骸骨が人攫い?
その声の主は、逃げてきた少女のような風貌をしている。白目の部分が黒く、紫色の目をしている。羽が4枚生えているようだ。
「貴様らを消し炭にしてやる!ーヘル・インフェルノー!!」
両手両羽を前に突き出し、大きな炎の球を作り出し、それを打ち出した。
(……これはっ防げるかっ?)
俺は怠惰の魔力を全身に纏い、月光剣を多節鞭へと変化させ、伸ばし、渦を巻くように丸く変形させ、盾を作る。
大きな轟音と共にそれは多節鞭に直撃し、あたりが黒々とした炎に吹き飛ばされた
「ふはははは!!!俺の最大火力を防ぐとは、人間のくせにやるなぁ!だが仲間は守れなかったようだな!」
その言葉に俺は焦り、後ろを振り向く。
ハルカと少女は俺の後ろに変わらずおり、死んではいない。
(仲間……?)
チラリと前を向くと、縄で縛ったはずの男達がいない。消し炭も残らず燃やされてしまったようだ。
別にやつらが死んだことに罪悪感などは湧かないが、どうやら俺はやつらの仲間だと思われているらしい。
「待て!話を聞け!」
「今更命乞いをしても無駄だ!お前はすでに囲まれているのだからな!」
「なに?」
辺りを見渡せば、頭上の男のような天魔族が上空に、地上に、木の上に何人もいる。
様子見をしているようだが、誰もが俺を誘拐犯だと思っていることがわかる。
(誰も俺の索敵にひっかからなかった……俺より格上か)
多数の格上相手に、こちらは守るべき者が2人、勝算は極めて低いだろうが、勝つことが目的ではない!
「待て!この娘は返そう!俺たちはこの道を通りたいだけだ!」
「そう言ってミアを攫おうとしたのだろう!嘘を吐いても自分の首を絞めるだけだぞ!」
「聞け!俺たちは人さらいではない!」
「誰がそんな言葉信じるか!現にミアを攫おうとしているではないか!ー紫線ー!」
指先に紫色の雷がバチバチと音を鳴らしながら集束し、一本の線となり俺に飛んでくる。
「くっ!」
俺は月光剣に変え、その線を反射する。
大木へと標的を変えたその線は大木を容易に切断した。
「面白い武器を使う。俺の武器とどちらが上か?」
懐から単槍を取り出し構えた
「どうしても話を聞かないのであれば、力でねじ伏せてから聞かせてやろう」
「俺を倒したところで、お前が死ぬことに変わりはない」
「待ちなさい」
両者が構えたところで、第三者の声がかかる。それは既に集まっていた者達の声ではなく、新しくこの場に舞い降りた者だ。
三対の翼を持つ、美しい女人、その翼は神々しく、女神と呼んでも間違いではないだろう
「フ、フローラ様」
「少女が人攫いにあったと聞いたが、そやつで間違いないか?」
「ち、ちが」
「はい!こやつが私の娘を!ミアを連れ去りました!そこの女もやつの仲間です!」
どうやらこの少女は目の前の天魔族の父らしい。怒り狂うのも無理はないが、相手を間違えている。
「そうか……そこの者」
「な、なんだ」
「少し左によれ」
フローラと呼ばれた女性がなぜそんなことを言ったのかわからないが、俺は少し歩き移動する
「まずは話を聞いてくれ」
「ー
先ほどの男のように両手両翼を前に突き出し、太陽の如き巨大な魔法を繰り出した。
射線からハルカとミアという少女は外れている。そのために移動させていたのだ。
(これは……防ぎきれない!)
本能でわかるほどの濃厚な死。
見てわかるほどの濃密な魔力。
これが天魔族、魔族とハイエルフを超えた種族なのか……
「あ!ダメ!」
ハルカの声が聞こえる。
死を受けいれようとした俺はすぐに武器を構え直す。
(俺がここで死んでどうする!!)
