勇者と角骸骨4/4

ミナミ達に襲いかかろうとしていたモンスター達の間に、大きさも種族も違う多数のアンデッドが召喚され、その脅威からミナミ達を守った。


その後すぐに、後ろのアンデッド達へモーニングスターにも似た鉄球が襲いかかり、粉々に粉砕していく。


4人は声の聞こえた方向を見る。

紫のローブが風にたなびき、隠していたはずの骸骨の顔が見えている。

そしてその隣には、無数の針の飛び出ている鉄球を宙に浮かせている赤白髪の男。


ミナミとハンゾウは、見覚えのある骸骨の顔を見て、ついつい声を漏らしてしまう。


「ムルト、さん?」


「ムルト?」


その声はその骸骨に届いていたようで、その骸骨はミナミ達に向かって話した。


「む?私はムルトではない。ムルトは友だ。

と、話は後にしよう。すぐに片付ける。休んでいろ」


そういうとその骸骨は魔力を練り、新たな魔法を発動させる。


「さぁ、我らの力を見せてやれ。ー殺戮の時間アサルトタイムーだ」


敵の攻撃を持ちこたえていたモンスター達の体が赤黒く光だし、さらにその力を増し、押し返していた。

その後はすぐだった。

突如現れた2人が残りのアンデッド達を倒していく。

圧倒的だった。その強さはミナミ達やハンゾウにも引きをとらないほどに


最後のレイスを倒したところで、骸骨が話しかけてくる。


「とりあえず場所を変えよう。近くに街などはないだろうか」





廃城での戦いの後、骸骨と赤白髪の男が4人を抱え、廃城の下にあった廃村の家の中へときていた。

アイテムボックスの中からミナミ達は食事やポーションを取り出し、食べている。


「さて、まずはお礼を言わせていただきます。お助けいただきありがとうございました」


「あぁ。気にするな。それより、ムルトを知っているのか?」


「はい。スケルトンのムルトさんですよね」


「ミナミ達もムルトを知っているのか」


「ハンゾウさんも?」


「あぁ。少し前まで稽古をつけていた」


「ハルカも一緒でしたか?」


「あぁ」


「ミナミとやら、ムルトと会ったのはどこでだ?可能ならばまた会いたい」


「私が出会ったのはここから遥か南にあるカリプソという港町ですので、手がかりにはならないかと、ハンゾウさんはどうですか?」


「俺がムルトとの別れたのは数ヶ月前、俺が自分の住んでいた洞窟を出たのが1週間前だ。俺も手がかりにはならないだろう」


「ふむ。そうか。わかった。それで、あのアンデッドの大群はなんだったのだ?」


「それをお答えする前にお聞きしても?」


「なんだ?」


「その、あなたはどなたでしょうか?」


ミナミは恐る恐るといった感じに、その骸骨へと問いかける。


「そういえば自己紹介がまだだったな。我が名はティング、種族はワイトキング、Sランクだ」


「俺の名はゴン、こいつの相棒みたいなもんだ」


「なるほど……ムルトさんとお知り合いなのですね」


「あぁ。私以外で初めて自我を明確に持っている友だ。ハルカという娘も友だ」


「ハルカは無事なんですね……よかった」


「そういえば、ハルカについてなのだが、ミナミ達は疑問を持っていたな」


「疑問?ですか」


「美徳スキルの持ち主についてだ。俺もミナミ達も美徳スキル持ちは4人だと思っていたが、俺とミナミ、ジャック以外のもう1人」


「それは、慈愛の美徳持つカグヤさんではなく?」


「カグヤ……カグヤも知っているのか」


ティングが独り言のように呟いた。

ミナミ達はそれを気にせず話を続ける。


「あぁ違う。俺が知っているのは、堅固の美徳、ハルカだ」


「えっ、それは、つまり」


「あぁ。ハルカは美徳のスキルを持っている。間違いない」


「ハルカを合わせて美徳スキルを持つ者ハルカは現時点で5人……残ったのは希望と信仰」


「ミナミ達はハルカを追っているのか?」


「ハルカは個人的に心配です。私たちは美徳スキル持ちの人たちをきたる日に向けて探しているのです」


「なるほど」


「ハンゾウさんがよければ一緒に来ていただきたいのですが」


「ふむ。ついて行くのに文句はないが、こちらからも願いを出して構わないか?」


「えぇ。私たちにできる範囲であれば」


ハンゾウは決心を決めたように姿勢を正し、正座になる。拳を地面につけ、ミナミへ頭を下げた


「是非、我が主君になってはいただけないだろうか」


「えっ?!私がですか?」


「あなた以外にありえない。あなたの心意気、生き様を見て決めた」


「え、で、でも」


「断られても勝手に仕えるがな」


「えぇっ?!」


ミナミは驚き、水を零してしまった。サキも驚いていたが、風魔法でその水を集め、コップに戻す。


「その話はさておき、今後の話だ。まず王都に戻って報告をするとして、その後はどうする?」


「え、えぇと、報告を終えた後はやはり」


その場にいる全員の目が片腕でご飯を食べているジャックへと向けられる。

ジャックはそれに気づき、何もないという笑顔で言った


「俺のことなら気にするな!まだ足がある!」


「でも」


「いいんだ。これは俺の失態。なんとかするよ」


「魔法ならばなんとか治せるのではないか?」


ゴンはなんとなく話を察し、そう言った


「死者を蘇らせるのが無理なのは当然だとして、部位欠損を治す魔法はないんです」


この中で一番魔法を扱えるサキが言う。


「なんとかならないのか」


「大丈夫だって!さっきみたいに口に咥えて戦えばいいんだ!」


「ジャック……」


「ごめんな」


誰もが諦め、重い空気が部屋を満たした。

次の話題に移ろうとした時、ティングが手を挙げた


「重い話の中悪いが、その腕どうにかなるかもしれない」


「え?どうすればっ!」


前のめりにティングに詰め寄るミナミを無視し、ティングは続きを話す


「何かのアイテムだったか、エリクサーとか言ったか、部位欠損を治せる薬があるらしい」


「どこに?」


「それはわからない。俺が知っている人物はそれを見たことがあるらしい。目の前で効能を見たとも、確か……戦って手に入れたとかないとか……」


諦めていたみんなの心に火が灯る


「まだ可能性はあるってわけねっ!」


体力が回復し始めているのか、ミナミは嬉しさのあまり立ち上がった。


「でも、本当にあるかどうかなんて」


ジャックはそれでもなお弱音を吐いている。そんなジャックにミナミはきつく問いかけた。


「ジャック、あなたは腕が治るとしたら、治したい?それとも、治る可能性があるのに、諦めるの?」


ジャックは押し黙った。その後ら嗚咽や涙を流しながらミナミの問いに答える。


「諦められるわけ……ないだろ……俺のせいで、ピンチになったんだ。俺は戦える。お前らを守るために、戦いたいんだ」


「なら決まりね!そのエリクサーを探しに行きましょう!」


「「「おぉー!」」」


「ティングさん達はどうしますか?」


「旅を続けるつもりだ」


「その、よければ私達と共に」


「その申し出とても有難く思うが、見ての通り私はモンスター。君たちの冒険の邪魔になるだろう。すまない」


「大丈夫です!私達は勇者です。腕に覚えはありますし、ティングさんたちも困らせません」


「……いいのか?」


「はい」


ティングとゴンは顔を見合わせる。


「俺はお前に勝手についてきてるだけだ。お前が決めてくれ、この旅は、お前のためにある」


ゴンは優しくティングにそう告げる。ティングは頷き、ミナミに頭を下げた


「すまん。世話になる」


「はい!任せてください!」


そして、各々の方針は決まっていく





「じゃ、ミナミ、俺たちは」


「えぇ。ハンゾウさん、よろしくお願いします」


「任せてくれ」


「それじゃ」


話がまとまり、各々は廃村を後にする。

ミナミ、サキ、ティング、ゴンは王都に向かい、今回の件を報告した後、エリクサーを探しに出る。

ジャックとハンゾウは別行動をすることとなる。

というのも、ジャックがハンゾウに稽古をつけてくれるよう頼んだからだ。

もしもエリクサーが見つからなくても片腕でも戦えるように、と


ミナミ達を見送り、ジャック達も移動しようとした時、ジャックがハンゾウに言った。


「ハンゾウさん。腕ではなく、足を中心に鍛えたいのですが」


「片腕で戦えるようになりたいのではないのか?」


「はい。ですが、僕の武器は足です。それに」


ジャックはミナミ達が行ってしまった方向を愛おしそうに見つめ


「ミナミが必ず見つけると言ったんです。俺はそれを信じる」


「そうか。わかった」


回復と言っても万全ではなく、2人はゆっくりと歩き始めた。

優しい風が吹く中、ハンゾウは期待せずにはいられなかった。


(この少年も、強くなる)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る