勇者と角骸骨3/4
1分間、ミナミが戦線に加われない中、3人でアンデッドの大群を抑えるしかなかった。
しかし、ジャックは戦意を喪失。サキとハンゾウは、先ほどまで4人で戦っていた大群に2人で挑まなければいけなかった。角の生えたスケルトンは継続的にミナミへ攻撃を仕掛けている。その都度ハンゾウは分身を当て、その数を減らしていた。
まさに劣勢。
サキは先ほど使った極大魔法のせいで魔力とMPはほとんど残っておらず、無理やり体を動かしている。
ハンゾウも同様で、忍として育ってきた彼、1週間ほどであれば、何も食べなくても戦い続けることができる。だが、勝手のわからない世界に、勝手のわからない敵、そして勝手のわからない魔法を乱発していることで、体力を消耗している。何よりハンゾウがMPを割いているのは分身だ。そしてそれは確実に一体ずつ消えている。ハンゾウはさらに分身して数を補充している。
角の生えたスケルトンが飛び込んでくる間隔がだんだんと狭くなっている。それを阻止するためのハンゾウの分身は一気に数を減らしていく
「つ、辛いです」
サキはハンマーを振り回し、数人のハンゾウと共闘をしている。
体はフラフラ、大きな魔法も使えず、ずっと肉弾戦をしている。弱音のようなものも出てしまうだろう。
「でも」
ハンマーを握り直し、肩にかける。
「ミナミちゃんが諦めてないんですもの。私も諦めませんっ!」
目の前にはグール、レイス、デュラハン、戦線が乱れてしまったことで、敵のモンスターも混ざってしまっている。
ホラー映画などが苦手なサキは、グールやレイスを見ると、震えて逃げしまう。はずだった。
でも今は違う。震えながらも戦っている。
なぜなのか?それは簡単で、グールやレイスよりも怖いものができたからだ。
それは、仲間の死
ハンゾウもまた、戦っている。
魔力もほとんど尽き、己の技のみで戦っている。だが、ここで自分が倒れるわけにはいかない。
(俺よりも若い者達が頑張っているのだ。それに)
ハンゾウが倒れてしまえば、ハンゾウの分身達は消え去ってしまう。
皆の体力は少なくなってきており、そうなってしまえば数で圧され負けてしまうことになってしまう。それをハンゾウは良しとしなかった。
(やっと会えた。心も体もしっかりしており、器もそして人を引き寄せる何かがある。そしてなにより)
ハンゾウが思い浮かべるのは、今日出会った少女だ。自分のはるか年下、ハンゾウはその少女に惹かれていた
(俺の主にふさわしいお方だ)
ジリジリと追い詰められるハンゾウ達だったが、誰もがまだ諦めていなかった。
(分身が全て消されても、俺が……いる)
死ぬ覚悟はできている。だが死ぬわけにも、殺させるわけにもいかなかった。死にものぐるいで、戦い続けた。
(みんな……ありがとう)
ミナミは心から戦ってくれている皆に感謝をしている。それはジャックへの感謝も含まれている。
目を瞑り、精神を研ぎ澄ませ、段々と耳も冴えてくるが、戦闘の音は小さくなっていく。
聞こえるのは自分の呼吸と、心臓の鼓動、手足の感覚を研ぎ澄ます。
(まだ……まだ)
自分の心を落ち着かせ、完全に1人の世界へと入ったミナミ。
ミナミが今感じとっているのは、自分自身と刀、そして集中させた神経をぶつけるべき相手、角の生えたスケルトンだけである。
それでも精神統一は未だ不十分であり、今もなお意識を集中させている。
その精神統一が終わるまで、残り20秒ほど、ミナミへ危険が迫る。それに気づいたのはハンゾウとサキ、ミナミの後ろからデュラハンが迫っていたのだ。
(くっ!ここからでは……!)
(間に合いません!)
ハンゾウとサキは、ミナミに起こる悲劇を想像してしまう。残り10秒もあれば角の生えたスケルトンを討伐できるというのに。
ミナミを助けられる人物は、近くにいるジャックだけ、しかしジャックは折れていた。短剣を握ってはおらず、背中に浮いていたはずの短剣も地面に落ちている。
絶望的だった。
しかし、その男は立ち上がり、再び戦場を駆ける
「らぁっ!!」
デュラハンの凶刃を右手の短剣で受け止める。だが、それだけでは決定打になりはしない。左手は使えないはずだった。
しかし、聖天魔法の魔力が宿った短剣は、確かにデュラハンを一刀両断する。
「どうふぁ!」
ジャックは、口に短剣を咥え、それでデュラハンを倒していた。
その瞬間に、角の生えたスケルトンを身を呈して足止めしていたハンゾウの分身、最後の1人が消えた。
角の生えたスケルトンはすぐに身を屈め、ミナミへ向かおうとしていた。
「やふぁい!」
ジャックは助けに入ろうとしていたが、ミナミを見てそれをやめた。
ミナミの空気が変わっていたのだ。
(居合の型、無幻一刀……)
ゆっくりと目を開け、目の前のスケルトンを捕捉する。刀に手をかけ、するりとそれを抜刀した。
「ー
目にも留まらぬ速さで抜刀し、納刀する。
カチリ、と鍔と鞘が当たる音がした。
目の前のスケルトンは、空中で動くのをやめ、その勢いだけが残っていた。徐々に体が傾き、細切れにされる。
無敵の剣撃、全てを切り裂く無敵の刃、それは、空間をも切り裂く力を持つ。
「ふっ、は、はっ、ふっ……」
ミナミは膝をつき、荒々しく呼吸を整える。
無防備になったミナミを守るため、3人は集まった。
「大丈夫ですかっ!ミナミちゃん!」
「大丈夫か!」
「天晴れだ」
「ふっ、ふっ、ご、めん、なさい。もう、戦え、ない」
「後は任せろ!この数だったら俺たちでなんとかする!」
「た、たの、む」
3人は目の前の軍勢を見る。数にすれば100体ほどだろうか。万全な状態であれば、すぐにこの数を倒すことができるだろう。
だが!今の3人は満身創痍、ミナミのようにいつ倒れてもわからない状態だ。戦う力が微塵も残っていなかったが、誰もがまだ諦めていない。
「サキ!ハンゾウさん!やろう!」
「はい!」
「御意!」
勝ち筋のない戦いに、3人は挑んだ。
体力も魔力もない3人が勝てるはずもなく、防戦一方、簡単に追い詰められていく。
アンデッドの凶刃が、3人に襲いかかろうとしていた。
(くそっ!すまねぇ!俺のせいで……!)
ジャックもサキも、ハンゾウやミナミさえも死を覚悟した。ここにいるのが最後まで4人であれば負けて死んでいた。
最後まで
「ー
「串塊特球!!」
聞いたことのない2人の男の声、4人はその男達に助けられた
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