骸骨と最強の種族
「ムルトさん達は風魔法が使えますか?」
族長の元へ出かける準備をし、いざ出発しようとした時、フローラが俺たちに聞いてきた。
「あぁ。そうか、天魔族は飛べるのだから、ハシゴなどを必要としないのか」
「……翼のない者もいたのですが……」
「俺が風魔法を使える。よく飛んで移動もしていたから大丈夫だ。ハルカも俺が連れて行こう」
「は、はい。わかりました」
フローラとラロッソが一瞬暗い顔をしていたが、フローラが呟いた言葉は俺には聞こえなかった。
フローラ、ラロッソ、ミア、そして俺とハルカで最下層に向かって降下する。
「族長様に会うなんて久しぶりー!」
ミアは族長とやらに会うのが楽しみなようで、その嬉しそうな感じは、飛んでいる姿からもわかった
「最下層にはよく出入りするのか?」
「いえ、フローラ様はよく出入りするとは思いますが、私たち下層より上の者は中々会うことができません」
「そうなのか、久しぶり、ということは前に会ったことがあると思ったのだが」
「あぁ、そのことですね。私も会ったことがありますよ」
「そうなのか」
「はい。生後5日目に族長への御目通りとして、訪ねるんですよ。私もミアもルアも族長に会ったことはあります」
「なるほど、顔合わせのようなものか」
「族長様はすごいんだよー!ミアもパパもフローラ様も勝てないほどすごいの!」
「そうなのか」
「うん!翼がいっぱいなの!」
「翼が?」
「うん!」
ミアは笑顔を浮かべながら両手をいっぱいに広げ、どれだけ翼が大きいのかを教えてくれる
「天魔族は産まれながらに翼を授かります。それが1対なのか2対なのか、成長してから生えることもあります」
「なるほど」
「そして翼が多ければ多いほど魔力の扱いに長け、保有量も多い」
「フローラは3対で、ラロッソが1対か……それでも中々に強敵だったがな」
「ははは、多ければもっと強いんですよ……フローラ様の背中と、ミアの背中を見てください」
下を飛ぶフローラの背中を見る。大きく開いた背中は艶やかで、色っぽく見える。
フローラの背中の広背筋から、左右に3枚ずつ翼が生えており、そしてミアの背中を見る。
「ん?」
おかしなことに気づく、フローラは背中の上の方から翼が生えていたが、ミアは背中から翼が生えていなかった。翼が生えているのは、腰だ
「わかりましたか?ちなみに私のも見てください」
「ラロッソも広背筋のあたりから生えているのか」
「はい。腰から翼が生えている天魔族は通常の力などに加え、さらに何かの力を得るんです。50年に1度産まれるかどうか」
「ミアは特別な子供なのか?」
「はい。ムルトさんも体験したと思います。ミアの力は【減退】。魔法などの威力や、魔力の塊などを弱くするんです」
「ほぉ」
「族長様はもっとすごいんだよ!だって!」
「ムルトさん、ハルカさん、つきました」
ミアが興奮しながら話しているのをフローラが遮り、下を指差す。
すると、地面が見えた。茶色いが、白く粉っぽい。本能でわかった。俺の体と同じもの、骨の残骸だ。
「大きな渓谷なので、モンスターが落ちてきたり、私たちが食べたものなどの骨です。最下層では野菜も栽培しているので、良い肥料になるのです。さ、こちらです」
フローラに案内されたのは横穴の洞窟などではなく、大きな天幕のような建物だ。
布のようなもので覆い、中の音や光を遮っているようだ。
「どうぞ」
フローラが天幕を開き、中に入る。
天幕の中は照明器具がつけられており、明るい。どうやらこの天幕は家というわけではなく、こういった時に使う場所なのだとか。謁見の間のようなものだ。
天幕の中にはさらに幕があり、その奥に族長がいるらしい。
「シヴィエード様、中層のラロッソ、ミア、そして件の旅人、ムルトとハルカをお連れいたしました」
片膝をつき頭と翼を下げ、そう伝える。ラロッソとミアも片膝をつき頭と翼を下げていた。俺とハルカもそれを真似る。
「ご苦労だった。下がってよい」
「はっ」
フローラは横へと退き、改めて礼の姿勢をとった。
そして目の前の幕が上がり、シヴィエードと呼ばれた族長が姿を現したようだ。
「面をあげよ」
鈴のような声色だったが、その声からは威厳と気品、そして絶対な力を感じる。
その声に言われるがまま、俺たちは顔を上げた。
思わず息を呑んでしまう。
浅黒い肌、真っ白なワンピース、大きな胸が溢れそうなほどワンピースを押し出し、切れ長な目に長いまつげ、艶々の髪、そして何より、翼の数だ。1.2.3.4.5……全部で10枚。5対の翼を持っている。不思議なのは、上の3枚と下の2枚が離れていること。
