骸骨と謁見
コンコン
家のドアがノックされる。時間通りにミカイルが来たようだ。
俺は家のドアを開ける。
「おはようございます」
清々しいほどの笑顔をしたミカイルが立っている。
俺は、昨晩気づいた月が見えないことをミカイルに連絡しようと思ったのだが、これほど広く、便利な家を用意してくれ、夜だったということもあり連絡はしていなかった。
だが月の見えないショックもあり、昨日は寝付けず、ずっと魔力循環などをし、迎えの時間が来る頃にローブや仮面をつけて準備をしていた。
「あぁ、おはよう」
「昨晩はよく眠れましたか?」
「あ、あぁ……ぐっすりだったよ」
そう答えたが、俺は昨晩のショックで眠れず、魔力循環の合間にフォルの大冒険を読んでいた。
俺は下を向いていたようで、ミカイルはそんな俺を心配をしてくれていた。
「あ、あぁ、すまない。今から移動するのだな?」
「はい。食事などはもうお済みでしょうか?」
「あぁ。材料もキッチンもあるからな、使わせていただいた」
「畏まりました。それでは荷物を持ってついてきてください」
ミカイルは一緒に来ていたエルフの1人に何かを言い、それを聞いたエルフはどこかに行ってしまった。
「それでは、どうぞこちらへ」
ミカイルはそう言って、馬車のようなものの中に俺たちを招く。
「これは?」
「フォレストラジディアというモンスターです。森や私たちと共存していて、こういった乗り物を引いたりしてくれているんです」
「なるほど」
フォレストラジディアというのは、見た目は鹿なのだが、その体が木の根のようなもので覆われている。
体毛のようなものらしいが、個体によって花なども咲いている。たくさんの綺麗な花を咲かせているオスほどメスにモテるという。
迎えに来たのは、ミカイルを含めて5名。
今は1人どこかへ行ってしまい4名であるが、ミカイル以外は弓や皮鎧といったように装備を整えており、厳重に俺たちを警戒しているということだろう。
俺たちとミカイル、他3名という感じに乗り物は別れた。
「これからどこへ行くのだ?」
「はい。危険なところなどではありませんよ。昨日も言ったように、滞在期間などの話し合いをする前に、会いたいと言っているお方がおられまして」
「それは誰のことだ?」
「……申し訳ありません、口止めされていまして」
ミカイルはそう言って、苦笑いをしながら申し訳なさそうに頭を下げた。
ミカイルが口止めをされているということは、ミカイルより上の立場の者なのだろう。
俺たちの滞在がそんな大事な物になってしまい、それの仲介のようなものをミカイルにしてもらっている。感謝はすれど、怒ったりはしない。
俺はミカイルに感謝を述べ、謝罪はいらない。と応えた
「ところで、世界樹にだんだん近づいているようだな」
「え、えぇ、まぁ……ムルト様はお城に入ったり、王様と話すのはお嫌いですか?」
「む?どうだろう。そういったことは今までになかった気がするが……ローブや仮面を脱がなければならないのであれば、それは嫌かもしれない」
「そう、ですか……実はですね、今はエルフの国のお城と言われる場所に向かっているのです」
ミカイルはまたもや申し訳なさそうにそう言った。
「なぜ向かっているのだ?」
「申し訳ありません。口止めされています。あっ!で、ですが!命が危ないとか、歓迎していないということではありません!それだけは言えます!」
「ふむ……大体わかった」
さっきの話といい、城に向かっていることといい、恐らく今からエルフの王と謁見することになるのだろう。
口止め、とは言っていたが、ミカイルも何をするかは教えられていないのだろう。
窓から見る世界樹の大木は、なおも近づいている。ふと、街の風景に目を向ける。女子供、皆美しく、若い。
エルフは長命の種族だということも、成長が早く、ある一定の期間に入ると、見た目はあまり老いなくなるらしい。
そんな中、1人の女エルフと目があった。
馬車の中からでもわかる、魔力の保有量、そして腰に挿した剣は、魔法を駆使しながら戦い、魔法が使えなくなっても戦えるよう想定された剣だ。
