骸骨と天使の翼
「それではムルトさん、またお会いしましょう」
「あぁ。まただ」
先ほどの謁見を終え、今はエルフの国の出口に来ている。見送りはミカイルだけだ。
「ご武運を」
俺はミカイルに手を挙げ応え、そのまま進んでいく。次に目指す場所は【迷宮都市ラビリス】だがその途中の霊龍の渓谷を通らなければならない。そこには霊龍と、天魔族と呼ばれる種族がいる。ラビリスに行くためには、避けては通れぬ道だ。
ところで、なぜ俺たちがラビリスに向かうことになったかというとだ……
★
謁見を終え、解散しようとしていたところ、ジルが俺を呼び止める
「ところで、ムルトくんは次にどこに行くのじゃ?」
「考えてはいないが、どこか美しい土地がある場所にでも行きたいな」
「そうじゃなぁ……ムルトくんは祭なんかは好きか?」
「祭……参加したことはないが、興味はある」
「おぉ!そうか!ならばエルフの国を真っ直ぐ出て2週間ほど歩いた場所に【迷宮都市ラビリス】という場所があるのじゃが、1ヶ月後に祭があるのじゃよ」
「祭とはどんなことをするのだ?」
「喧嘩祭りと呼ばれておるが、武術大会のようなものじゃ、期間は1週間ほどで、露店なども街中にできて、活気に溢れるのじゃよ」
「露店がか……楽しそうだな」
「興味があれば是非行くといい」
「あぁ。次はその都市に行こうと思う。ジル、重ねて感謝を」
そして話が終わり、謁見の間を後にしようとしたところ、またジルが俺を呼び止めた。
「お、おぉ!ムルトくん!言い忘れておった!」
「こ、今度はなんだ」
「ラビリスに向かう道中には霊龍の渓谷という場所があるのじゃが、ラビリスに最短で向かうのならば、そこを通らなければならぬ」
「渓谷?……景色がよさそうだ」
「ほっほっほ。あぁ、良い景色じゃぞ?じゃが、注意点があっての」
「注意点ですか?」
ハルカが疑問符を浮かべている
「あぁ。その渓谷には天魔族という種族がおっての。基本的に人を嫌ってはいるが、害を成さぬ」
「それなら安心ではないのか?」
「そうなのじゃが、一度怒らせてしまえば、命はないと思った方がよいのぉ」
「そんなに危険な種族なのか?」
「そうじゃ。強さは魔族以上、魔法の扱いはハイエルフの使う精霊魔術並じゃ」
「ふむ……迂回するしか道はなさそうだ」
「じゃが、害意を見せなければ襲ってはこぬ。渓谷を通らせてほしいと言えば、渓谷の出口に案内をしてくれるじゃろう。景色が見たいと言えば、少なくとも見せてくれるかもしれぬ」
「景色は是非見たいのだがな……霊龍には注意をしなくてもいいのか?」
「そうじゃなぁ……ここ1000年ほどは現れたという話を聞かぬし、知力は高いじゃろうし、襲われぬじゃろう」
「ならば安心だろうか」
「恐らく、の」
「わかった。覚えておこう。情報感謝する。それでは今度こそ失礼する」
「うむ。達者での」
★
というやりとりがあった。
天魔族というのがどんな種族かはよく知らないが、元より敵対するつもりは一切ない。
最悪、渓谷の景色が見れずとも、ラビリスの祭に行ければよいのだ。
「天魔族って、どんな種族だと思いますか?」
俺はハルカと談笑をしながら道を歩き続けている。
「そうだな、天使と魔族を足した感じだろうか」
天、魔族、ということだろうか、そういえばジルから容姿や能力のようなものを聞いていなかった。
これでは出会った種族が天魔族かもわからない。
「翼がありそうですね」
「龍人族のようにか?」
「もっと神々しい感じですかね」
「神々しいというのは……アルテミス様のような羽を?」
「アルテミス様って羽があるんですか?」
「いや、ないが神々しいぞ」
「女神様ですからね、それは神々しいでしょう。私の考える神々しいというのは……」
ハルカは笑いながらそこいらに落ちていた木の枝を拾い、地面に絵を描く。
そういえばハルカは絵が上手いのだった。
ハルカが今している狐口面だってハルカがデザインしたものだ。
ハルカはすぐに絵を完成させ、俺に見せてくる