(考えられるのは……)
背中、フローラたちのように広背筋のあたりから3対。そして腰、ミアのように腰から2対。合計5対の10枚だ。
そしてその翼の神々しさ、立ち姿から漂う美しさ。
まさしく女神のようだ
「何か聞きたいことでも?」
目を見てそう言われてしまう。俺は慌てて言葉を濁してしまった。
「あ、い、いや、その、大変美しいと思って、な」
「ふはは、中々おもしろい冗談の言える御仁のようだ。さて、それでは早速話を始めようか」
「あ、あぁ」
シヴィエードは玉座のようなものに座り、翼をたたむ。
「まずは謝罪と感謝を。何の話かはわかるな?」
「あぁ。大丈夫だ」
「ならよい。そして滞在の理由だが、聞かせてもらおうか」
「俺たちは旅人、旅の途中にこの渓谷を通ることとなった。そしてその渓谷の景色、絶景を探している。長居はしないつもりだが、滞在を許してほしい」
「ふむ。理由はわかったが、滞在先はどうするのだ?この渓谷に宿屋なぞないが」
そう言うと、ラロッソが静かに手を挙げた
「ラロッソか、発言を許そう」
「ありがとうございます。族長。ムルトさんは只今、私の家にて生活しております。滞在先はムルトさんが良ければそのまま私の家で良いかと」
「ふむ。そなたらがそれで良いのならば何も言わん。だが、食事や狩りなどに支障はないか?」
「はい。私は狩りを続けますし、ムルトさんも手伝うと仰ってくれました」
「そうか、わかった。なら滞在先は大丈夫なようだ」
「はい」
「よし、ならばこの件は片付いた。謝罪と感謝、滞在理由と滞在先、人間……ではないが人間性やどういった性格かも大体聞いた。問題はないだろう」
「そうか、それならばよかった」
「しかし」
シヴィエードは指を立て、話をする
「問題がないのはお前であって、お前の中にあるものが私は心配だ」
「中のもの……こいつか」
俺はローブを脱ぎ、身体の中で怪しく煌めく宝玉を見せた。シヴィエードは苦い顔をしながらそれを見る。
「ムルトとやら、お前の容姿から見てお前がモンスターであること、そして理知的で物事の判断ができるとは理解した。だが、その得体の知れない魔力、コントロールはできているのか?」
「問題ない」
「生まれ持っている魔力の他に、
「ハルカとやらがその魔力と対になるものを持っているのはわかるし、お前が暴走したところで我らが敗北することはありえない……が、無傷なのもありえんだろうな」
鋭い目つきで俺の体を睨みつける。
「当然、私も無傷ではいられないだろう」
「シヴィエード様がっ」
フローラは驚いているようで、つい口を滑らせてしまったようで、すぐに口をつぐんだ。
「それほどまでに危険で強力なもの……それが大罪というスキルだ」
「……暴走することはない……だろう」
「私もそう願っているよ。そうだな、とりあえず」
シヴィエードがそう言うと、いきなり地鳴りのようなものが起こる。
「なんだ?」
「地震……でしょうか」
俺とハルカは顔を見合わせ、そう言った。
ゴゴゴと音を立て、渓谷全体が揺れているようだ。
「まさか敵襲か?」
シヴィエードは巨大な翼で羽ばたき、天幕の外へ出る。俺たちもそのあとに続き、天幕の外へ出る。
上を見上げてみると、皆も混乱しているようで、たくさんの天魔族が横穴から飛び出ている。
そして上からまっすぐ天幕へ向かって飛んでくる天魔族がいる。
フローラのように下層付近に住んでいる者だろう
「敵襲か?」
「わかりません。敵の姿は見えず、皆も何が起きているのかわかっていませんが、自衛の準備はしています」
今もなお地響きは続いているようで、大きな音が渓谷中に響いている。
「この地響きは……まさか……」
シヴィエードは何か心当たりがあるのか、辺りを見渡す。
地響きはゆっくりと消えた
「なんだったのだ?」
「さぁ?私にもわかりません……」
ハルカと話していると、突然強大な力を感じた。体を締め付けられるような、いや、ない心臓を握りつぶされるような感覚。それは俺だけではなく、この場にいる全員。いや、この渓谷にいる者全てが感じとった。
「全員戦闘態勢ー!!」
シヴィエードが咆哮のような声をあげた。
俺も腰の剣に手をかけ、臨戦態勢にうつる。
そして幸か不幸か、その強大な力の持ち主は、俺たちの目の前に現れた。
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