この魔法を打開するための手立てを考える。思いつく限りを出し尽くそうとする。俺は月光剣を憤怒の斧へと変えた時、少女が飛び込んでくる
「ダメー!!」
ミアが両手両翼を広げ、体から眩い光を放った。すると、太陽のような巨大な火球の魔力が分散し、威力が弱まっているように見えた。
弱まっているからといって、あんな小さな体では耐えきれるわけがない。
俺はすぐに少女へと近づき、心身守りの外套の中へと入れる。
(魔法が付与できるのだ。魔力は通しやすいはず)
ローブへとありったけの怠惰の魔力を注ぎ込み、強化する。
背中に火球が炸裂したのを感じる。
俺は少女を強く抱きしめながら、耐え続けた。
★
「ほんっとうに、すまなかった!!」
目の前には計8人の天魔族がいる。皆が皆地面に頭をつけ、翼をたたみ、俺とハルカへと土下座をしている。
「誤解が解けたならばよいのだ。頭を上げてくれ」
「いや!本当に無礼なことを!娘を連れ去るどころか人攫いから救い出し、身を呈してフローラ様の魔法から娘を庇ったこと……ほんっとうにいくら償っても足りないくらいだ!!」
そう言うのは俺たちが救ったミアという少女の父、ラロッソだ。ひたすらに頭を擦り付けている。
「いや、本当にもう十分だ。顔を上げてくれ……それに、女性が地面に頭をつけているところなど見たくはない」
当然、俺に最大火力の魔法を放ったフローラという女性も土下座をしていた。正直見ているこっちが辛い。
「それは申し訳なく思うが、私も私の過ちを許せない。しばらくはこうさせてくれ」
「もー!フローラ様もお父さんも、お姉ちゃんとお兄ちゃんが困ってるでしょ!」
ミアが腰に手を当て、翼をバサバサと揺らして頰を膨らませている。
「そういうことだ。俺たちは旅をしている身でな、もう行かねばならない」
「そうなんですか?!この渓谷を抜けてどこかに行くのですか?!」
「あぁ、まぁ、そうなるな」
「そうしたら、私はどうやって謝罪と感謝をすればよいのですかぁ!」
「だ、だからそれはもういいのだ。それではな」
とりあえず、俺は先を急ごうと歩き出す。するとローブの裾を掴まれてしまった。
ハルカは隣にいるし、後ろにはラロッソ達がいるが、動いた音がしなかった。つまり残るのは……
「もう行っちゃうの……?」
目に大粒の涙を溜め、上目遣いで俺に問いかける少女がいた。ミアだ。
「すまないな、もう暗いし野宿する場所を探さなねばならない」
俺は腰を下ろし、ミアの頭を撫でながらそう言った。するとミアは満面の笑みを浮かべ、何かを思いついたようだ。
「だったらミアのお家に来てよ!お礼もしたいもん!ね!いいよねパパ!」
「おぉ!お礼もできて謝罪もできる!どうでしょう!私の家にお招きいたします!」
「……確かにありがたいが、いいのか?得体の知れない者を天魔族の住処などに連れて行って」
「大丈夫です!責任は私がとりましょう!よろしいですよね?フローラ様?」
「はい。私は構わない。あなたが村に入るのであれば、上に話をしておきましょう」
フローラがそう答えると、ミアは先ほどの笑みを浮かべ、俺に向き直る。
「だって!お兄ちゃん!お姉ちゃん!ミアのお家に行こ!」
どうやら断れる雰囲気ではなくなってしまったようだ。
天魔族の村、興味がないわけではないし、天魔族と友好関係を築けば、この渓谷を観光しやすいかもしれない。俺にとっても良いことだ。
「私はムルト様についていきますよっ」
ハルカもこういっていることだ。決まった。
「わかった。天魔族の暮らしなども見て見たかった。俺の名はムルト。よろしく頼む」
どうやら、旅は良い方向に進んでいるのかもしれない
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