骸骨と葉の湯

ハックがハープでの演奏をやめた


「む?終わりか?」


「はい。私が聞いた話はこれで終わりです」


「そうなのか」


「ムルトさんの言いたいこともわかります。私も続きが気になります。ですがこの話を聞き周辺の童話や神話などを調べたのですが、それらしい話はありませんでした」


「そうか……」


残念でならなかった。俺はアルテミス様のことをよく知らない。知りたいと思っているが、知り方がよくわかってはいないし、この話の続きをアルテミス様本人に聞くのは失礼だろう。


なんとも悲しい話なのだろうか


「私は話の続きはあると思っています。それこそ神のみぞ知る。でしょうけどね。さ、次はムルトさんのお話を聞かせていただきましょう」


「そうだな、わかった。それでは……俺の生まれた洞窟の話から」


俺はハック、そしてジルやバルギークらにその話をした。

洞窟でポップするスケルトン、いつしか俺は月を見上げ、物を考え、人と出会い、剣と出会い、外に出ることを決意した。

決して楽なことばかりではなかった。

種族や容姿の違いから恐れられ襲われることもあったが、仕方ないとも思っていた。


そしてエルフと出会い、ハルカと出会い、その他大勢、俺は今まで関わってきたもの全てに感謝をしている。


1人で見た湖も、共に行った天の川や黄金の泉も、俺にとっては全てがかけがえのないものだ


今日に至る日までのことをすべて話した


「うおぉぉぉ!!ムルト!お前、苦労したんだなぁぁぁ!!」


大声をあげながら、バルギークが男泣きをしているようだ。


「本当に、よく頑張ったわね。ほら、お姉さんの胸の中で泣いてもいいのよ」


「いや、俺は涙を流せなくてな」


「それでもよ、ほら」


俺はそう言われ、ファッセに抱き寄せられた。気がつけば、そのパーティに参加している者全員が集まり、俺の話を聞いていたようだ。

謁見の間に残った衛兵だけでなく、パーティの準備などをしたメイドや執事、コックなども涙を拭っているようだった。


「ムルトくん、君は君だ。種族など関係ない。儂達エルフは君たちを歓迎しているよ。

さぁ!今夜は食って飲むのだ!」


ジルが俺のグラスと自分のグラスに酒を注ぎ、一気飲みをする。


「うむ。美味だ」


「飲んで騒ぐのじゃ!ハック!ノリの良い曲を一曲!」


「任せてくれ」


ポロロン、という気持ちの良い音色が聞こえる。先ほど物語を聞かせてくれたような落ち着いた早さではなく、まるで熾烈な戦いのような胸踊る曲だ


「ムルトォ!!腕相撲だぁ!」


バルギークが机の上に腕を乗せた


「腕相撲?」


「知らねぇのかぁ?教えるより見る方が早いな……ミカイル!」


「……私は女性ですよ?」


「はぁ?つっても地力がバカになんねぇだろ!さぁこい!」


「……」


ミカイルは無言で机に腕を置き、バルギークと手を繋ぐ


「身体強化一切なし!地力のみでの力比べ!陛下!」


「構えて〜……始め!」


ジルの掛け声とともに、2人が力む。

拮抗していた。


「バルギーク、また強くなったんじゃない?」


「ふんぬぅう……」


「まだまだだね」


ミカイルはそう言い、決着がついた。バルギークは勢いよく倒されてしまった。


「ムルトさんに勝負を仕掛けておいて、私を選ぶなんて、おかしいでしょ」


バルギークは酒が回っているのか、目をぐるぐると回しながら気絶してしまった。


「さぁ、ムルトさん、やりましょう」


俺は受けて立つ。そして代わる代わる腕相撲をしていくととなる。

俺はミカイルに負けてしまった。

強かった……





「お開きじゃな、皆の者、楽しめたか?この平和は皆のおかげであり、民達のおかげだ。

その平和を守るため、より一層励んでくれ!」


「「「はい!!」」」


メイド達は食器を片付けたり掃除を始めたりしていた。

俺も着替えるために待合室に戻ろうとすると


「ムルトくん、ハルカちゃんついてきなさい」


「む?いいだろう」


俺たちはそのままジルへとついていく。

