骸骨と喧嘩祭り

次の日、朝起きてから鍛錬をし、武器や装備の確認をする。


「俺たちはいい魔道具が市場に出ていないか見てくるぜ、喧嘩祭りではライバル同士だぞっムルト!」


「ははは、覚悟しておくよ」


ダンとシシリーとは別れて行動することになった。

俺たちは特にすることもないと思ったのだが、ハルカが服を買おうと言い出したのだ。


「今持っているものじゃ足りなくなったか?」


「いえ、私の服ではなく、ムルト様の服です」


「俺の服?」


「はい!変装用みたいなものです!」


自信満々でそう言い放ったハルカの言葉を要約するとこうだ。

ルール無用の喧嘩祭り、登録会場では俺以外に仮面をしている者は多かった。というのも、喧嘩祭りは人種が様々なのだ。人間族、獣人族、魔人やエルフ、俺のようなモンスターだって混じっているかもしれない。

そして人族至上主義のように、人族以外のものを嫌っている人間も少なくなく、嫌がらせを受けるなどがあるらしい。そういったものを受けないよう、仮面などの着用は許可されている。


「俺は仮面もローブもしている。何か足りないか?」


「仮面をしている人は、それを狙われるらしいんです。すると、顔を隠すために両手が塞がってしまいますよね?なので、変装ですっ!」


「俺はあまり気にしないんだがな……そうなってしまえば空を飛んで逃げてしまえばいい。そのための偽名さ」


「コロシアムの天井は閉じてるんですよっ?」


「あ、あぁ。そうだったか?」


「はい!ということで!お買い物ですっ!」


ハルカはそう言いながら、俺の手を掴み服屋を目指し引っ張っていく。

俺はハルカのされるがままに後をついていくのだが……


「……ハルカ、気持ちは嬉しいが、店の場所は知っているのか?」


「あ」


ハルカは元気に動かしていた足を止めた。





「はぁ、はぁ、やっとつきましたね」


「あ、あぁ」


その後、街の中を駆け巡り、人に聞いて回ったのだが、ハルカが向かっていたところは服屋がある場所とは正反対だったようで、引き返し、さらに服屋を探すことになり、時間がかかってしまった。


「も、申し訳ありませんムルト様ぁ」


「気にするな、さぁ入ろう」


気を取り直し、ハルカと共に店内へと入る。

この服屋には作った服の他に、少々値段は張るが、ダンジョン内で見つかった魔法などが付与された服などもあるようだ。


「ムルト様、これ、洗濯しても清潔を保ったままの服ですって」


「ははは、生活魔法で似たようなものがあるから使いはしないな」


「えへへ、そうですね」


ハルカと楽しみながら店内を見て回るが、俺は変装というものがよくわかっていない。


「ところで、変装とはどういったことをするのだ?」


「そうですねぇ。ムルト様は服は動きにくいから嫌なんですよね?」


「あぁ。ヒラヒラしていて骨に引っかかる。それに、服や下手な鎧よりも骨の方が頑丈だしな」


「はい。ですので、これです!!」


「こ、れ?」


俺は頭にハテナを浮かべた。ハルカが手に持っているのは、髪の毛だ。


「はい!カツラですっ!これを被れば、ムルト様の仮面が外れてもなんとかなるのではないでしょうか?!」


「い、いやどうだろうな」


「とりあえずかぶってみましょう!」


されるがままに試着室に入り、カツラを被せられる。髪の毛の隙間から頭蓋骨が見えても違和感がないように髪の色は白だ。


「ど、どうだ?」


「はい!似合いますよ!これならきっとバレません!」


「あ、あぁ」


(まぁ、仮面を取られないのが1番の解決策なのだが……)


せっかくハルカがここまでしてくれているのだから俺は全てを受け入れた。カツラと共に服をいくつか買い、服屋での買い物を終わらせる。

他にも市場を回り、面白いものがないかを探していると、あっという間に夜が来た。

宿に戻り、ダン達と食事をし、明日に備えて早く寝るということになった。





「すごい、人ですね」


「あぁ。逸れてしまいそうだ」


そして翌日、喧嘩祭り本番だ。

コロシアムに行くと、そこには溢れるほどの人、人、人。俺というモンスターなども混じっているが、とてつもない数だ。


「ハルカ、逸れるなよ」


「はいっ」


そう言いながらハルカは俺の腕へと腕を絡め、体を寄せ付けてくる。


「よし行こう」


「はい……」


なぜか元気をなくしてしまったようだが、よくわからない。もしかしたらこの人の多さに萎縮してしまっているのかもしれない。

だが俺にはわかる。ハルカはこの場にいるほとんどの人間よりも強いのだ。共に予選を突破できることを信じている。


「こちらにて受付していまーす!」


喧嘩祭りに参加する者は受付にて選手名を言うと、それぞれのブロックに割り当てられ、控え室へと通される。


「俺はDブロックらしい。ハルカは?」


「私はCですね。恐らくパーティを組んでいる人は別々にされているのではないでしょうか?」


「手を組まれると辛いからな。ハルカ1人でも大丈夫だろう。健闘を祈る」


「ムルト様も頑張ってください!」


そして俺はハルカとは分かれ、【Dブロック選手控え室】という部屋に入る。部屋の中には、すでに何百、何千という選手がいるようだ。何より驚いたのはこんなに広い部屋だが……


