骸骨はラビリスへ


「ムルト様!見えてきましたよ!」


「おぉ。大きいな……」


ハルカが楽しそうに駆けていた。

目の前には、ドーム状の大きな建物の屋根が見える。

実は少し前から天辺の辺りは見えていたのだが、近づけば近づくほど、それは大きくなる。

恐らくあれがコロシアムという場所だろう。あれが街の中心部にあるということを考えると……


「ムルト様!門です!」


街への入り口が近いということだ。


「あぁハルカ。ではさっそく行こう。迷宮都市、ラビリスへ!」





「入市税は、大人が銀貨2枚、子供が銀貨1枚だ」


「これで頼む」


「おうよ。それと顔……はいいか、入っていいぞ」


俺は門を警備していた兵に入市税を払い、ハルカとともにラビリスの中へと入ろうとすると、先ほどの兵が俺たちに伝える。


「それと、喧嘩祭りに参加するのであれば、入ってすぐを右に曲がって、道なりに進めば選手登録の手続きをしている場所にいける。見物客なら入って真っ直ぐ進めば宿街があるからそこで宿をとるといい」


恐らく何人にも同じことを聞かれているのだろう。早口でそう言ってくれた。


「どっちにしろ、楽しんでくれ、それじゃあな」


「あぁ。感謝する」


親切な若者に礼を言い、街の中へと入る。




「へいらっしゃーい!!ラビリス名物、リザードマンの串焼きだぜー!」


「スライムの果実酒よ!祭りのお供にどうかしら?」


「昔の勇者様が作ったと言われているふわっふわ、あまっあまの綿飴だ!!そぉら、出来上がったぜ」


騒音のように聞こえるそれは、街の人々の嬉々とした声だった。

街が賑わい、皆笑顔だ。


「おっ!新しく来た人かい?喧嘩祭りの参加表明は明日までだ。急いだほうがいいぜ?」


「そうなのか?ならば定員に達する前に急がなければな」


「お?喧嘩祭りは初めてかい?喧嘩祭りに定員なんてねぇ。1回戦は……っと、初めてでこんなかと伝えるのも野暮だ。楽しみにしてな」


「ふむ。ならば楽しみにしておこう。情報感謝する。して、その串焼きはいくらだ?」


「おぉ!買ってくれんのかい?嬉しいねぇ!オークのケバブ、1つ銀貨1枚だ!」


「2ついただこう」


「へい!毎度ー!!」


代金を払い、ケバブというものを受けとる。

オークから削ぎ落とした細かい肉と、青々とした野菜、そして少し辛めの甘いソースがたっぷりとかけられている。

仮面をずらし、齧り付く。


「んん、これは美味い」


「美味しいですねムルト様!」


「そう言ってもらえると嬉しいぜ!あんちゃん、喧嘩祭りに出るっていうが、腕には覚えがあんのか?」


「あぁ、多少はな」


「そうか!あんたはいい奴そうだし、これから一緒にラビリスを盛り上げてくれんだ!これはサービスしておくよ」


小さな木の器に、山のようにオークの削ぎ落としが盛られ、フォークが2本添えられている。


「あぁ、ありがたい。感謝する」


「いいってことよ!頑張れよ!」


「あぁ。それでは、また」


親切な男に礼を言い、選手登録が行われているという場所に向かう。しばらく進むと、長蛇の列ができている巨大なテントがあった。


「何か持ってますね。あれは……」


列の最後尾で待っている強面の男が、看板を持っている。


「一般参加列、最後尾?」


「きっと喧嘩祭りですよね。並びましょう!」


その列へと加わり、ハルカが男から看板を手渡され、持った。その後から来た人間にさらに手渡し、さらに待つ。2人でオークのケバブを頬張りながら談笑し、大きなテントの中へと入っていく。


そこには、何百人という者がおり、受付をしている者たちも10や20では足りないほどいる。


「こちら整理券です。そちらの方はお連れ様ですか?」


入って少し進んだところで女性に札を渡された。札には6325番と書かれている。


「あぁ。俺の連れだ」


「はい。でしたらその番号でご案内致しますので、お連れ様とご一緒にどうぞ」


女性のスタッフはそう言い、次の人へと札を配り回っていた。

テントの中では、拡声魔法を使い色々な番号を呼び、受付の横に備えられている機械のようなものに番号が出ている。


「こうやってアナウンスしてるんですね」


興味深そうにハルカがテント内を、受付を見ている。少し待っていると、すぐに俺たちの番号が呼ばれた。


「いらっしゃいませ。それでは整理券の方は回収させていただきます。はい。喧嘩祭りは初めてですか?」


「あぁ」


「はい。それではこちらの用紙に記入をお願いします」


手渡された用紙には、名前記入欄、年齢、死んでも文句は言わない、八百長などの不正はしないなどのことが書かれている。


「あ、名前記入欄は偽名やリングネームのようなものでも構いません」


「リングネームとはなんだ?」


「そうですね。例えば、私の名前がミミだとして、コロシアムの中で私の名前が呼ばれる時はココって呼ばれたりします。予選を勝ち上がらなければ呼ばれることはないと思いますが」


「なるほど……それでは」


俺は『メルト』ハルカは『ハルナ』と改名し、参戦することとなった。

その他の記入欄を埋め、それを渡す。


「はい。それでは登録は完了です。喧嘩祭りは2日後なので、それまでお待ちください。出口はあちらになります」


深く礼をし、俺たちもそれに応え、テントを後にしようした。


「なぁ、そこのあんた」


聞き覚えのない声が聞こえ、俺は肩を掴まれて振り返る。


「何か用……か?」


振り返ると、そこには全身を甲冑に身を包んだ男がいる。顔は見えず、怪しく光る赤い瞳が微かに見える。

甲冑の隙間からは煙のような黒いモヤが溢れ出しているようだ。


「あんたに聞きたいことがあるんだが」


見るからに怪しい男にそう言われ、俺は体を強張らせる。


「あんた……宿の場所を知らないか?」


「何?」


「いやぁ、さっきここに来たばかりなんだけどよ、宿の場所がわからなくてなぁ〜」


「そんなこと俺に聞かなくてもいいだろう」


「そんなこと言わないでくれよ〜ほら、女の子と一緒にいるからさ、絡みやすいなって思ってよ」


「……生憎俺もよくわからなくてな、俺が入って来た門から真っ直ぐ進めばいいとは言っていたが」


「あぁ〜そうなのか、わかった。それじゃ他のやつにも聞いてみることにするわ」


「あぁ。そうしてくれ、力になれずすまない」


「いや!俺こそいきなりごめんな!そんじゃ!ムルト!喧嘩祭りでな!」


全身を甲冑に包んだ男はそう言って行ってしまった。


「ムルト様、何か怒っていますか?」


「む?いや、そんなことはないと思うが……」


「いや、なぜだろう。彼と話していたら、イライラしたというのだろうか……よくわからない」


「ムルト様らしくありませんね」


「そう、だな」


「とりあえず、私たちも宿を探しましょうか」


「あぁ。そうしよう」


そうして改めて出口へ向かって歩き始めた時


「おい、あんた」


また肩を掴まれた。

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