骸骨の初めての友
「次は誰だ」
少々語気を強めてしまう。振り返ると、男と女がいた。男は真剣な表情で俺に食ってかかった。
「あんたが腰にさしてるその剣、誰から奪った」
俺はその男と女をまじまじと見た。
「これはムルト様がずっと愛用しているものです。奪っただなんて人聞きの悪いこと言わないでください」
ハルカが男と女に怒るようにそう言うと、その男は怒りを露わにして言った。
「それは青いスケルトンから奪ったものなんじゃねぇのか?!どこで手に入れたか言え!」
俺はこの2人に見覚えがあったのだ。
初めて会話をした人間、未熟な冒険者だった2人、俺を逃してくれた男の名は……
「ダン?……シシリーも」
「あん?なんであんたが俺の名……その声はまさか、あの時の?」
俺は思わず2人に抱きついてしまう。
「2人とも久しぶりだ。そうとも、俺はあの時の」
ダンは口元に人差し指を持ってきて、静かにするようジェスチャーをした。
「誰が聞いてるかわからない。とりあえず、俺たちの宿に移動しよう。そういえば、宿は取ったか?」
「あぁ、そうだな。まだとっていないが」
「なら俺たちのところが空いてるかもしれない。案内する」
「あぁ。感謝する」
ダンとシシリーは俺たちを宿へと案内してくれた。
★
「いやぁ!久しぶりだな!スケルトン!」
「あぁ!久しいな!ダン!そしてシシリー!」
俺は仮面を外し、その頭蓋骨を晒す。
ハルカがびっくりしていたが、そんなことお構いなしに俺はダンに抱擁を求め、ダンはそれに応えてくれた。
「なぁに?そんなに盛り上がって、モンスターのくせに寂しかったの?」
「ふふふ、久しぶりに会えたのだ。喜びたくもなるさ」
俺たちは今、ダンとシシリーが宿としてとった部屋へと来ている。丁度部屋も空いており、俺たちも喧嘩祭りの間、同じ階の隣の部屋をとれた。
「あの、ムルト様、こちらの方々は?」
「あぁハルカ、この人たちは、俺が初めて会話をした人間たちだ」
「なんか紹介が雑な気がするが……初めまして、俺はダン、こっちはシシリー。2人で冒険者をやってる。お嬢ちゃんの名前は?」
「丁寧にありがとうございます。ハルカと言います。ムルト様と旅をさせていただいています」
「ムルト?」
ダンは疑問符を頭に浮かべ、首を捻り俺を見る
「ふふふ、俺の名だ。ムルト、月の女神に名付けてもらったのだ」
「はっ?月の女神?教会でつけてもらったってことか?」
「あぁ。良い名だろう?」
「まぁ、そうだな。ムルト、ムルトか。うん、改めてよろしくな!ムルト」
「あぁ!こちらこそ!よろしく頼む!ダン!シシリー!」
俺はダンとシシリーと握手を交わす。
シシリーはそんな俺を見て、不思議そうに言った
「なんかあんた……表情豊かに……そんなテンションだったっけ?」
「しばらく会ってないのだ。そういうこともあるさ。まぁ、感情は豊かになった方だと思うがな」
俺は笑い、ダンも笑う。
「っと、ムルトがここにいるってことは、喧嘩祭りに出るのか?」
「あぁ。ダンとシシリーも?」
「そうだぜ?いやぁ、でも本当に懐かしいな。これ覚えてるか?」
ダンはそう言って、懐から1本の骨を取り出す。その骨は真っ白ではなく、少しクリーム色、そして所々色の違う骨だった。そしてその色は俺と似ている。俺はその骨がなんなのかわかっている。
「俺が渡した骨か」
「あぁ」
「換金しろと渡したもののはずだが?」
「あぁ、一時は換金しようとも思ったんだがな、お前を逃したあの日、急いで買い戻したんだ。俺とお前の繋がりだろ?またどこかで会えると思ってな」
「ふふふ、なんだかむず痒い」
「皮膚もねぇのにか?!あっはっは!!……いやぁ、びっくりしたぜ、剣よりも堅くて、度々色が変わるんだ。色が変わるごとにお前は元気でやってんのかなってよ」
「おかげさまで、この通りだ」
「あぁ。本当によかった。あの時ダン達と出会わなければ、今の俺はいないだろう」
ダンはあの時のことを思い出しているのだろう。窓の外を見ている。少ししてからダンは俺に向き直り、笑顔で言う。
「ムルトの旅の話教えてくれよ!あのあとどんな冒険があったんだ?」
「あぁ。そうだな、まずはエルフの話から……」
俺はダンとシシリーと別れた後の出来事を話した。
ダンは、笑ったり泣いたり怒ったりと、話の内容でコロコロと表情が変わるのが面白かった。シシリーも俺が人間を少しだけ怖く、嫌いそうになってしまった時の話をすると、悲しみや怒りを感じていたようだ。
本当に、俺の初めて喋った人間がこの2人でよかったと、心から、本当に、本当にそう思う。
★
「そして天魔族に鍛えられ、やっとラビリスに着いたのだ」
