骸骨は亀裂の中から
「さぁ、上がってください。外から来た人には珍しいかもしれませんが、不自由はしないと思います」
ラロッソに連れられ、家へと案内された。
天魔族の住居は、渓谷の中、深い谷の横穴だ。家の中は洞窟のような形をしているが、それは入口の方だけで、生活スペースにら照明器具や、テーブル、カーペットまで広げられている。
「それでは、私は長へと連絡をいれる。正式な許可が出るまで、目立った行動はとらないように」
「あぁ。わかった」
「かしこまりましたフローラ様」
俺とラロッソはそうフローラに答える。
フローラはそのまま下層へと向かっていった。
「長の家は下にあるのか」
「はい。天魔族は階級や強さによって居住できる場所が違います。若く強くはない者たちから、上層、中層、下層、最下層に居を構えることができます。私は中層ですね」
「ラロッソはそれなりに強いのだな。あの魔法の威力はなかなかのものだった」
「それをムルトさんは防ぎましたが……ささっ、どうぞ中へ」
ラロッソに勧められるがまま、中に入ると、女性の天魔族が食事の準備をして待っていた
「あら、あなた。この人達は?」
「ああ!紹介するよ。こちらはムルトさんとハルカさん。ミアを人攫いから助けてくれたんだ」
「まぁ!それはそれは、なんとお礼を言えば……でも、人間?を連れて来てよかったの?」
「そのことについてはフローラ様が族長に連絡しに行ってるよ。少なくとも今日明日では追い出されないだろう」
「そう……娘がお世話になりました。ゆっくりしていってくださいね。ほらミア、シャワーを浴びてきて」
「はーい!」
ミアは元気に返事をし、奥へと消えていく。
「ムルトさん、紹介が遅れました。妻のルアです」
「あぁ。よろしく頼むよ」
「はい。よろしくお願いします。食事の支度をするけど、先にお風呂入る?」
「そうしていただこう。知らない家の風呂に入っても、使い勝手がわからないでしょうから、一緒に入りましょうか。ハルカさんはミアと一緒に入っていただけますか?使い方はミアが知っているので」
「はい。わかりました。それでは、お先にいただきますね」
俺たちに一礼をし、ルアに案内してもらっていた。リビングのような場所に残ったのは俺とラロッソのみ
「えぇ……と、恩人であり無礼を働いてしまったムルトさんにこんなことを聞くのもなんなのですが……」
「む?なんだ?」
「その……ムルトさんは人間ではありませんよね?ハルカさんも角はないのに魔族のようですし」
ラロッソはそう俺に言った。
(気づいていたのか)
いつからか、というのはわからないが、そう言えばルアも俺を人間と言った時、少し疑問に思っていたようだ。
「それと、ムルトさんが身につけている阻害魔法の付与されたローブですが、我々天魔族には無意味だと思います」
「なにっ」
ラロッソ曰く、天魔族は強さも知恵も全ての種族の中で群を抜いて優秀らしい。魔法耐性などもあり、何より魔力が莫大で、魔力を使うものなどであれば作成も解体も得意なのだという。
「一目見れば相手の力量、どんな種族か、そんなものもわかってしまいます。ムルトさんは人間でもなければ魔族や龍人族でもない。どちらかというと、モンスター……ですか?」
ここまで見破られてしまっては、隠している意味もない。特に敵意も持っておらず、好奇心から聞いているのだろう。
強者故の心の広さだろうか、モンスターというだけで差別するようなことはしないようだ。
「あぁ。実はな」
俺はローブと仮面を外し、骸骨の頭をラロッソに見せてやる。
興味深そうに俺の顔を見たが、すぐに微笑んだ。
「自我を持ったスケルトンですか、珍しいですね」
「そうなのか?」
「はい。アンデッド族は基本的に生者への怨念で攻撃するようなものですからね、ムルトさんのように自我を持って他の種族の交流するなんて中々ありませんよ」
「ほう。そうなのか。とりあえず、俺がモンスターだということは、この家以外のものには……」
「ははは。大丈夫ですよ。妻もフローラ様も、あの場にいた者は全てわかっていると思います。ミアはまだわかっていないでしょうが、それでもムルトさんを嫌ったりはしないと思いますよ」
「そうか……それでは、ここに滞在する間は、素顔で生活させてもらおう……」
「ずっと仮面をしていては苦しいでしょう?それがいいと思います」
「あぁ」
ラロッソと雑談をしながら過ごしていると、ハルカ達が風呂から帰ってくる。
「お風呂空きました。あなた、ムルトさん、入ってきちゃってください。食事の準備はしておきますね」
「ルアさん、お手伝いいたします」
「ママ!私も!」
「うふふ、2人ともありがとう。それじゃ、2人ともごゆっくり」
ルアもハルカもミアでさえも、俺の骸骨頭を見ても不思議に思っていなかった。
恐らくお風呂でその話をしていたのだろう。切り出したのはルア、そして答え合わせをしたのがハルカだ。
ハルカも俺が聞いたように、俺はモンスター、ハルカは魔族だということを看破されたのだろう。
「それではムルトさん、行きましょうか」
「あぁ」
ラロッソに連れられ、風呂に向かう。
奥の部屋に入り、入り組んだ廊下を進むと、ドアがつけられた場所がある
「脱衣所ですね」
ドアをあけると、簡単な服おきのようなものがあり、俺はそこに装備やローブを置き、腰の月光剣を外し、ラロッソにそれを見せる。
「すまないが、この剣も持っていっても良いだろうか。絶対に抜かないし、預けてもいい」
「風呂にまで持って入るだなんて、大切なものなんですね」
「あぁ」
「そのまま持って入ってもらって大丈夫です」
「あぁ。感謝する」
風呂場は人間やエルフとあまり変わらず、魔法や魔石を使うものだった。
骨を磨き上げ、談笑をし、風呂を出た。
リビングに戻ると丁度食事の用意が終わっており、すぐに夕飯となる。
モンスターの肉や、山菜、色とりどりの食べ物が食卓に並んでいる。
「明日は感謝と歓迎を込めて、豪華にしますね」
「おぉ!なら、狩りに精を出さなくてはな!」
「心遣い感謝する」
「ありがとうございます!」
「うふふ、いいんですよ。ミアを助けてくれたんですもの」
笑顔あふれる食卓は楽しいと思えた。
俺とハルカで部屋を用意してもらい、そこで眠ることになったのだが、まだ夜は更け始めたばかり、俺はラロッソに月が見れないか聞いた。
「申し訳ありませんが、族長からの指示が来ていないので家の外に出すことはできないのです……もしかしたら玄関から見えるかもしれませんが」
ラロッソとともに、家の玄関までいく。
上を見上げると、渓谷の隙間から月が見えた。隙間から見える月に、俺は生まれ育った洞窟を思い出す。
ここのように、茶色い壁を青い月が優しく染め上げ、降り注ぐ光を見上げていた。
外側から、茶色、黒、青と変わっていくのも、なかなかに風情がある。
辺りを見渡せば、ラロッソの家と同じような横穴がいくつもあり、翼をもった男や女が出入りしている。
家を持つ者達なのだろう。
「ムルトさん、どうぞ」
「おぉ、すまない」
ラロッソは敷物とテーブル、イスと酒を持ってきた。
「月が見えなくなるまで、飲みましょう」
ラロッソが酒をコップに注いでくれ、ささやかな乾杯をする。モンスターの肉の燻製を食みながら、ラロッソとともに静かに月を見上げた
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