空いてる席を探して座り、静かに待っていると、部屋に巨大な投影魔法が浮かび上がった。


『この度は、喧嘩祭りにご参加してくださいました皆様!ま・こ・と・に!!ありがとうございます!!選手の皆様は控え室だとは思いますが、開会式をさせていただきます!!』


「「「うおおぉぉおぉぉぉお!!!!」」」


怒号に聞こえるそれは、控え室の選手の歓声、そしてモニターから聞こえる歓声だ。モニターには人が観客席を埋め尽くしている映像が流れている。


そこからはルール説明、紹介、スポンサーがどうたら言っていたが、あまり興味はなかった。


『さて!それではこの喧嘩祭りの優勝賞品の発表を致します!!な、な、な、なんと!!今年の喧嘩祭りの優勝賞品は、【聖龍の雫】!!聞くより見ろ!ということで、少々スプラッタではありますが、その効力をお見せ致します!』


そう言った実況の隣には、大きな斧を持った大男が立っており、実況は自分の肘のあたりに腕が紫になるほど縄を結んだ。


そして手を差し出し、斧が振り落とされた。


控え室がどよめき、モニターからは悲鳴も聞こえる。実況の手が手首から切り落とされたのだ。あらかじめ止血をしていたおかげか、血はあまり出ていない。


『分かってはいても怖いですね!ですが、見ていただきたいのはこれからなのです!優勝賞品の【聖龍の雫】を少しお借りして、この手にふりかけると……』


小瓶から水滴が手首の断面へと落とされる。

すると、手首から新しい手が再生したのだ。地面には先ほど切り落とされた手、実況はその手と新しく生えた自らの手を映す。


『わかりましたか?これがこの雫の効力です!神薬でしか直すことのできないものだと言われていた部位欠損をも再生できるのです!その他にも目に入れれば視力が回復し、飲んでしまえば無病息災!なんともありがたい品物なんでしょう!そして副賞は……』


(聖龍の雫……確かあれと似たようなものを……)


俺は、ハルカのアイテムボックスに入れておいたはずの小瓶を思い出す。


そして実況の話を聞き流していると、やっと喧嘩祭りの予選が始まる。


(どこまでいけるか……腕試しだ)





『さぁ!続々とコロシアムに入場してくるのは、今から殺し合いをする猛者達だー!!

なんと今年の喧嘩祭りの参加人数は10265人!!観客の皆々様もご覧いただきありがとうこざいます!それでは、喧嘩祭り予選、ルール説明をさせていただきます。まず、選手の皆様、受付をした際渡された腕輪をしてください。その腕輪をしていれば、死ぬことはありません。なぜかというと、このコロシアム内でその腕輪をしていただきますと、致命傷の一撃、または死を免れない攻撃を受けると、自動的に敗者部屋へと飛ばされるようになっているからです!そして予選は全4ブロック、A.B.C.Dブロックに分かれて行います!コロシアム内に設営された4つのフィールド、敗者部屋に飛ばされるか、場外に出てしまえば失格となります。

各ブロック残り2名になったところで、予選通過となります。予選の説明は以上です!

ゴングが鳴ったら・・・・、攻撃を始めて・・・くださいね!』


ルール説明が終わり、さっそく予選が始まろうとする。実況のルール説明に何かおかしな点を感じたが、なんだったのだろうか?


『それでは!皆様ご一緒に!喧嘩祭り開始まで!じゅうー!きゅうー!』


実況がカウントダウンを始めると、観客も一斉に声を合わせ始める。どうやら選手達も何人か口を揃えている。


『ごー!よーん!さーん!』


俺は半月を抜き、精神を研ぎ澄ませる。


『にー!いーち!』


「ココッコ、カッカ」


小気味のいい音が聞こえた。俺はどこかでこれを聞いたことがある。


(確かこの音は……エルフの)


ジルが魔法を使うときに、杖で地面を叩いていた気がする。そして俺は気づく


(やばいっ!)


俺は半月を地面に突き刺し、全身を怠惰の魔力で覆った。


『ぜろ!!!ゴーング!!』

『ッカーン!!』


「ー大嵐テンペストー」


「ー火桜満海ひざくらまんかいー」


「ー氷獄の神樹ニヴル・ユグドラー」


あるブロックでは炎の海が、またあるブロックでは氷の森が、そして目の前からは、叩きつけるような暴風が。


今年の喧嘩祭りは、波乱の幕開けとなった。

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