「うおおぉぉぉお!!ムルトぉぉぉぉお!!!お前はなんて!なんて旅をしてきたんだ!辛かっただろうな!!」
「辛いこともたくさんあったさ、だがみんなが俺を支えてくれた。それはダンやシシリーも同じだ。2人のおかげで今の俺がいると言っても過言ではない」
「そこまで言ってくれるなんて嬉しいぜ……っと、もうこんな時間か」
窓の外を見ると、陽が完全に沈み、真っ暗になっていた。俺は月のことも完全に忘れ、話すことに夢中になっていたようだ。
「下に降りて飯にしよう。今日は俺が2人に奢ろう。好きに飲み食いしてくれ」
「ムルト、そんなこと言うとこのバカ本当に遠慮なく食べるわよ」
シシリーがダンをつつきながらそう言う
「いいさ!俺が奢りたいのだ。シシリーも好きなだけ食べてくれ!」
「それは嬉しいけど……わかったわ。ありがとう」
俺とハルカは仮面を被り、4人で酒場になっている宿の1階へ行く。
適当なテーブルに座り、適当に注文をした。
「ところで、ダンとシシリーは武器を持っていないようだが?」
「ん?おあぁ。最近奪われちまってな」
「奪われた?」
「あぁ。ムルト達は、傲慢の厄災って知ってるか?」
「……いや、初めて聞いたぞ」
傲慢という言葉には覚えがある。最近見たばかりの白い羽が頭をよぎった。
「そういうキメラがいるんだけどよ。最初の一撃は自由に入れさせてくれるんだが、その攻撃で奴を倒しきれなければ終わりだ」
「終わり?死ぬのか?」
そんなことを考えたが、ダンが奪われたのは命ではなく武器、ダンは目の前にいるし、死ぬということではないのだろうか
「冒険者としては死んだかもな〜。はっはっは。これが、選ばされるんだ。命を奪われるか、武器を奪われるか」
「武器を渡せば命は助かるということか?」
「そういうこと、俺たちは一撃で奴を倒すことができず、俺の愛剣と、シシリーの短刀をとられちまったってわけさ」
ダンは笑いながらそう話す。
丁度山のような料理が運ばれ、ジョッキは酒が注がれる。
「命があるだけ感謝ってもんだ!カンパーイ!」
ジョッキを掲げ、皆でそれを打ち鳴らす。小気味の良い音が響き、それを皆で飲む。ダンは今注がれた酒を一気飲みし、勢いよくテーブルへと叩きつけた。
「こうしてお前らとも会えた!俺はそれだけで幸せだー!!」
ダンは顔を真っ赤にしている。一杯で酔っ払ってしまったようだ。
「弱いのに無茶して……」
シシリーが冷ややかな目でダンを見つめる。
「ダンとシシリーは喧嘩祭りに出るのではないのか?まさか素手で戦うのか?」
俺は素直な疑問を抱き質問した。
「喧嘩祭りに出るのは」
「喧嘩祭りに出るのは俺だけだ!」
大きな骨つき肉を頬張りながらダンは力強くそう言い、懐から俺の骨を取り出した。
「俺にはこいつがある!ムルト!世話になるぜ!」
骨がカラカラと鳴る。
「大丈夫なのか?」
正直言って俺の骨が堅いといっても、砕けないわけではない。もしも砕けてしまえば武器はなくなってしまうし、リーチも短い。
俺はそう考え、あるものを思い出した。
「ダン、お前がよければ、これを使ってはくれないか?」
「お?ムルト、手品が出来るのか?」
ダンは、俺の手元に現れた黒い鞘に入った剣を見る。俺はハルカのアイテムボックスから、使っていない剣、月光剣の代わりに作ってもらった剣を取り出していた。宵闇だ。
「これは、俺の友が作り、ハルカが銘をつけた。もらってやってくれ」
「ムルトにも友達が出来たのか、いいことだ……だが」
顔を真っ赤にしフラフラになっていたはずのダンが、力強い眼差しを俺に向け、しっかりと言った。
「それはお前の友がお前のために作り、お前のためにハルカが銘をつけたものだ。俺がもらうわけにはいかない」
「……」
「お前には既にその剣があるから、この剣を俺に渡しても良いと思ったのだろうが、それは全くの見当違いだ」
そしてダンは続ける
「俺にはすでにこれがあるしな、行けるところまで頑張るよ。ま、ありがとな」
「あぁ。突然すまなかった」
「いや、大丈夫だ」
ダンは宵闇を俺には押し付け返し、ジョッキに酒を注いだ。
「さぁ!パーっと楽しもうぜ!!出会いに!友情に!優しさに感謝だー!!」
ダンは元気にジョッキを振り上げ、それを一気に飲み干した。
そしてダンはジョッキを持った腕で、俺の腕と組み
「さぁ兄弟!飲もうぜ!」
優しさ溢れるその顔を見ながら、俺も酒を飲み干した。
その日飲んだ酒は、少し苦かったが、優しい味がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます