骸骨と霊龍
『んぬぅぅぅ邪悪な力を感じたが……おぉ、天魔族の』
俺たちの目の前に現れたのは、巨大な龍の
体はない。巨大な首のみが宙に浮かんでいた。
「ま、まさか……」
『そのまさかじゃ。お主……その翼の数、魔力の内包量、族長かのぉ?お主、何代目じゃ?』
そう問われ、シヴィエードはハッとした顔をし、膝をおり、翼をたたみ、頭を下げる。
「私の名はシヴィエード。167代目の族長をやっております。その力、お姿、霊龍様とお見受けいたします」
シヴィエードは改まり名乗り、続けた。
「申し訳ありませんが、霊龍様の強大な魔力、地響きから、同胞たちに警戒態勢をとらせてしまいました。撤回命令を出してもよろしいでしょうか?」
『あぁ構わぬ。儂が顔を出すと必ずそうじゃ。用があるのはそこのスケルトンのみよ。他のものは自由にしてもらって構わぬ』
「はい。ありがとうございます。ラロッソ、フローラ、臨戦体勢は解除、最下層、下層の隊長達は今の魔力で何かが近づいてくるかもしれない。上層付近で警戒を」
「かしこまりました」
「わかりました!行ってまいります!……娘はお願いしても?」
「あぁ。私が守ろう」
フローラとラロッソはシヴィエードへ礼をし、空へと飛び上がっていく。
『さて、スケルトンよ』
「……あ、あぁ」
俺は剣をしまい、霊龍と呼ばれる巨大な顔を見上げた。
『質問が多々あるが、自我は持っているな?』
「あぁ」
『そして、大罪のスキルが破滅を呼ぶものだということは知っているか?』
「あぁ」
『そしてお主は7つの内の2つを所持し、残滓のようなものではあるが、さらに2つ持っている』
「なに?」
『気づいておらんのか、お主が持っている2つの大罪の他に、懐の仮面から紫の魔力が、剣に黄の魔力が少しだけ残っている』
仮面と剣。仮面はきっとレヴィアの嫉妬だろう。そして剣は聖国で戦ったあの騎士だろうか。
『お主はすでに4つの魔力を有していると言えるだろう。接触はしているはずじゃ。そして残る大罪は3つ。破滅への道筋がしっかりと出来上がりつつある。そしてそこの娘』
霊龍は大きな目をギョロリと動かし、ハルカを見た。見られたハルカは少しばかり体をビクつかせた。
『魔族のはずなのに美徳スキルを持っている……転生者なのか、召喚されたのかわからないが、その力は大罪を打ち破る唯一の力じゃ。研鑽し強くあれ』
「は、はい」
「と、ところで霊龍……様は突然出てこられたのか?」
俺は意を決して霊龍へ質問を投げかけてみる。別に俺はこの渓谷で大罪のスキルを使ってもいないのに、大罪スキルの説明や、俺の持っている大罪スキルを看破していた。
『大罪スキルを複数所持している者はその身を邪神に奪われる。すでに4つもの罪を背負っているのだ。心配にもなる。じゃが……邪神の気配をあまり感じない』
「俺が邪神に乗っ取られると?」
『いや、それはなさそうじゃ。女神の祝福もある。自我も保ち、大罪もコントロールしてるようじゃ。様子を見に来てよかった』
「そうか……ならばよいのだが」
『そうじゃなぁ。久々に顔を出したのじゃ。お主らに良いものをやろう。瓶など水を入れられるものはあるか?』
俺はハルカのアイテムボックスの中から瓶を取り出す。
『それを儂の目の淵に』
言われるがまま、霊龍に近づき、目の端に瓶を構える。
霊龍が目を瞑ると、一筋の涙が伝っていた。
俺はその涙を瓶が満杯になるまで入れた。
『儂の生前は光龍での。光龍の体液には癒しの力が宿る。そうじゃな、千切れた腕や足にその涙をかけてやるといい。部位欠損などすぐに治してしまう。もしもの時、その娘さんに使ってやりなさい』
「なんと……そんな貴重なものを……感謝する」
『投資じゃよ。さて、儂はまた眠りにつく。激しい戦いがお主らに降りかかるだろうが、必ず振り払える。諦めるな』
「承知した」
『そして天魔族の長よ』
「はっ!」
『お主らは十分頑張っておる。自分たちの力のみで生きるのも結構だが、同じ生物。協力しながら生きていくのも良いと思う』
「……考えておきます」
『それと、その2人には協力してやるように。いつか世界を救うやもしれん。滅ぼすかもしれぬが……』
霊龍はそう言った。最後の方はボソボソ喋っておりよく聞き取れなかったが、俺たちのことは良くみているらしい。
「かしこまりました」
『それでは、な』
霊龍の巨大な頭部は溶けるように宙から消え去り、強大な魔力も消え去った。
「な、なんだったんだ……」
「霊龍様だ。この渓谷の守り神にして、絶対強者。前回現れた時は約500年ほど前だと言われている。何かを授けては、去っていく。自由な方らしい」
「そうなのか……それで、先ほどの話の続きはどうする?」
「あぁ、することは決まっている。滞在は3日間許可しよう。そして霊龍様のお言葉通り、2人には何か送ろう。装備などで何か欲しいものはあるか?」
「あぁそうだな……俺は手袋などがほしいな」
「人間などが売っている市販品などであればあるのだが……天魔族は織物などあまり得意ではなくてな。魔法付与などが……そうだな、ハルカ」
シヴィエードはハルカが腰に下げている杖を見て、それを指差した
「その杖を改造するというのはどうだ?ハルカとやらは魔力の出力などの調整があまり得意ではないとみた。それも少しだけ流れをよくしてやろう」
「本当ですか?!」
「あぁ。私直々に施術を施そう。今夜は空いているか?」
「はい!空いてます!大丈夫ですよね?!ムルト様!」
「あぁ。ハルカの好きにして構わないぞ」
「ありがとうございます!」
「よし決まったな。武器は私が一番信頼する職人に渡しておこう。それでは、今夜ここで待っている。送迎はフローラに任せよう」
「はい!ありがとうございます!」
「ムルトは何かほしいものはないのか?」
「そうだな。他は特にはない。ハルカのために何かをしてくれるのだ。それだけで十分」
「そうか。わかった。それでは、ハルカのことは任せてくれ」
「あぁ。頼んだ」
シヴィエードとの話はまとまった。
ハルカは火魔法を使おうとすると、その二段階上の最上級魔法、火炎魔法になってしまう。そしてそれに伴い多量の魔力を持ってかれてしまう。シヴィエードはそれを少しだけ調整できるようにしてくれるという。
そしてハルカの杖、蓮華にも改良を加えるという。細かくいうと、ハルカが調整に使っていた1分咲きから満分咲き、それをずっと満分咲きの状態し、強力な魔法を扱う時はこれを経由して使えるようにするというものである。
滞在期間は3日、その内で、その全てをしてくれるらしい。
そして俺も、ラロッソやフローラに空き時間で戦いの稽古をつけてもらった。
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