何気なく目を合わせた女エルフは、その強さとは裏腹になんとも美しく、少しだけ、目が釘付けにされてしまった。
驚いたような顔をした女エルフが、俺のことを見ながら口元を動かした
『フォル』
彼女は確かに、俺を見てそう言った
★
「もうつきますね」
ミカイルはそう言って、世界樹の大木に向かって真っ直ぐ行った道を曲がる。
世界樹から少し離れた場所に、城はあった。
城、と呼ぶにはいささか慎ましい。
3階建てほどの建物で、横に長い
「人間の城とは違うでしょう?」
「あぁ。だが、貫禄はあるな」
全てが木で作られているのだが、材質のよい木をふんだんに使っているのが見てわかる。
ミカイルはフォレストラジディアを部下に任せ、俺たちを客間へと通した。
「それでは私はムルト様とハルカ様が到着したことを知らせに行ってきます。何かあれば、木板で連絡してください」
「あぁ。わかった。それと、武器はどこに預ければいい?」
「はい。武器などは携帯したまま、ローブなども着たままで構わない、と陛下は仰っておりました」
「なに?それはさすがに甘すぎるというものではないか?」
「確かに私もそうとは思いますが……紹介状の件などを踏まえてのことで、私自身はまだ会って日も浅いですが、ムルト様はそのようなことをする人……には見えませんので」
「ふむ……わかった。ありがとう。私も、この剣はとても大事なものでな、できるものならば肌身離さず持っておきたいのだ。万が一のことがない限り、謁見の間で剣を抜くことはないと誓おう」
「はい。ありがとうございます。それでは」
ミカイルはそう言って、部屋を後にした。
「えぇと……私は仮面を外した方がいいでしょうか」
「俺が被ったままなのだから、良いのではないか?」
「私だけ外しているというのも不自然になってしまいますものね」
とりあえず、客間では装備を外したりせず、2人で会話をしながらミカイルが戻ってくるのを待っていた。
ほどなくして、部屋のドアがノックされる
「入っていいぞ」
「はっ!失礼致します!ムルト様、ハルカ様、お迎えにあがりました!」
入ってきたのは知らないエルフだった。
鎧や兜、弓を携えていることからこの城の衛兵だろう。ミカイルが迎えにくると思っていたので、少し驚いてしまった
「あ、あぁ。感謝する。ミカイル殿は?」
「はっ!ミカイル様は謁見の間にて既に待機しております!お二人を今から謁見の間へとご案内致します!」
迎えに来たエルフは元気にそう言った。
俺たちはとにかく、そのエルフの後ろをついて歩き、謁見の間だと思われる大きな扉の前に辿り着く。赤く大きな門には、何やら魔法が付与されているようだった。
門の横には2人の門番がついている。
「お待たせいたしました!ここより、謁見の間となります!」
「あぁ、感謝する」
俺たちを連れてきてくれたエルフが、門に備え付けられているノッカーのようなものを大きく4回打ち鳴らした
「ムルト様とハルカ様をお連れいたしました!!」
「入れ」
門の中からは、深く重い声が聞こえた。
大きな音ともに、門番が2人で門を開け、俺たちは中に入る。
謁見の間には、何十人というほどのエルフたちがいた。
赤いカーペットのようなものがひかれており、両側には机があり、様々なエルフたちが座っていた。
少し太っているエルフ、筋肉がはち切れんばかりに膨らんでいるエルフ、胸の大きいエルフ、まだ子供のエルフも座っていた。
その机の前にも、何十人とも言えぬ衛兵が一糸乱れずに整列している。
バタン、と大きな音をして、後ろの門が閉まったのがわかった。
門が閉まったのを確認してから、目の前の玉座に座っている、エルフでも初めて見るほど老いており、髭を生やしているが、若さを感じるものが、先ほど門の外で聞いた時と同じ声を発した
「初めましてじゃな、この国の王をしている。ジル・ボット・ゴルニーニという」
王様、ジルがそう名乗った瞬間、謁見の間の空気が一気に冷えたように感じた。
顔が締まっているのだ。
重苦しい空気の中、それは始まった。
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