉ」


「お前は俺よりも強い。そして俺よりも強いお前は2位の賞品を目当てに喧嘩祭りに参加し、俺に適当に負けた」


いつのまにか大男の肩に乗っている老人、そんなことはわかっていたかのように喋る大男。そこへ水の魔法使いの声がかかる。


「お、おい!俺は蚊帳の外かよ!くっそ!」


ミナミとロンド、老人と大男に無視され続けた男は、その4人を巻き込むように強大な魔力を練り始める。


「そういえば奇数だったの……」


老人は突如大男の肩から消える。行き先は、魔法使いのところだ。

突然目の前に現れた老人に魔法使いは驚いたが、それでも冷静に水の魔法でバリアを作る。


「遅いのぉ」


風を切る音が聞こえる。老人が正拳突きをしたようだ。

魔法使いの前に展開された水のバリアはそれだけで吹き飛ばされる。


「け、拳圧っ?!」


魔法使いは無防備になり、老人は素早い動きで魔法使いの手足を弾き、体の正中線をさらけ出させる。そこへ手のひらを打ち込む。


パンッと、渇いた音が聞こえた。

魔法使いは目を見開き、膝をつき、口から血を流しその場に倒れ、消えた。死ぬほどの、致命傷になるほどの攻撃を受けたということだ。


「掌底ー心臓破りー」


手をパンパンと打ち、土を落とすかのような仕草をする。


「ワシらとお嬢さんらの方で、勝った1人が予選を突破するということでよいな?」


「はい。それで構いません」


「俺もそれで構わない」


「構わん」


「よし、それでは、Aブロックの決勝みたいなものじゃのぉ。ほっほっほ。お主、名はなんという?」


「グリゴラだ。お前の名は知っている。ミチタカ、お前を完膚なきまでに叩き潰す」


「ほっほっほ。よろしく頼むよ」


Aブロックでは、ロンドVSミナミ、グリゴラVSミチタカの対戦表が組まれたようだ。


(あの立ち姿……藤山家の……お嬢さんかのぉ?そしてあの吸血鬼の男……)


老人、ミチタカはすでにグリゴラなど眼中にはなかった。生前競い合っていた流派と同じ構えをする女性に興味は移っている。


「それでは、転がしてやるとするか」


ミチタカは手を後ろで組み、大男を見上げた。


(勝てれば良いか……ワシも、楽はしたいからのぉ……恨むなよ)


最初に仕掛けたのはグリゴラ、山のような巨体から、風のように駆ける姿は、まさしく動く要塞、身体強化以外にも自身の力を底上げする魔法を使っているのだろう。

圧倒的な暴力として、ミチタカへと襲いかかる。


「前に戦ったことがあるのならば、ワシの戦い方は知っているじゃろ?」


大岩としか形容のできない拳をミチタカは左手で受け止め、後ろに引くことで力を逃がそうとする。


「あぁ。知っているさ」


グリゴラは勢いを殺さぬまま、左足でミチタカの体を狙う。足の甲がミチタカの上半身ほどの大きさをしているのだ。これが当たってしまえば、どんな生物でも怪我では済まされない。


「力と速さ、それらを兼ね揃え、さらに攻撃にまで転じている。足し算ではなく掛け算、いい線はいっとるのぉ」


ミチタカはそう言いながら右腕を使い、グリゴラの左足を受け止める。グリゴラの拳を左手で、グリゴラの蹴りを右腕で、両手が塞がっているミチタカに対し、グリゴラは残していた左の拳を握りしめた。


「それも囮だ!老木め!俺の勝ちだ!」


勝ちを確信したグリゴラ、だが、ミチタカの方が数段にも上なのだ。


「そうじゃな。相手がワシでなければ・・・・、な」


グリゴラの拳は確かにミチタカの顔面に炸裂している。ただそこにあるだけのクルミが、大砲で打ち出された大岩に砕かれる様を観客は見るはずだった。


「ワシが使っている技は流水拳、相手の力を水のように受け流し、滝のように打ち付ける」


「な、に?」


「お主の右手左足の攻撃はワシが受け流し、ワシの中で何倍にも膨らませてもらっておったのじゃよ」


そこまで聞き、グリゴラは直感する。


(やばい)


強者として、同じ武術を使う者として、それを感じる。自分がすでに避けられない攻撃をしてしまっていること。


グリゴラの拳には力が、速さが、すでに乗ってしまっていた。止めることのできない爆弾が、ミチタカの顔に迫る。


「そこはもう、決壊寸前じゃよ」


グリゴラの拳がミチタカの顔を確かに捉える。だが、吹き飛ばされたのはグリゴラだった。グリゴラの腕だった。


「ぐぅぅぅ!!」


グリゴラは悲痛に顔を歪め、体勢を崩してしまった。今は戦いの最中、一瞬の動揺が命取りになる。


「一点集束……」


ミチタカはその隙を見逃すことなく、目にも留まらぬ速さでグリゴラの手に、足に、顔に、腹に、肩に、無数の箇所を人差し指で突いていく。


そして最後に、グリゴラの体の丁度真ん中、鳩尾を人差し指で刺した。


グリゴラの体に亀裂が走り、紙が破けるように、綿が裂けるように、その体が散り散りになる。


「ー芯像破りー」


Aブロック、予選突破1人目は、ミチタカその人だった。

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