どうやら城の外に出たようだ。


「ムルトくんはお風呂も好きなんじゃよな?」


「あぁ。好きだ。気持ちがいい」


「そして月も好きと」


「一番好きだ」


「そして世界樹も見たい」


「あぁ」


ジルはもったいぶっているようだ。

何を言いたいのかわからない


「とりあえず、ついてきておくれ」


コンコン、と杖で地面を叩くと、風が俺たちを包み、上昇していく

重心がブレることなく飛んでいくのは、魔力のコントロールが素晴らしく上手いということだ


「どこへ?」


「ほっほっほ。ついてからのお楽しみじゃよ」


上空に上がりながらも、段々と世界樹へ近づき、木々の隙間を縫って高く飛ぶ。

とうとう世界樹を突き抜け、空が見える。


久しぶりに見た青い月が、いつものように優しく世界を照らしている


「ほぉ……美しい」


「ほっほっほ。まだまだ」


ジルはそう言い、一枚の葉に着地する。

その葉は、さっきのパーティ会場ほどの広さがあるほど巨大だ。


ジルはカッカ、コッコ、コツコツ、カカッと連続で魔法を発動したようだ。

1つ目の魔法で葉の周りをコーティングし、2つ目の魔法で水を生み出し固定する。

3つ目の魔法で水を温め、そして4つ目の魔法で脱衣所を作った。


「さぁ!即席の風呂だ!月も見れ、世界樹で風呂に入れるという贅沢じゃ!」


俺は風呂が作られるまでに行程に驚いていたが、ジルに振り向きこう言った


「世界樹は神聖なものだろう?こんなことをしていいのか?」


「ほっほっほ。確かに神聖なものじゃがな、だからといって腫れ物を扱うように慎重に使いはしない。大切にしているからこそ、多少の無理をさせてもらっているのじゃ、さすがにこんなことができるのは今日1日だけじゃが、許してくれ」


「いやいや、実にありがたい。感謝する」


ジルに礼を言うと、そそくさと服を脱ぎ出した


「当然儂も入るぞ?ハルカちゃんは大丈夫かの?」


「大丈夫です!私はムルト様一筋ですから!」


「ほっほっほ、いい彼女じゃないか、ムルトくん」


「彼女……ハルカは俺の仲間だが?」


「ほっほっほ。難儀じゃのぉ〜」


それから俺もハルカも服を脱ぎ、風呂に浸かる。ハルカはタオルを巻いているようだ。

ジルと談笑していると、ミカイルとバルギークも飛んできた


「やっぱな!風呂に入ってると思ったぜぇ。俺たちも入っていいか?」


「俺はいいぞ」


「儂も大丈夫じゃよ。久しぶりじゃからな、皆で楽しもう」


「ひゅ〜何百年ぶりだぁ?樹の葉風呂は」


「140年ぶりでしょうか」


ミカイルとバルギークも服を脱ぎ、風呂に入る。ミカイルもタオルを巻いている。


その後もファッセ、ハックとクルシュも来た。皆で湯に浸かり、月を観賞する。


「そろそろ骨を磨くか、ハルカ、手伝ってくれ」


「はい!お任せください!」


「私も手伝いましょう」


「あら、私も手伝うわよ〜?」


「ムルトさん、私にも任せてください」


皆が手伝ってくれるようだ。手分けをした方が早く終わる。俺は骨を取り外し、皆に渡していく


「ちょ、ちょっとみなさん!ムルト様を綺麗するのは私の仕事ですー!」


「「「鈍感なんだからいい(でしょう・じゃない)」」」


なぜだか俺の部位の争奪戦が始まってしまい、自分で磨く予定だった箇所も磨かれてしまう。そんな女性陣を、俺は頭蓋骨だけをジルに抱えてもらい、見ている


「モテるねぇ〜ムルトぉ」


「あれがモテると言うものか」


「ほっほっほ、ムルトくんはそういうのには疎いのじゃな」


「む?なんの話だ?」


「曲を思いつきました。聞いてください『恋の芽吹きは、骨の中から』」


ハックがどこからか出したハープで曲を奏でる。

まるでパーティの続きのように、楽しい夜は続く


(ふむ……平和だ)


空に浮かび上がる青い月、目の前で天に向かい伸びている世界樹、そして周りの友人と、俺を磨いている女性たち、楽しく温かい夜だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る