「じゃじゃ〜ん!これが神々しい羽です!」
「ふむ、初めて見たな。鳥の羽とは違うようだ」
「はい!天使の羽です!ムルト様は天使は知っていますか?」
「天使……よくは知らないな。悪魔ならば多少調べたが」
「なぜ悪魔を……」
ハルカと楽しく話しながら、その絵について話をしていると、少女の悲鳴が聞こえてくる。
「誰かー!!助けてー!」
俺とハルカはすぐに声の聞こえてきた方向をに意識を向ける。
「ハルカ」
「はい。女の子は任せてください」
すぐに武器を構える。声のしてくる方向から走ってくる人数は3人、少女が2人の男に追いかけられているのだろう。
こちらからも声のした方に走り、すぐ合流できるようにした。すると、目の前から女の子が飛び出してきた。
浅黒い肌に、真っ白な髪、真っ白なワンピース、花冠を頭に被った少女だ。
驚くべきは、その少女が翼をはためかせながら逃げていること。
先ほどのハルカが描いた天使の羽そのものをバタつかせ逃げている。その両目には涙をためているのだが、その目は、人間でいう白目の部分が真っ黒であり、紫色の瞳があった。
(天魔族か……?)
直感でそう感じとった。その天魔族の少女の後ろから、山賊のような男が3人・・走ってくる。種族がどうであれ、この少女はこの男達から逃げていたのだろう。
「ハルカ!」
「はい!」
ハルカは真っ直ぐに突っ込んでくる天魔族の少女をキャッチし、抱きしめた。
「ひっ、た、助け」
「落ち着いて、大丈夫。お姉ちゃん達があなたを助けてあげるから」
ハルカは少女の頭を優しく撫で、落ち着かせていた。
「おい!そこの小娘をこちらによこせ!」
「それはできない」
「兄貴!早く逃げねぇと!」
「うるせぇ黙れ!目の前に大金があるんだぞ!お前は欲しくねぇのか!」
「だけどよ兄貴!」
兄貴と呼ばれている人間が一番強いのだろうか、何やら揉めているようだ
「なぜこの子を狙う?」
「はっ!そんなのわかってるだろ!天魔族は奴隷商に高く売れる!いや!見世物にするのもいいかもな!」
下卑た笑みを浮かべながら、その男は大きな声でそう言った。
「奴隷商か……」
ハルカもかつて奴隷商に売られ、散々な目にあってきたのだ。
「尚更お前らに渡すわけにはいかなくなった」
「はっ!俺たちは天魔族を捕まえにくるほどの命知らずだぜ?腕っ節でいやぁ俺たちは全員Aランク冒険者ほどの実力!お前1人で勝てるわけがないだろ!なぜ素直に引き渡さない?」
俺も奴らも武器を抜き相対する。
(俺が引かない理由?そんなの決まっている……)
「この子が助けを求めたからだ」
Aランク冒険者ほどの実力を持っていたとしても、身体強化、大罪の魔力、月読、そしてハンゾウから学んだ動きの予測。全てを駆使し、本気でかかる。決着は一瞬だった。
男達の間を駆け、剣を弾き、首筋へと手刀を打ち込んでいく。
「命まではとらない」
「かはっ」
男達は何が起こったのかわからないといった顔で、ドサドサと倒れていった。
武器をしまい、ハルカと少女の元へと戻る。
「どうだハル」
「シーッ」
ハルカは口元で指を一本立て、静かにするようジェスチャーをする。
俺は口を塞いだ。よく見れば、ハルカの胸の中でスヤスヤと寝息を立てていた。
「安心して眠ちゃったようです」
「そうか……それはいいことなのだろうな」
「はい。いいことですよ」
とりあえず休もうかと思い、3人の男達を縄で縛りあげ、一息ついた。
「少女が起きるまでここで休もう」
「はい。そうしましょう」
2人で少女の可愛い寝顔を見つめる。
安心しきっているのか、時々笑みを浮かべている。
(……うむ。よいな)
背中から羽が生えていること以外は、人間の子供変わらない。
「見つけたぞ!人間共!!貴様らの死体はないと思え!」
怒り狂っていることがわかるほどの怒声が頭上から聞こえた。
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